#151/1336 短編
★タイトル (TVE ) 93/10/22 12:39 ( 52)
【平行世界】3 はやてつかさ
★内容
「降霊」
転職して編集会社に務めることにしたんだ。いままでの体験を記事にしたくてね。
もう会社にもだいぶ慣れたんだけど、ちょっと気になることがあって…。
今日、君を呼んだのは1週間前に会社で起きた、不思議な出来事についてなんだ。
あまり気にするつもりはなかったんだけど、もしかしたらと思って。これは君に関
係のあることなんだ…。
その日はいつものように残業をしていたんだ。普通は他にも残っている社員がい
るんだけど、その日は僕だけだった。最後まで一緒に残業していた人が帰ると、会
社の中は僕だけで、なんとなく気味が悪かったね。残業は毎日のようにしてるけど、
最後になることはなかったから。
夜だから電話もかかってこないし、会社自体もちょっと奥まったところにあるか
ら、静かなんだよね。ホントに。まぁ、最初は気にもしなかったけど、ちょっと一
服してると、何も音がしないのが恐いくらいだよ。
夜11時頃だったかな。雨が降ってきたんだ。天気予報では50%だったから、
傘は持ってきてた。だから全然気にしないで仕事を進めていたんだけど、気になり
始めたのはそれから10分足らず。雨の音に混じって、給湯室の方から水の漏れる
音が聞こえてきたんだ。
それがマンみたいにポチャンポチャンて響いてきてさ、不気味だったよ。そうい
う話、いまでも大好きだからすぐ想像しちゃって…。で、給湯室に行ってみたら、
案の定、蛇口から水が漏れてた。そして、その後だよ、恐いことが起きたのは。
僕は給湯室を出て、自分の席に戻ろうとしたら、部屋からワープロを打つ音が聞
こえるんだ。僕しかいないハズだし、今ごろ人が来るハズもないのに。とにかく、
何がいるのか確認しようと思って、少しだけドアを開いて、中の様子を覗いてみた
んだ。そしたら、君がいるじゃないか。
そう、あれは確かに君だった。君は信じられないスピードでキーをたたいていた
んだ。僕に気付く様子もなく、ただ夢中になっているようだった。声をかけようか
と思ったんだけど、声が出ない。足もすくんで動けなくなってた。なんか雰囲気が
違うんだよ。恐かったんだ。君の姿はボロボロで、蒼白な顔をしていた。そうなん
だ。地獄に落ちたような顔だった…。
何分間そうしていたのかわからない。ただ、しばらくしたら君は姿を消してしま
った。僕の見ている前で消えてしまったんだ!そして身体が軽くなったように、突
然動けるようになったんだ。気が付くと体中が汗で濡れてたよ。とにかく恐かった
んだ。僕は動けるようになった震える足を、前に強引に押し出すようにして、君の
いた机に向かって歩き始めた。
机の上には電源の入ったワープロがあって、画面に文字が表示されていたんだ。
もちろん電源なんてさっきまで入ってなかったし、ワープロを使ってたやつなんて
いない。だから、それは君が打ったものとしか考えられない…。そして、その画面
には遺書が書いてあった…。それだけじゃない、自殺の理由に殺人のことが書いて
あった。
何も聞こうとは思わないが、あの幻は本当に君なのか?そしてあのワープロの文
書は、本当に君が書いたものなのか?
もしあれが本当に君のなら、安心していいんだよ。もうすべては終わったんだ。
君を咎めるやつはもう誰もいないんだから。あぁ、もう気にしなくていいんだよ。
君はもう死んだんだから、安心して成仏していいんだよ。
END