#1231/1336 短編
★タイトル (PRN ) 99/12/15 20: 3 (189)
『それはまるで魔法のような・・・』 梓名 健一(代理UPbyジ
★内容
僕はパソコンのディスプレイから目を離すと、背伸びをした。
「終わった・・・」
僕は今まで学校の課題レポートに悪戦苦闘していた。自分に出されている課
題ならこんなに手こずることはないのだが・・・、他人のとなるとめんどくさ
い。しかも、下手すると僕がやったって事がバレてしまって、自分の点数が引
かれるかもしれないというリスク付きだ。
始めは、
「課題のレポートが終わらなくて、変わりにやってくれ」
と、言われただけだった。
どうしても、欲しい本がある僕にとってレポート1つやるだけで、図書券三
千円分は十分魅力的だ・・・と考えてしまって引き受けたのがまちがいだった。
蓋を開けてみれば、今まで授業した分のレポートをやらなくてはいけなかった・
・・。
最初は、”詐欺だぁー!”と叫んでいたが、引き受けたからにはやるしかな
いと腹をくくり、休み2日間を徹夜してようやく全レポートを仕上げた。ここ
まで念入りに細工すれば、僕がゴーストライターをしたとは思われまい。
ハードディスクに保存しておいた内容をフロッピーディスクに落とそうと鞄
の中を調べるが、彼からフロッピーディスクを受け取っていない事をすぐに思
い出した。
「しかたない・・・。違うフロッピーに入れて持っていってやるかぁ・・・」
僕は机の真ん中の引き出しを開いた。フロッピーやら大事なものは大抵ここ
にいつも入れている。しかし、今日にかぎってフロッピーが見あたらない・・・
。
「あれ、おかしいなぁ。フロッピー切らしてたっけ?」
1〜2分、引き出しの中を探していると、奥の方にようやくフロッピーを発
見した。
「なんだぁ、奥に入ってたのかぁ」
僕はフロッピーを取り出した時、フロッピーが置いてあった場所の下にポラ
ロイド写真があるのに気づいた。
僕はフロッピーをパソコンのドライブに入れてレポートをコピーすると、そ
の写真を手に取った。ポラロイド写真にはピースをしている女の子が写ってい
る。
「そういえば・・・元気なんだろうか?」
僕が感傷的になっていると、突然携帯の着メロが鳴り始めた。せっかくの3連
休の最後の日なんだからほっといてくれ、と思いながら携帯を手に取った。
「もしもし?」
”おぉ、俺だけど・・・レポート出来上がった?”
「あぁ、ついさっきな」
僕は不機嫌そうな声を出すつもりはなかったが、眠気のため、不機嫌そうな声
を出してしまった。
「まぁ、そう怒るなよ。フロッピーを渡さなかった俺も悪かったからさぁ。ち
ゃんと報酬は払うって。今から取りに行くから、駅前のコンビニで待っててく
れ」
彼は自分の用件だけを喋るだけ喋ると、すぐにきってしまった。
「僕の意見は尊重されないのかぁ・・・?」
しかたなく、持つモノをポケットの中に入れると家を出た。
コンビニに着いてから15分が過ぎた・・・。
「あのヤロウ・・・もう着いてもいい時間だろうが・・・」
僕は意味もなく愚痴をこぼしてから、女性雑誌コーナーの方に目を向けた。
なつかしい・・・。
あのポラロイド写真を見ると、いつも昔の事が僕の頭の中を駆けめぐってい
た。
ちょうど・・・3年前ぐらいだ。僕と彼女の出会いは・・・。
高校に入学してから始めて、外国の先生とコミュニケーションの授業をする
ために、TTルームという教室に来ていた。
春先で、昼食を取った午後最初の授業。条件は全て揃っている・・・そう、
僕は無性に眠かった。
TTルームに入るなり、僕は自分の出席番号の席に腰掛けると自分の腕を枕
変わりにして眠る体制になっていた。
2〜3分ウトウトしていると、鈍い音と共に背中に衝撃と激痛が走った。最
初は何が起こったのか分からなくて少々パニックになっていた。とりあえず自
分を落ち着かせてから周りを見てみると、足下近くに辞書が落ちているのが確
認できた。
「すいません!すいません!大丈夫ですか?」
僕が座っている真後ろから声が聞こえたので振り向いてみると、そこに授業
道具を持ったままオロオロしているショートカットで小柄な女の子がいた。ど
うやら、この子の辞書が僕の背中に落ちたらしい・・・。
「あ、ああ、大丈夫だよ。それにしても、こんなに後ろの幅があるのに、辞書
を人の背中に落とすかぁ?」
僕は愚痴をこぼしながら、落ちている辞書を拾うと彼女に手渡した。
「すいません。私っておっちょこちょいなもんで・・・」
その後、彼女は一瞬僕の目を見つめると、自分の席の方へ駆け足で行ってし
まった。
(人の背中に辞書を落とすのもおっちょこちょいの分類に入るのだろうか?)
ふっと、何か握りしめている事に気付いた僕は、手を広げてみた。手のひら
にあったのは1枚の紙切れ・・・
”ピエロは言った
「それはまるで魔法のようにに一瞬の出来事。だけど心に深く記憶される」
ピエロはおどけながらそう言った。”
そんな、文章が書いてあった。
彼女のだろうかと思って彼女の方を見るが、彼女は僕と目が合うと、あやま
る仕種をするだけで、手に持っている紙には何の反応を示さなかった。
(彼女のじゃないのかなぁ・・・)
僕は改めて紙切れを見てみるが、不思議な事にそこには何も書かれていなか
った。
(そんな馬鹿な・・・。さっき見た時はちゃんと文字があったのに・・・)
僕は紙の裏を見てみるが、やっぱり文字は無かった。あれやこれやと考えて
いる内に
授業が始まってしまった。
それからだ・・・。僕はなぜか彼女を見てしまう。授業中だろうが、休み時
間だろうが気が付くと、彼女を見ていた。
それは2年生になってからも治る事はなかった。違うとこがあるとすれば、
1年生の頃はTTルームのあの件以来一度も彼女と目線があったことがなかっ
たのに、2年生になった途端、急に彼女と目線が合うようになった。授業中だ
ろうが、休み時間だろうが気が付くと、彼女と目線が会った。
修学旅行の前日。教室でグループの打ち合わせの最中、僕と彼女はまた目線
があった。いつも通り30秒ぐらい彼女を見てから目線を外そうと思ったが、
彼女がいつもと違う動作をしてきた。
”下を見ろ”とでも言いたいように、指を下に向けていた。
僕は自分の机を見てみるが、別に変わったことはない・・・。彼女の方を見
てみるが、彼女はもうこっちを見ていなかった。
(なんだよ。まったく・・・)
僕は不満を募らせながらも、もう1回机を見ると、そこに鉛筆で文字が書い
てあった。
”ピエロは言う。
「箱の中で騎士様と小さな魔女は始めて会うでしょう。そう・・・、それはま
るで魔法のようなイタズラ」
ピエロはおどけながらそう言った。”
僕は思わず、顔を上げてしまった。
(これは・・・一体何なんだよ!?この不可解な現象はなんなんだ!?)
僕は再び机に目線を戻すが、そこには・・・やっぱり何も残されていなかっ
た。
(彼女と関係がある・・・。彼女がやったのか?でも・・・僕にはこんな大人
数の中、彼女に聞いてみる勇気がない・・・)
修学旅行中も僕はそんなことを考えていた。
修学旅行の帰り。僕は自分が住んでいる駅に到着すると、駅前のコンビニに
立ち寄った。修学旅行に行っている間に出た週間雑誌の読みたいところを読む
ためだ。一通り読み終わると、僕はいったんコンビニの外に出て、親に電話を
かけて迎えを頼んだ。
もう一度読み直そうと、コンビニに入ったその時、
「よう」
聞き慣れた声で、聞き慣れない男言葉が僕にかけられた。雑誌売場の所に彼女
がいた。
「よう」
僕はびっくりした気持ちを落ち着かせながら返答を返すと、読みたい雑誌を手
に取る為に彼女の隣に行った。
「し、修学旅行・・・楽しかった?」
「え、えぇっと・・・どうだろう?」
二人してギシキャクした会話を交わした。ふと、お互いの目線が会うと僕らは
笑い出した。「そういえば、こうやって話すなんて始めてだな・・・」
「そうだねぇ・・・」
僕は手に取った雑誌を元の場所に置くと、胸ポケットから2枚の白紙の紙切れ
を取り出した。今なら、いつも聞けない事が全部聞ける・・・そんな気がした。
「これは・・・君のしわざだろう?小さな魔女さん」
彼女は無言で頷いた。しばらくすると、彼女は鞄から何かを取り出した。
「あのね、これ・・・返すね。黙ってもってちゃってごめんなさい」
彼女が僕に手渡したのは4枚のルーズリーフだった。それは・・・僕が修学旅
行中に書き上げた小説の最後のパートだった。僕は、鞄を開けてノートを見て
みると、確かにその4枚は入っていなかった。
「いつの間に・・・」
彼女はテレくさそうに笑ったがすぐまじめな表情になった。
「他の人は・・・あなたのやっている事は馬鹿らしいって言うけど、私は好き
よ。あなたの文章・・・」
「ありがとう・・・」
僕はどう言って良いのかわからなくなって・・・とりあえずそう言った。
彼女は頬を赤くしながら、今度は古びたポラロイドカメラを取り出した。
「ねぇ、1枚私を撮って」
彼女は奇妙な事を言ってきたが、僕はなぜか反論することなく承知すると、
コンビニの外に出て、自然体の彼女の姿を一枚撮った。
「それが・・・最後・・・」
彼女が駆け寄ってきて僕の耳もとでそう呟くと、ポラロイドカメラを僕の手か
ら取って写真を手渡すと、そのまま迎えにきた車に乗って行ってしまった。
僕はしばらく茫然としたまま彼女が渡してくれたポラロイド写真を見つめて
いた。すると、ポラロイド写真に浮かび上がってきたのは、自然体の彼女の姿
ではなく、笑顔でピースしている姿だった。
「そんな・・・こんな事って」
もう一度ポラロイド写真を見てみると、白い部分に文字があった。
”ピエロは言いました。
「あまりに幼すぎる魔女は、力の使いすぎによりほとんど魔法が使えなくなっ
てしまいました。魔女は騎士様に喜んでもらうために・・・最後の力を振り絞
って、イタズラをしました・・・。それが何なのか騎士様にはわかるはずです」
ピエロはおどけた口調で言った。”
(ああ、それはまるで魔法のようなイタズラだったよ・・・)
クラクションが鳴る音が聞こえたので、僕はポラロイド写真を胸ポケットに
しまうと、迎えに来た車に乗り込んだ。
その後・・・彼女は転校してしまった。もう少し時間があったなら、もっと
僕に勇気があったのなら彼女と仲良くなれたかも知れない。僕はこのポラロイ
ド写真を見る度にそう思ってしまう。
”ドンドン”ガラスが叩かれる音がして、僕は現実に引き戻された。表を見
ると、”スマン!”という仕種をしている彼ががいた。
僕は”しょうがないなぁ”という表情を彼に見せるとコンビニを出た。
(終)