#267/1336 短編
★タイトル (RMM ) 94/ 7/ 9 2:34 ( 34)
別れのプロット 椿 美枝子
★内容
あのね、こんなお話、考えたの。きいてちょうだい。
数寄屋橋交差点前でビルの飾り窓にもたれ掛かかり、時折手帳に何か書き付け
ては、また虚ろな瞳を宙に泳がせる少女が、申し訳なさそうに遅れてきた男性を
迎える第一声。
不意をくらった男性の眉根も見ずに、語り始める。
おんなのこがね。とってもすてきな、おとこのひとと出会うの。そのひとが連
れていってくれるところは、たとえば待ち合わせの場所だって、一緒に入った喫
茶店だって、プレゼントの服の趣味だって、なんでもみんな最高で、おんなのこ
はとってもうれしくなるの。ひとつとして同じデートはないの。いつも違う街で
違うイベントが待ってるの。おもいでは、すてきなものばかり。
それでね、あるとき、銀座でデートするの。地下鉄の、B9の出口、って待ち
合わせるの。ところが、おんなのこは、迷っちゃうの。B9の出口が、わからな
いの。それらしい出口はあるんだけど、どこにもB9の表示が、ないの。おんな
のこは、数寄屋橋の辺りをぐるぐるぐるぐる、最後にソニービルの中で、人に尋
ねるの。B9の出口、どこですか、って。その瞬間、おんなのこは泣きそうにな
るの。どうしてこんなことしてるんだろう、って。そして、気付いたの。それま
での、おとこのひととの付き合いは、爪先立ちの背伸びだった、って。ぜったい
しない、って決めてたはずの、陳腐な図式の恋だ、って。どうしてなんだろう、
それとも陳腐な図式に当てはめてしまうからいけないのかな。だったらせめて、
最後くらい、カッコよく決めたいよね。
そういうお話。
それは、さようなら、って意味か。
いささか物わかりのよさそうな顔で男性が呟く。
少女はこくん、と頷くと、取り繕った微笑を浮かべる。歩行者用信号が青に変
わり人波が打ち寄せ、少女の姿はかき消える。男性の手には少女の別れのプロッ
トだけが残る。
了
1994.06.29.17:10
1994.06.29.26:20