#272/1336 短編
★タイトル (SKH ) 94/ 7/14 0:46 ( 45)
>お題『水底の天使』 クーバチャイ
★内容
良く晴れた夏の午後だった。キンキンと鳴る太陽は真上からそのビームをゴーン、ゴ
ーンと脳天に打つけていたが、途切れる事の無いビームだからギキョ〜ウヒーンだ、た
ぶん。
シーサイドに勝手に生えた松林のその影に、そのギキョ〜ウヒーンを避けて座ってい
る浦島の太郎さんの目は砂浜に向いていた。その先では近所のガキ共が大きな海亀をひ
っくり返してその腹を棒切れやら竹刀やらでカンカンやっていた。「なんて事を」と思
いながらも、その音がなんとも奇妙で奥域のあるいい音だったので太郎さんは、いつし
か目を閉じて聞き入っていた。亀の腹には音階がある。打つ場所と打ち方でその音は変
わる。そんなわけでガキ共の不安定な演奏に海亀はフラクタルな打楽器とかしていた。
不意に演奏が終わった、始まりがどこからだったか、もともと、次の演奏が予想でき
ないので、あ〜まあいいや、とにかく終わった。とにかく終わったので太郎さんは目を
開けた。ガキどもは自分達より背の高い海亀を砂浜にえっちらおっちら立てていた。
太郎さんは一つの頭と4つの櫂をパタパタと虚しく動かす不思議なオブジェを見てい
た。その周りで猿どもが戯れている。
「モノリス」太郎さんは呟いた。
次の瞬間、あろうことか一人の少女がオマンマンもあらわに海亀の頭が引っ込むかどう
かと言った疑問をはさむ余地の無いほど見事で強烈なかかと落としをモノリスの脳天に
浴びせた。それが最期の演奏になった。その音楽はこんな音だった。「ネリチャギ!」
太郎さんがとりとめのない反応をする砂浜に足跡を残して海亀の横に立つ頃、ガキど
もはどこかに消えていた。モノリスはネジの切れかかったブリキのおもちゃのような緩
慢な4つの櫂の動きと波間に漂う昆布のような首の動きでまだ生きている事を見せてい
た。太郎さんは海亀の肩にそっと手を置き、自然な形になるように倒してやった。思っ
たよりいい音はしなかった。「ベン」と、大きくいっただけ。
海亀は泣いていた、漆黒の瞳をうるうるさせて泣いていた。太郎さんはつややかな海
亀の甲羅に指先をすべらせながら言った。
「まったくガキどもは、」
海亀はまったくだといいたげに小さくうなずいた。
「亀の扱い方を知らないから」
海亀はまったくだといいたげに小さくうなずいた。
海亀の甲羅の上にくたびれた綿の帯がスルスルと降りてくると、腰の辺りに太郎さんの
手がまわってきてクイッと持ち上げられた。次に、小さく可愛らしい尻尾をヒョイとつ
ままれ持ち上げられると、ギンギンにいきり立った太郎さんの男根が何の躊躇もなく総
排泄孔に入ってきた。海亀は叫んだ。その声はどうにも表しようがない。とにかく叫ん
だ。叫ぶ亀は小刻みに動く太郎さんを引きずりながら海に帰った。その叫び声は海の中
でもグワンワン響きマッコウクジラも浮かび上がる程だったと言う。
「へー、それで太郎翁よ、竜宮城じゃあどうしたがあ?」
「いやあ、乙姫さまは綺麗じゃったあ〜」
「ほお、」むらの若衆が言った。
「いまじゃあ、タイやヒラメを見ただけでこの老耄の一物がひとりでにギ〜ンとなって
の」
「ほお、」むらの若衆が言った。
『今昔好色一代男』より