#233/1336 短編
★タイトル (TEM ) 94/ 5/27 7: 5 ( 59)
ホームルーム うちだ
★内容
このテープは数年前、重要機密教材に指定され、教育関係者の間でのみ聞かれてい
たものである。残念ながらマスターテープではないため一部修正(名前など)が施
されているがその貴重な内容そのものには何ら遜色がないと判断した。今回さる教
授の協力によりこの衝撃的な内容を記録する機会を戴いた。この場をもってお礼を
述べたい。 付属の資料によると、担任は津田沼チヨコ(仮名:当時25歳)現在も
現役の教師である。テープの録音は当時記録係であった生徒の手によるものらしい。
(内容)
「今日のホームールの時間は“オアシス運動について”だったんだけど、先生ちょっ
とみんなとお話ししたいことがあります」
(ざわざわと子供の話声。)「2組は今までの5カ月間、ほんとにみんな仲良しで
先生もこの2組の担任になったのがすごくうれしかったです。だけど最近ちょっと
変だと思うよ。・・竹田くんどう思う?」
(がたがたっとイスを立つ音)「別にー。変わったことなんかないと思います」
「梨本くんは?座ったままでいいから」
「ないでーす」
「溝口さん」
「ないと思います」
「じゃあ、今日斎藤さんがお休みなのは?最近斎藤さんはいつも一人でいたけど」
(教室内ざわめく。級長らしい子の「静かにして」という声)
「せんせーい」
「はい、野村さん」
「斎藤さんが来ないのは、谷沢くん達がいじめたせいだと思います」
「俺だけじゃない。野村だって「口が二つもあるなんて気持ち悪い」とか言った」
「だって谷沢が見たって言ったじゃん」
「俺じゃない。米田と久保が言ったからさ。なー?」
「・・俺、給食当番の時に斎藤と同じ班だったから。そん時に見ちゃったもん」
「うん。髪の毛で隠してるけど、頭の後ろの上の辺に」
「あたしも知ってるー。昔話の“妖怪二口女”みたいになってるんだよね。」
「うそー、マジィ?」
「でも、人食べたりしないって言ってたよ」
「あてになるもんか」
「みんな静かにして。じゃあ斎藤さんのこと仲間はずれにするのは口が二つあるか
ら?」
「そりゃー・・だってやっぱ気持ち悪いもんな」
「でも斎藤さんが悪いことしたわけじゃないでしょう」
(教室内静まりかえる)
「先生は今ちょっとだけみんなに失望してます。斎藤さんはたとえ口が二つあろう
と2組の大事な仲間なのに。昨日斎藤さんは“みんなに悪いことしたことないのに
”って泣いていました。先生も情けない」
(すすり泣く声。補足:先生が泣き出してしまった)
「先生は これからもずーっとみんなと仲良くしていきたかったけど、斎藤さんと
さえ仲良く出来いんだから。・・・先生みんなに黙ってたことがあります。」
(わっ、と悲鳴があがる。)「先生っ、そっ、そのひざ・・・」
「キャー」
「目を背けないで!よく見ておきなさい。これは人面疽です」
「わぁ、でっ、できものが目を開いたっ」
「ホホホ。口もきくし、ものだって食べるのよ。どう、気持ち悪いでしょ。みんな
して斎藤さんをいじめる代わりに、先生を追い出しなさい」
「先生!」
「先生、先生、ごめんない」 (全員、がたがたと席を立つ音。)
「ごめんね、先生。」
「もう、斎藤さんのこといじめたりしないから、先生もやめるなんて言わないで」
「ありがとう、みんな。分かってくれればそれでいいのよ」
(ガクガクという音。補足:先生のひざが笑う音であろう。ややあって、テープの
切れる音。)
おわり