#244/1336 短編
★タイトル (KCH ) 94/ 6/ 8 23:35 (112)
超短編駄作小説 「水底の天使」 Written by KCH15199 そあら
★内容
水底の天使
今日も平和だ。
エイサーはパイプをくわえ、椅子に座った。
「この景色、この空気のうまさ、最高だなぁ」
エイサー翁が座っているのは湖が一望できる彼の別荘のベランダである。
口調がいやに若々しいのは、
「心はいつも若者さっ」
という、モットーがあるからである。
少々気味が悪い。
確かに顔立ちは整っている。昔は相当腕を鳴らしたんだろう、と彼の友人(6年前に
他界)が会うなりいつもいっていた。今でも、週1とはいかないまでも、2週1ぐらい
のペースで・・・、・・・本筋とは関係内ので割愛させていただく。想像したい方がお
られるようなら、作者も含む他人を巻き込まないようにくれぐれもお願いする。
少々脱線してしまった。
彼は別の意味でも相当な腕の持ち主であった。
彼が21の頃、ふとしたきっかけでちっぽけな会社を作った。
その会社のメイン商品が大ヒットとなり、一躍大企業になった。
彼は、初代社長、だった。
金も手にいれ、これからのんびり過ごせるはずの彼を引っ張り出したのは、「大災害
」であった。
突然の地震、津波、その翌日に突如として大雨が降り、濁流が都市を襲った。
もちろん、彼の会社があった土地も例外ではない。
金を忘れ、女を忘れ、会社再興のために、あちこち飛び回っては、現場を指揮してい
た。
が、半年もすると、だいぶ活気が戻り、再び隠居生活を始められるようにまでになっ
た。
ここにエイサーが着いたのは昨日のことである。
「ひいおじいさま」
若い女性の声で、エイサーは目を開いた。
「風邪をひいちゃうよ」
アリスはカーディガンを翁の肩に掛ける。
「爺い扱いするんじゃない、私はまだ60だ」
エイサーは顔を渋面にする。
「何いってるの、もうすぐ100の大台に手が届こうかっていうのに」
明るくアリスは答えた。
「そういや、アリスは誰か好きな人がいるのか」
ぶしつけに爺いが訊ねる。
アリスは初めきょとんとした顔だったが、すぐに赤くなり、
「何いってるのよ、恥ずかしいじゃない!」
エイサーの白髪頭をぱしっとひっぱたいた。そして、ぱたぱたと中へ入っていった。
「もうそういう年ごろか・・・」
ぼんやりとひ孫のことに思いをはせながら、エイサーはいつしか眠りに落ちていった
。
翌朝、エイサーは湖の岸辺に降りてみた。
まだ、誰も起き出していないような薄暗い時間である。
いわゆる、老人の散歩である。
ゆっくりと岸を巡っていくと、木の桟橋があり、3隻ほどのボートが繋いであった。
おもむろに、そのうちの木製の船に乗り込み、湖の真ん中に向かって漕ぎ出した。
程なく、湖の真ん中に着いた。
エイサーは横たわり、空を眺める格好になった。
小鳥が2羽、「空」という広大な舞台で踊っていた。
時にはゆっくり、時には素早く、対になって踊っていた。
やがて、明るくなり始めた頃、二人の踊り子はエイサーの視界から退場した。
エイサーは深々とため息をつき、アリスのことがふと思い出された。
年を取れば取るほどあれに似ている。
爺いはそう思った。
あまりにも長生きし過ぎたかな?
もう一人の自分に問いかけた。
再び、空に意識を向ける。
あれと出会ったのもこんな時間だった。
女と「遊んだ」後、まだ夜も明けない時間に、あれと会った。
あれがちょっと具合が悪そうに歩いてきた。
そして、倒れた。
エイサーは躊躇せず、
「どうしました?」
と、倒れた女性に訊ねる。
答えは、ない。
エイサーは、女性の上半身を起こし、肩をゆさぶる。
「もしもし?」
反応はない。
「大丈夫か!!」
次にエイサーが目覚めたのは、体が水と衝突したときだった。
そして、湖の中に飲み込まれた。
エイサーは体を動かそうと思えば動かせたが、ただ、何もしなかった。
太陽の明かりが水の中に流れ込んできた。
エイサーは呆然としていた。
あまりにも素晴らしい眺めだった。
このまま眺めていたいな。
そう考えたとき、
「そろそろ時間よ」
どこか聞き覚えのある声が響いてきた。
そばには大きな魚が1匹。
「あなた、だいぶ待ったのよ」
「や、済まなかったね」
エイサーは魚に向きなおり、口に出そうとした。が、出なかった。
「もう、いつも「済まなかったね」なのね」
「他にどう言えというんだい?」
「悪かったねとかいろいろあるでしょ。あら、迎えがきたみたいよ」
「迎え?」
「ええ。私もあなたのためにわがまま言って、待っててもらったんだから」
魚のそばに、さらに大きな魚が現れていた。
「早くいきましょ、あなたと一緒でないと楽しくないわ」
「わかった」
それは、久しぶりの、そして、これから途切れることなく続く、妻との生活の始まり
だった。
訃報
*ジャンプ=エイサー氏*
新暦32年4月9日生まれ
21歳でエイサー工業を設立
設立3年目、仮想世界と現実世界とを繋ぐ、「V−Bridge」を販売開始。大ヒ
ットとなり、エイサー工業を一流会社に押し上げる。
一時、引退したが、「大災害」により再び社長に就任。会社だけでなく、都市の復興
に尽力。その功績により、都市環境に対する最大の賞である「ウォルス賞」を受賞。
静養先の別荘の湖にてボートから転落。心臓発作で死去。
未確認情報だが、彼は5キロ級の魚を胸に抱いて、穏やかな顔だった、そうである。
(ビジネスマガジンより抜粋)
「水底の天使」終