AWC 立山で買った御土産。    【惑星人奈宇】


        
#180/1336 短編
★タイトル (ZQG     )  94/ 1/15   5:17  (120)
立山で買った御土産。    【惑星人奈宇】
★内容
 龍原では12月の中頃にも成ると雨降りが多い。家の中で過ごすことが多くな
り、暇さえ有れば衛星放送からの映画を見ていた。
 夫の達也は、残業が少ないとか給料が減ってしもたとか言って何時も5時半に
は帰宅している。
「ねえ、あなた。隣の安原さん一家はマレーシアで仕事しているでしょ。あれは
ランプールじゃ無かった? 昼のテレビ・ニュースで日本人が多数入居している
コンドミニアムが倒れたのですって」
「会社のテレビで見たよ。ビルの倒壊だなんて! 信じられない災害だよ」
 私は達也と秋に立山に行ったことを思い出した。室堂から歩いて30分程の地
獄谷の入口付近の露店に、霊界に居る人と話せる会話機が売られていた。夫は冷
やかし半分に値切りながら、性能が確かなものかどうかを実際に会話して試して
いた。私は、そなこと有る筈が無いと思っていたので、名物の茹で卵を頬張りな
がら、笑って見ていた。最初は8万円の値札が付いていたのに、値下げを繰り返
し、とうとう2万円に下がった。達也は赤い顔を更に紅潮させて買った。
 最初の頃は、珍しさも有り、夫はステレオ・ヘッドホンのようなのを頭に被り
熱心にダイヤルや調節摘みを回したりして聞いて居たようだった。
「あれは9月頃だったかしら、立山の地獄谷んとこで買った霊と話せる機械……、
あれどうしたの?」
「あれは、家だと雑音を聞いているようで明瞭には解らないんだ。だから物置に
仕舞っておいたよ」
「じゃあ何故2万円も出して買ったのよ」
「立山では確かに聞こえたよ。地獄の中で叫んでいる悲鳴や鬼の怒鳴り声、ぶく
ぶくヒッヒイ、ヒャアキャア、あの時は本物に見えたのだよ。ようく冷静に考え
て見ると、……、あれは風や蒸気の吹き出す音だったのかな」

「死んだ人の霊を呼び戻して会話できるんでしょ」私は半信半疑で夫に尋ねた。
「雑音が多くて解り難いよ。しかし何故そなことを思い付いたんだ」
「だってそうでしょ。安原さんが霊に成ってしまっていたら会話出来るじゃん」
 私は、顔を少し斜めにして夫の目を見ながら話した。
「霊が一目散に我が家に向かって帰るのか? それは、早合点だよ。アメリカン
娯楽映画だって、そこまでは思い付かないよ」
 夫は私を見てニコッと笑ったような気がした。
「どんなに遠くても、霊だから明日には日本に戻って居ると思うわ。空中だって
水中だって移動が自由自在の筈よ」

 次の日は土曜日であった。新聞には死者が12人、瓦礫の下には20人が生き
埋め状態だと第一面にデカデカと出ていた。しかし安原さんの名前は無かった。
 私は物置から霊会話機を取り出して、まず説明書を読んでみた。霊の存在しそ
うな場所に綿毛のように繊細でふあふあした傘状のアンテナを天井から吊るし、
その下には受信機としての機器を置く。部屋を静かな状態にして、ダイヤルを回
して捜す、などと書いてあった。早速夫に、客間隣の静かな部屋に設置してくれ
るよう頼んだ。訪問客が来て邪魔されないように玄関の戸に鍵をかけた。

 私はダイヤルなどを操作して霊の声を聞ける周波数を捜した。ガガガガ、ぐぐ
ぐげげごごきいきいくっきけけき、どのように捜しても備え付きのスピーカーか
らは雑音のようにしか聞こえなかった。
「達也さん。調子悪いよ。何とかならんけえの」
 私は夫を呼んだが、新聞を読んでいるようで、こちらには無頓着であった。
 この霊会話機で霊を呼び出して、「あなた、隣の安原さんですか、事故で何か
有ったんですか?」なんて尋ねられたら……、便利なのだが……。
 これでテレビより、更に家族の人達より早く事故での死者数の確認とか負傷者
の状態などを知られたら……。時々テレビ番組で異才を放っている霊能力者の不
可思議な出来事は、こなこと出来る筈がないとは思っているけど、有るかも知れ
ない。私は、この日に限って熱心に、夫の興味半分に買ってきた機械に興味を感
じた。
 一層のこと窓を開けて外気との交流を良くしたら……、そうだ南側の窓を開け
て、ついでにテレビ・アンテナ・ケーブルにも繋いだ。音声出力端子をCDラジ
オ・カセット・コーダーのスピーカ端子に繋いで準備は整った。
 更に感度を上げるために少しづつ電圧を上げた。
 ガガガ、キャクァ、チェコノッ、トォキィハ、ビッビックリ、ガツガッレキ、
ノッシタッ、ガガガ。
 私は思わず夫を呼んだ。
「ねえ、ちょっと来てよ。霊会話機が何か言ってるよ」
 ブツブッツ、イッタァ、チッチィ、イッテェ、パパパパパ、ギギィギ。
 私は音量を出来るだけ上げた。
「あのなあ、やかましいよ。霊なんか居てもさ、会話は出来ないよ。地獄谷では
酔っていたから、売り手にだまされて仕舞ったのさ」
 私は、テープ・レコーダのボタンを押して、録音することにした。
 ギイキィ、マッマックゥラチャ、ウッ、シッシィンテェル、ハアァレツ。
 達也も新聞を読むのを止めて、私のとこに来て聞き耳を立てた。
 トッナァリ、ヤッツッ、ピッピ、ウッチィ、ナッイッテェルィ、ウェン……。
 夫は強度調整摘みを回したりして、殆ど雑音にしか聞こえない音声に四苦八苦
していた。

 私は、これ以上明瞭には出来ないような気がして、少し考えた。

 霊の送り迎えには、線香を焚いて、御花を供えて御題目を唱えながら行うのに、
私は何て気が利かないのだろう。早速、玄関にある生け花をここに移し、台所か
ら林檎と蜜柑を取ってきた。
「芳子は、一旦決めたら、とことん走る奴やなあ」夫は呆れたように言った。
「なむあみだぶつ なむあみだぶつ なむあみだぶつ」と小さな声で唱えた。
 夫は何を考えたか台所から酒をもって来て、コップに注ぎ飲み始めた。
「僕も芳子に協力するよ。もしも死んでいるんなら答えが有りますように、なま
んだぶ、なまんだぶ、なんまんだぶ」
「達也さん。なまんだぶでは無くて、話したまえ、答えたまえ、とかの方が解り
易く御座いませんか」
 私も台所から、御土産に貰った高級ウイスキを持ってきて少し飲んだ。
「教えたまえ、こたえたまえ、話したまえ、なああんでも」

 ウイスキと酒の勢いで、私達は20分程も続けていたでしょうか。今までガガ
ガと雑音のようにしか聞こえなかった霊会話機から、人の話声のようなのが混じ
り始めた。
《 ……、20人以上死んだでしょう。ビル倒壊の事故に遭うなんて思いも寄ら
ないし、私びっくりして仕舞って、卒倒ちしゃいましたよ。私達慌てちゃって!
こうしてここに居られるのも、ほんとに運が好いと言うか! ほんとに良かった
ですわ 》

 私は精神を集中して小声で、おしえたまえ話したまえ・なまんだぶ何でもかで
も、と唱えた。

《 案外基礎が雑にして有ったんですね。奥様方や子供さん方が沢山犠牲者に
成ったでしょう。気の毒ですわ 》
 私はウイスキをもう一杯飲んで、逸る気を抑えて、なまんだぶう語りたまええ
話したまええ……、と軽く目を閉じて唱えた。夫も少し赤い顔に成ってぶつぶつ
唱えていた。
《 事故は昨日だったでしょ。もう大分片付いたそうだし、遺族の方々も到着
したでしょうしね。ガッガッガ、コッコッ、コンコン、ドンドン 》

 私は、霊会話機からの音声があまりに現実的なので、唱えるのを中止した。
 窓から入ってくる冷風が、酔いもあって快かった。
《 奥さん、奥さん、宅急便ですよ。居ませんか? 》
《 奥さん、居るのかしら? さっきは返答なかったけど。》

 私は、玄関の鍵をかけたまま、霊会話機に夢中になっていたことに気付いた。
「すみません。今開けます。ヒックヒック!」

 戸を開けると、宅急便の人と、少し離れた所に安原夫婦と近所の人が居た。


 ********** 完 **********




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