#218/1336 短編
★タイトル (XVB ) 94/ 5/ 1 11:29 ( 80)
仲のいいおじいさんとおばあさんの話 $フィン
★内容
昔あるところにとっても仲のいいおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山に死体狩りにおばあさんは川で土佐衛門拾いに精を出していました。
ある夜のことです。川から大きな栗が流れてきました。
おじいさんとおばあさんは二人でせっせと夜のお勤めをしていましたが、お二人の
持つ超感覚で栗がただならぬ気配を発しているのに気がつきました。
「ばあさんや」おじいさんは云いました。
「ああんっ、いいとこなのに、やめちゃいや」おばあさんは下半身に力を入れて、
おじいさんを放そうとしません。
「ばあさんもまだまだ若いのう」おじいさんはおばあさんを見て笑いました。
「ばあさん・・・」
「じいさんや・・・」二人の視線が絡み合い、お互いの愛を確かめあっています。
愛さえあればなんでもできる。しなびた身体もなんのその、愛する二人にはそれから
何度もお互いの愛の確認をしてしまいました。
次の日、おじいさんは昨日の疲れをものともせず、いつものように山に死体狩りに
いきました。おばあさんも昨日の疲れをものともせず、いつものように川に土佐衛門
を拾いにいきました。
「おんやまあ・・・まだおったんかいな」おばあさんは昨日の夜、ざぶんざぶんと
上から流れてきた巨大な栗がまだそこにいたのをみて、目を見張りました。
おばあさんが巨大な栗の方によっていくと、栗もおばあさんに向かってすりすりし
てきました。
「しっしっし、川から流れてきたものなんか、ろくなものではない。さっさと流れ
ておしまい」おばあさんは足で巨大な栗を押し流そうとしました。
ちくり、栗が鋭い針を出して、おばあさんの足に突き刺さりました。
「ぎゃあぁぁぁ」おばあさんは悲鳴をあげました。
「ぬっ抜けない」おばあさんは足にめりこんだ栗の針を抜こうとしました。ところ
が栗の針は抜けるどころか、だんだん奥の方に入っていきます。
「痛いよお。痛いよお。じいさん、助けておくれよ」おばあさんは泣きながら、お
家に帰ってしまいました。
「ばあさんや」山でたくさんの死体を積んで、いつものように奥の食料倉庫に入れ
る手伝いをおばあさんに頼もうとしたのですが、おばあさんは出てきません。死体が
お宝を持っていないか、いの一番にでてくるおばあさんが出てきません。いきのいい
男の死体だとおじいさんの目を盗んでやってしまうおばあさんなのに、今日に限って
出てきませんでした。
「ばあさん、どうしたんかいのお」おじいさんは少し心配になって、戸を開けまし
た。
「うーん、うーん、うーん」おばあさんは布団をしいてうんうんうなっています。
「ばあさんどこか悪いのかいな」おじいさんは云いました。
「おじいさん・・・お湯を沸かしてちょうだいな」おばあさんは艶のある声でおじ
いさんに頼みました。
「どうしてお湯がいるのかいな」おじいさんはおばあさんに聞きました。
「早く用意せんか、クソじじい」おばあさんから声が聞こえました。
おじいさんはびっくりしました。長年連れ添ってきたおばあさんから、思いもかけ
ないひどい言葉を聞いたのです。あんなに愛してきたのに・・・、昨日も一昨日もそ
のまた昨日もずっとずっとおばあさんを愛してきたのに、おばあさんからクソじじい
と呼ばれてしまったので、とてもショックでした。
「ばあさん・・・」おじいさんの手がおばあさんの首に伸びていきます。
「じいさん、わたしが云ったのではないの」おばあさんは脂汗を出して云いました。
「クソじじい、お湯じゃ」おばあさんから声が聞こえてきました。
「ばあさんっ」おじいさんはお布団を剥ぐりました。
「ああ。これはっ」おじいさんは悲鳴をあげました。
おばあさんのお腹はぱんぱんに膨れていました。
「これはなんじゃあ〜」おじいさんとおばあさんが毎日やっても見ることのできな
かったものが、今、目の前に見えているのです。
「クソじじい、今ごろ気がついたか」おばあさんの腹から声が聞こえてきます。
「クソじじいと呼んだのはおまえか」おじいさんはおばあさんの腹を見ていいまし
た。
「そうだ。おれだ」ぶるんっ、おばあさんの腹が大きく揺れました。腹の子が胸を
はっていばったのでした。
「おまえ、これから生まれたいのか?」おじいさんは腹の子に云いました。
「そうだ。おれはこれから生まれるのだ」腹の子は云いました。
「外がどんなところか知っているのか」おじいさんは腹の子に聞きました。
「おれは知らん」ぶるんもう一度大きく揺れました。腹の子はなぜそんなわかりき
ったことを聞くのだというように動いたのでした。
「おまえは知らんかもしれんが、外は恐いところじゃよ、生まれてくるのならそれ
ぐらい知っておってもよいだろう」おじいさんはため息をついて、おじいさんとおば
あさんの暮らしぶり、世の中がどうなっているのかを長い間かけて説明しました。
「どうだ? これでも生まれたいのか?」おじいさんは腹の子に云いました。
「おれやめとく・・・」腹の子はおびえた声で云いました。
今までぱんぱんに大きくはちきれそうなおばあさんの腹がするすると小さく縮んで、
おばあさんの身体から一本の栗の針がでてきました。
「ふうっ、助かった」おばあさんは小さくなった腹をさすって云いました。
「よかったな。ばあさんや、これから川から流れてくるものは土佐衛門の他は触る
んじゃないぞ」おじいさんはおばあさんを叱りました。
「わしが悪かった。栗に触れたばかりにもう少しで子が生まれるところだった」お
ばあさんはおじいさんのほっぺにお礼の接吻をしました。
こうして、とっても仲のよかったおじいさんとおばあさんはどんなことがあっても
くじけることもなく、夜も昼も幸せに暮らし続けたということです。
$フィン