AWC 少年            ほりこし


        
#274/1336 短編
★タイトル (NEA     )  94/ 7/20   3: 3  (126)
少年            ほりこし
★内容
 少年はQ駅に降りた。

 Q町には、中央の通りを突き当たり、左に折れたところににある「Q神経科」

行くため、二週間に一度は郡山の高校の帰り寄っている。それは少年が高校に入

学してから二年間、ずっと続けていることだった。少年の母は五年前に「鬱病」

になり、その薬を受け取るためいつも途中下車するのだった。

 この日の少年はQ町には特別の想いがあった。



 きのう、少年の高校では「体育祭」があり、テニスの選手として出場した。少

年はスポーツは得意ではなかったが、いつも心を寄せている同じクラスの妙子

(たえこ)の勧めもあり、いやいや引き受けて出場した。

 テニスの成績はひどいものであった。隣の「D組」の選手にストレート負けし、

顔から火のでる思いをした。

 しかし、唯一、少年にとって嬉しいことがあった。

 少年がサーブのとき、ボールがてんてんと少年のクラスの応援をしている生徒

の前を通り過ぎ、転がっていった。

 そのボールを妙子が追って行ったのである。と、同時に和恵もボールを追い、

二人はボールの奪い合いになった。

 少年は嬉しかった。自分のためのボールを二人が奪い合い、それにいつもはお

となしい妙子が参加しているのだ。妙子に勝って欲しかった。

 すぐに決着はつき、妙子が勝った。

 ボールを持った妙子は少年のもとに走り寄り、はにかんでボールを渡した。

 「がんばってね」

 「うん……」

 それだけの会話だった。

 試合に負けたのは、そのことで頭がボーッとしていたからなのかも知れない。

 その日の放課後、少年は思いきって妙子に「一緒に帰ろう」と言い、Q町の妙

子の家の近くまで送ったのである。親しく話したことはなかったが、「素直に自

分が表現できたなぁ」と少年は我ながら思った。もしかして、二人の息は合うの

かも知れないとも思った。

 妙子がQ町から通学しているのは、きのう初めて知った。妙子はいつも少年よ

り三十分早い電車に乗っていたのだった。



 駅前の左手に駐輪場があった。

 少年は駐輪場により、自転車をながめた。

 きのう、妙子はここで自転車のロックをはずし、二人で歩いて「Q神経科」の

方に向かったのだなぁ、と思い、そして、妙子の自転車をさがしてみた。

しかし、似た自転車はあったが、妙子の自転車かどうかは判らなかった。

 「Q神経科」では、予約をしてあるのですぐ薬を受け取る事が出来た。

 帰り道、レンタルビデオ屋が目に入った。

 きのう、二人が別れるときの妙子との会話を思い出した。

 「ここでいい」

 「近いの? ここから」

 「うん、私、見送るから駅の方へ歩いて行って」

 「俺が見送るよ。先に行けよ」

 二人はしばらく見つめあった。

 「うん」

 妙子はそう言うと自転車を走らせ、遠ざかったのだった。途中で振り向くかと

も思ったが、妙子は振り向きはしなかった。

 レンタルビデオ屋の前にも自転車はあった。自然と妙子の自転車をさがしてい

る自分に少年は気が付いた。

 少年はレンタルビデオ屋に入った。妙子は映画と本が好きだと言っていたから、

もしかしたら、妙子がいるかも知れないと思ったのだった。

 少女を見るたび、妙子の面影を求めたが、その姿はなかった。

 少年は本屋にも立ち寄った。

 妙子がいることはないだろうけれど、本屋を覗いてみたかった。この本屋にも

よく寄ると言っていた。少年は妙子の生活の範囲を歩いてみたかった。

 勿論、本屋にも妙子は居なかった。

 少年は駅に向かった。

 駅に向かう間、自然とすれ違う少女に妙子の姿を求めていた。

 Q駅に着いた。Q町は妙子の生活のにおいがするんだなぁ、そう思いながら電

車を待った。

 二年間、何も感じないでかよった町が、新鮮で想いがあった。


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