AWC 文体模倣>「夜は、たとえば」 うちだ風


        
#192/1336 短編
★タイトル (RMM     )  94/ 2/10   4:24  ( 54)
文体模倣>「夜は、たとえば」 うちだ風
★内容
----親愛なるうちださんとその周辺に捧ぐ----

 夜は、たとえば、何をするわけでもなく、がらんとした部屋で二人っきりでねっ
ころがったりテレビの深夜番組を見たりコタツでミカン食べたりスーファミでボ
ンバーマンやったり、時間を気にせずそんなふうにして過ごせたらいいな。でも、
どうしてもカレとだけは、そうやって過ごすわけにはゆかない。

「じゃあね、ばいばい」ってカレがわたしのうちの近くにある空き地に車を止め
て、言う。いっつもこの瞬間、きれいさっぱり、って言葉が頭に浮かぶ。「じゃ
あね、ばいばい」ってわたしが車を降りて、笑いながら返す、カレが運転席です
ました顔しているのを確かめながら。くやしいのは、カレがまるっきり平気な顔
をしていることだ。こんなにわたしは別れ際がつらいのにな。

 ともだちに話したって、そんなのぜいたくだよ、って言う。コクリツで車持っ
てて地主の次男なんだから、結婚したら結婚祝いに家くらい堅いよ、安定した老
後、どうせあんたはいつか家を出なくちゃなんないんでしょ、丁度いいじゃん、
だから会えなくたって、会いたいときにむこうが都合付けられなくたって、未来
があるんだから今は仕方ないよ。
 そういうその子の付き合っているのはアパート暮らしのフリーターしてて暇そ
うなバンド野郎くんだ、わかってくれるわけはないんだよね。お金はないけど今
に少しでも貯まったら二人して東京行って神田川、とかそういう世界。それって
とってもよさそうに見えるんだけどな。安定した老後より今の好きなことだよ。
でも、そんなこと口に出して言おうもんならその子はわたしのことを、「わかっ
てないね」っていうんだろうな。

 先週の今日もデート。先々週の今日もデート。まいにちまいにちおんなじ曜日
におんなじ場所で待ち合わせ、おんなじコースをドライブし、おんなじレストラ
ンで五千円のディナー。豪華だけど退屈で、あくびが出ちゃうよ。
 カレがきらいな訳じゃない。測ったようにおんなじデートを繰り返すだけなの
は時間に追われているからだ、って知ってる。ドライブコースがおんなじなのは
ここらが田舎だからだし、レストランがおんなじなのはここらの田舎じゃ唯一ま
ともな店だからだし、それは知ってる、わかってる。
 わかってる、でもね。いつだってわたしより時間を選んでいるんだよあなたは、
って、びしっと人差し指さして瞳の奥見つめてそう言ってやりたいんだ、いつか。
「じゃあね、ばいばい」って言われるより先に一度でいいから、もうさよならね、
って言ってやりたいんだ。いつか。
 去年のクリスマス、一晩一緒にいられたらいいな、って言ったのはわたしだっ
た。言ってから急にはずかしくなってあわてて、ほら、まきも、みんも、彼氏と
二人で過ごすんだって、って付け加えながらおそるおそるカレの顔を見上げると、
まるでわたしが一角獣でも望んだような顔をして、ああそうだったこの人はこん
な顔するんだよね。

 いつか言ってやるんだ。
「いつだってわたしより時間を選んでいるんだよあなたは」びしっと人差し指さ
して瞳の奥見つめてそう言ってやる。「もうさようならね」って言ってやる。い
つか。いつか。いつか。

 今度のキミの誕生日に一晩一緒にいられるよ、そんなふうにカレが言い出さな
いうちに。いつか、ぜったいに、ね。


                  了

                       1994.02.09.27:30




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