#4732/5495 長編
★タイトル (RAD ) 98/12/24 0:37 (107)
Silent Angel 〜声なき天使の歌う歌〜【56】 悠歩
★内容
釣りに………行きたいね。
釣りに?
うん。ずっと昔ね、まだ村にいたころ、男の子に釣りに連れて行ってもらった
ことがあるの。そうしたら、妹のルウも行きたがってね、ずいぶんぐずったのよ。
この次は連れて行ってあげるから、って約束してそのまんま。
そうか、釣りか………しばらくやってないな。よし、行こうか。俺とマリィと、
ルウとの三人で。
この子、喜ぶかな?
どうかな、案外釣り上げた魚を見て、泣き出すタイプかもな。
楽しみだね。私、お弁当作るから。サンドイッチがいいかな………ハムやベー
コン、たまごをはさむの。そうそう、野菜もね。
ああ、楽しみだ。
でも、えさはデニスがつけてね。私、触れないから。
ちぇっ。しょうがないなあ。
ねえ、デニス………あなた、気がついていた?
ん、なにを?
この子、一度だって、自分のために歌ったことなんてなかったよ。
ああ。
いつだって、誰かのために。誰かの涙を止めようとして、誰かの悲しんでいる
のを慰めようとして、誰かを助けたくって、歌っていた。
…………
私も、デニスも、この子の歌にずいぶん助けられたよ。
そうだったな。
私たちは?
えっ?
私たちは、この子になにかしてやったのかな。私、なにもしていないよ。助け
られるばかりで、私はこの子に、なにもしてやれなかった。
そんなことないよ。マリィは愛していただろう、この子を。
うん。愛してた。
嬉しかったんだよ、この子は。愛されることがさ。幸せだったんだよ。
………そう、かなあ。
そうさ。だから最後に、マリィのこと、ママって呼んだんじゃないか。
………うん。ねえ、デニス、この子本当はファル………
違うよ。ルウは、ルウさ。
でも。
俺さ、思うんだよ。ルウは本当に天使だったんじゃないかって。
ロマンチストなんだね。
そうじゃない。けどさ………好奇心いっぱいで優しい天使がいたんだよ。その
天使は空からマリィを見つけ、興味を持ったんだ。そしてもっとよく見たいと思
って、身を乗り出したんだ。あんまり身を乗り出しすぎて、空から落ちてしまっ
た。
それでデニスの前に?
そうだ。落ちたとき、天使はきっと空の上に力を全部置いたままだったんだ。
翼も輪っかもさ。ただ一つ、歌だけを持って。まだ小さな天使だったから、力は
弱いけど、その歌には少しだけ、人を幸せにする力があった。その力で小さな奇
跡をたくさん起こし、それが重なっていくうちに、神さまが気がついたんだ。天
使が地上に落ちてしまっていたことに。
じゃあ、ルウは………
うん、神さまがもとの世界に連れ戻したんだよ。最後に大きな奇跡を残して。
そうだと、いいね………
そうだよ、絶対。
流した涙を見る者はいない。
寒い、雪の降るクリスマスの夜。二人の足跡が刻まれて行く。
どこに行こうとしているのか、二人にも分からない。
二人がどこへ行こうとしているのか、知る者もいない。
ただ二人は歩く。
永久なる眠りに就いた幼子を抱き。
聖者の誕生を祝う鐘が、街に響き渡った。
澄んだ音色は、聞く人の心を洗う。けれど澄み切った音色に、涙する者も少な
くはなかった。
Christmas Christmas Christmas
雪が降っている
Christmas Christmas Christmas
暖炉の火は小さくて
Christmas Christmas Christmas
部屋の明かりは短いろうそく
Christmas Christmas Christmas
テーブルのごちそうは
一切れのパンとスープだけ
それでも楽しい Christmas
パパがいるから ママがいるから
それだけで 私は幸せなの
パパが歌うの Christmas
だから私も歌うの Christmas
ママが笑うの Christmas
だから私も笑うの Christmas
お願い神さま 一つだけ
プレゼントなんて なにもなくていいの
パパとママが いつまでも
ずうっと 幸せでいられますように
大好きだよパパ
愛しているわママ
Christmas Christmas Christmas
いつまでも
Christmas Christmas Christmas
仲良くしてね
Christmas Christmas Christmas
Christmas Christmas Christmas
Christmas Christmas Christmas
Silent Angel 〜声なき天使の歌う歌〜【完】