AWC そばにいるだけで 33−10   寺嶋公香  ※アンケート付


        
#4780/5495 長編
★タイトル (AZA     )  99/ 2/27  17:36  (199)
そばにいるだけで 33−10   寺嶋公香  ※アンケート付
★内容
「とりあえず、右腕を信一君の首に回し、左手は彼の右肩に触れる感じで載せ
てほしいんだ」
 思いも寄らない求めに、心拍数が上がったような気がする。
 純子は数秒間一点を見つめていた視線を、相羽の方へ移した。
 相羽は軽い深呼吸をしたよう見受けられる。胸が上下していた。
「相羽君。やるわよ。いい?」
「いつでも」
 即座の返事をよこした相羽だが、表情が硬くなったように見えなくもない。
(ごめん!)
 心の中でたくさんの友達に謝り、純子は腕を伸ばし、そして折り曲げた。思
わず両目を瞑ってしまったら、早速注意が飛んで来た。
「目、開けてーっ。それじゃあ寒くて震えてるみたいだよ!」
「はいっ」
 大声で反応して目を開けると、今度は相羽が目を細めてしかめっ面になって
いるのが分かった。
「――あ、ごめんなさい。耳、大丈夫?」
 囁いて謝る純子に、相羽は息をこぼした。
「何ともない。びっくりしただけ。さあ、最高の仕事をしてよ、純子ちゃん」
「――うん」
 立場がまるで逆だ。純子の方が相羽に平静にしてもらっている。
 だが、一旦始めてしまえば、純子もれっきとしたプロだ。正式にメイクアッ
プした後、要求通りの表情、仕種、雰囲気を作っていく。
「もっと繊細な動きで。子供と大人のちょうど中間のような」
「信一君の着け毛を指ですくい上げてみようか。そうそう、その調子」
「優しく勝ち誇った顔、くださーい」
 難しい要求やどう考えても矛盾する要求を、試行錯誤を重ねてこなしていく。
テンポよく進行できているのは、先ほど単独でいくつか撮り終えていたおかげ
もあるだろう。
「こんな具合でどうですか」
 カメラの方を見やると、ポラロイド写真をクライアントに示している。
 美生堂の直接の担当者は佐山(さやま)という血色のよい小太りの人だ。え
らの張った顔の輪郭に徐々に肉がつきつつある過程、そんな風貌はどこなくユ
ーモラス。
 さらにもう一人、小平(おだいら)という小柄な女性もサポート役で来てい
る。美生堂の力の入れ方が伝わって来ようというものだ。
「よろしいんじゃないですか」
 佐山は普段から笑みを絶やさない人柄のようだが、このときは特に拍車が掛
かっていた。中垣内も部下の言葉を認めた。
「この構図で撮ったあと、少し……男の子が顔を出すのも面白いかもしれませ
んね」
「やってみましょう」
 純子と相羽のいる場所まで大人達のやり取りが正確に聞こえていたわけでは
なかったが、断片的な単語から想像がつく。
「相羽君、頑張ってね」
「僕一人がやるみたいに言わないでくれ。口紅の広告なんだ」
「そっか」
 舌を覗かせようとしたが、口紅のことを思い出してやめた純子だった。
「相羽君、試しに横顔をくれるかな!」
 威勢のよい指示が届いた。

「友達よ」
 純子は答えてショールを羽織った。そして胸を押さえる。
 撮影の間は何ともなかったのに、今頃になって胸がどきどきしている。
(相羽君は……平気な顔してる)
 純子は相羽の姿を探し、見やった。相羽はカメラマンを始めとする撮影スタ
ッフに囲まれ、誉められているようだ。
「それだけかな?」
 あいつは君の何なの?という香村からの問い掛けに応じて、そのままドレッ
シングルームに向かう足を、再び香村が呼び止めた。
「他に何もないわ。あとは同じクラスで、同じ部に入ってるぐらい」
「君が抱き付いても眉一つ動かさなかったようだけどねえ」
「……何が言いたいのか分かんない。緊張が顔に出ないのは、相羽君の性格で
しょ。私には無関係」
「なるほどね」
 香村は薄く笑いながら肩をすくめた。
 純子は小首を傾げてから、遅れを取り戻そうと控え室に駆け込んだ。
 メイクを落としてもらい、髪を戻す。着替えると、普通の女の子に。
「この服、買い取りしない? お姫様のお忍びみたく似合ってたわよ」
「え? 無理ですよ。着る機会なんて、今後ないでしょうから」
「機会ならいくらでも増えるんじゃなくて? パーティに出る機会が」
「あははは。だといいんですけどね」
 やり取りを楽しんでから部屋を出た。
 と、相羽の母が待ちかまえていて、撮影終了直後のときに輪を掛けたように
賞賛の言葉をくれた。
(乗せるのが上手! だからこそ私なんかでもやってこられたんだわ)
 感謝と感激が同時にやって来た。
「みんな満足されてるし、きっと評判になるわ」
「CMがそれなりに好評になってくれないと、私、眠れなくなっちゃう」
 冗談と本気が相半ば。純子の笑顔もどことなく硬くなる。
 と、そのとき、香村の声が耳に入った。
「やるね。君のところの学校は役者揃いなのかな?」
 振り返れば、相羽を相手ににこやかに話し掛けている。
「突っ立っていただけなのに、役者も何もないだろ」
 ばかばかしいと言わんばかりに、口元を片手で押さえながらくっくっと笑い
声をこぼす相羽。すでに着け毛はない。
 それが気に入らないのか、香村は肩をすくめて鼻を鳴らした。だが、口を衝
いて出る言葉はまだ丁寧な響きを有している。
「君さえよければ、今度のドラマに推薦するよ。もちろんエキストラだけど、
タレントになるきっかけとしちゃ最高だぜ」
「はは。あの香村綸からのありがたい言葉だけど、僕にそんなつもりはないの
で、お断りしますよ」
「何故だい? 人気者になれるチャンスじゃないかな」
 天気雨にも似た奇妙に穏やかな雰囲気の中、二人のやり取りが続く。純子は
気に掛かって、そっと近寄った。
「別に人気者になろうなんて、考えてない」
「それならCMのモデルもはなから引き受けるなよ」
「さっきのは助けるためだ。母さんが仕事で困っていたから」
 相羽の語調がわずかながら厳しくなるのが分かった。
 対する香村は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにまた余裕のある笑みを取り戻
した。
「ま、それはそれとしてもだね。ドラマには彼女も出るんだけど」
 いきなり指差されて、思わずのけぞりそうになる純子。
「心配じゃないのかい? 彼女、ドラマ初挑戦だぜ」
「――気にならないことはない」
 手を強く握りしめ見守る純子へ、相羽が身体ごと振り向いて視線を投げた。
「でも、純子ちゃんは追い込まれたときほど強くなれるから、心配なんかして
いない。ね?」
 相羽から話を振られたが、純子はとても肯定できない。
「自信なんて全然ないわよ」
「度胸据えたら無敵って意味」
 微笑する相羽に、苦虫を噛み潰したような顔になる香村。
「ああ、ばからしくなってきたよ。出たくない奴に言ってもしょうがないな」
 香村は一度うつむき、顔を起こすと同時に落ち着き払った口調で言った。そ
れから、ファーストフード店のおねえさんにも負けない華やいだ笑顔を作り、
純子へ向ける。
「撮影開始が待ち遠しいね。僕がついてるから、大船に乗ったつもりで気を楽
にしてていいよ」
「はい……お世話になります」
 移り変わりの早さにあたふたしながらも、どうにか着いていき、ぺこりとお
辞儀を返した純子。
 真顔に戻った香村は満たされた風に口元だけで笑むと、再び相羽へ目を向け
た。そしておもむろに指差す。
「今日みたいに撮影現場に来ないでくれよ」
「そんなことまで約束できない」
 相羽の即答に香村はペースを乱されたらしく、口をもごもごさせた。咳払い
を入れて調子を整える。
「邪魔になるんだよ。気が散る」
「そうかな」
「言っとくけど、僕じゃない。涼原さんの気が散ってしまう危険性があるって
ことだ」
 引き合いに出された純子は、思わず自分で自分を指差していた。
「私?」
 その声は聞こえなかったのか、それとも無視するかのように、香村は相羽相
手に続ける。
「初めてのドラマで緊張してるところへ、顔見知りが現れて見学なんかしたら、
意識してしまってますます緊張するものさ」
「逆じゃないのかなあ」
「甘いな。経験のない素人には分かるわけないさ」
 言うだけ言って、ジャケットのポケットに両手を突っ込む香村。「見るべき
ものは見た。帰る」と藤沢マネージャーに伝えてから、改めて純子へ向き直っ
た。
「撮影開始の日を楽しみにしてるよ。頑張ろうね」
「あ――はい」
 返事したときには、香村は背を向けて足早に遠ざかっていた。
(急に素気なくなっちゃった。気を悪くしたのかな)
 あんたのせいよと相羽をじろっと見やる。
「僕も応援するよ――とか言ってみたりする」
「……何よ、それ」
「撮影って思った以上に大変だな。やってみて実感した」
 ポーズを取っていた辺りに眼差しを送る相羽。そこへ幻影を見るかのように、
遠い目をしていた。
「しょっちゅうこなしてる君は、凄いね」
「今日は私もどきどきしたわよ。男の子と一緒の撮影なんて初めて」
「僕も……女の子に抱き付かれて平然と構えているなんて、難しかった」
 相羽が振り返って、見つめてきた。
 胸が静かに鳴るのを意識した純子。
(私だってあれは必死に演技してたんだからね。男の子とあんなに接近して平
気だなんて、思われたくない)
 強く念じて、それから楽しげな表情を作った。
「ドラマの撮影に入ると、もっと多くなるんだろうなあ」
「香村はどんな感じ?」
「まだよく分かんない。普段会話してると、テレビやスクリーンを通して観る
のと比べて、ギャップが大きいの。おかしくなるくらい」
「ふうん。さっきのあいつはドラマで観たままの印象で、とんがってたみたい
だけどな」
 相羽はかすかな動きで二度うなずいた。
「撮影で困ったことがあったら、あいつに頼ってもいいんじゃないか。香村た
っての希望なんだろ、君の出演が決まったのは」
「そうかもしれないけど」
「なら、遠慮なく利用しちゃえ。アイドルを顎で使うなんて普通できない。は
はははっ」
「……うん、そうする」
 気分が若干軽くなった。
「でも、たまには見に来てよ。応援、お願いっ」
「どうしようかな。そこが問題なんだ」
 純子の願いを、難しい顔をして受け止める相羽。
「何しろ、主役の香村に来るなって言われたもんなあ。変装でもするかな」
 口ぶりをあっけらかんとしたものに転調し、相羽は目を細めた。
 純子は気の抜けたような息をつき、内なる安心を笑みに隠した。
「そうね。古羽相一郎の格好なんてどう?」

――『そばにいるだけで 33』おわり

※突然ですが、そばいるアンケート。
 拙作『そばにいるだけで』に関して、次の六項目にご意見を寄せてくださる
と嬉しいです。回答はボード上でもメールでもかまいません。

 1.今の時点で、レギュラーメンバーを死なせてもいいか。
 2.いじめ、妬み、塾、パソコン授業等を描くべきか。
 3.思春期の性的なことにどこまで筆を割くべきか。
 4.芸能関係のウェイトを減らす方がいいのか。
 5.涼原純子について、嫌いな点があれば教えてください。
 6.活躍を期待しているキャラクターがいれば教えてください。

 項目1〜4については、作者の方針や考え方をご存知の方もいると思います
が、それらを頭から追い払い、一読者として『そばいる』に期待するイメージ
を優先してお答えください。皆さんのご回答が、作者の考える『そばいる』の
方向性の変更に直結することはありませんので、ご安心を(笑)。
 ご回答は創作全般に活かしていきます。よろしければお願いします。




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