AWC 「指輪を飲み込んだヤモリの憂鬱」 その1 【ごんた】


        
#3018/3137 空中分解2
★タイトル (HVJ     )  93/ 3/24   4:53  (197)
「指輪を飲み込んだヤモリの憂鬱」 その1 【ごんた】
★内容

          その1

 あなたは見失いそうな自分を尋ねて、小さな旅に出かけようとしています。
小さな勇気ある一人旅?へと、、、。
 この物語の主人公、22歳のOLになりすまそう!。そうと決れば、今日は
会社なんか行く気分じゃない。だから、ふらりと旅に出てみるのもいいかも知
れない。旅行バックに適当な物を詰め込んで、、、そうだ!、ペットの餌はど
うしよう??。あなたは何か適当な大きさのバスケットを取り出すと、、、
ポイッ!!、バスケットへほうり込む!。

 キュルる キュルる!!。(冗談じゃないよな。痛いなあ?!まったく。も
っと丁寧に扱ってほしいもんだよな!。)

 そうして、あなたは今を過ごしている、、、。寝台列車の旅。

 セミロングなあなたの髪が風に揺れながら、なぜ自分が生まれ故郷の小さな
村を尋ねてみたくなったのかを、ふと想いかえしてみましょう。窓の小さな隙
間から吹き込んでくる春風が肌寒くて、そんなあなたの物思いに曇った気分を
冷たく包み込んでゆきます。
 あなたは袖をたくしあげると、むきだしの片腕を窓越しに垂らしながら、片
方の腕を膝にのせたままのバスケットの上へ、、、。物思いに更けるかのよう
に、そっとため息をもらしてみましょう。とても夕日がまぶしくて、あなたは
窓に肘をつきながら、おでこへ手を当ててごらんなさい。空色のスカートの上
、膝のバスケットの中でヤモリがごそごそと動き出します。

ポン、ポン、ポンッと3回バスケットを軽くたたいてみましょう。

 ごそ、ごそ、ごそ!!、、、キュルルルる!!。(眠いんだから、ちょっか
い出さないでほしいもんだね!。まったく、、、。ごそ、ごそ、ぐーぎ!)

 あなたはどうしてヤモリなんかと旅に出かけ始めたのでしょうか?。とても
不思議な予感がしています。たぶん結婚する前に、もう一度、自分の気持ちを
確かめたかったからなのでしょうね。でも、あんまり一人きりでいるのは寂し
すぎるから、そんなあなたには物静かでおとなしい爬虫類がぴったりなことで
しょう。 それに、たぶんあなたは結婚したくないに違いありません。なぜっ
て?。
 婚約指輪をそっとはずして、そしてまた指にしてみたりしています。そんな
事を、もう何回もしているのです。電車の中は季節はずれの暖房でちょっと蒸
し暑く、指輪越しに小さなダイヤモンドは憂鬱そうにのっています。あなたの
心とは裏腹に、とてもキラキラとしています。
 誰もあなたに声をかけてくれそうな優しげな人影とも出会いさえしません。
望んでいたように独りぼっちな気分になって、ちょっぴり彼の事を思い出しま
しょう。「結婚しようよ、、、、。」そう言ってくれたのは、つき合い始めて
から何年目の春のことだったでしょう?。そんな言葉を今までずっと待ちこが
れていたはずなのに、、、。でも、ちょっとだけタイミングが遅すぎました。
あなたは彼の愛を待ちすぎました。まちぼうけして、もうなんだか疲れてしま
ったようです。婚約指輪をはめながら、今度は結婚式まで待つのかな?って思
ってみましょう。それから彼の転勤が半年後に決るまで彼の御両親と暮らさな
ければならない、、、、それまでのあいだ二人きりの生活はお預け、、、、。
待って待って、、、どうなるの?。

 ごそ、ごそ、ごそ、、、、キュルルルる?!。
(少し息苦しいな〜!!お〜い!。お〜い!!。蓋開けろ!っての!お〜い。)

 あなたはそっとバスケットを隣に置くと、読書にフケり始めます。バスケッ
トの中で何やらゴソゴソいってるのなんか、ちっとも知らずに、、、、。
 やがてあなたは眠りへと落ちてゆきます。始めての一人旅の夜。ちょっぴり
気疲れしてしまいそう。寝台車のベットはカタコト揺れながら、優しく子守歌
を唄ってくれています。

 目蓋の裏側がとても暑くなると、まぶしい朝の陽の光が飛び込んできます。
車窓を遠くぼんやり眺めてごらんなさい。きっとすがすがしい気分になるはず
です。緑一面の広大な風景に大きな笑顔!。太陽が静かに昇ろうとしています。

 都会の生活に疲れたあなたは、こんなに素晴らしい朝の始まりを心のどこか
に置き忘れようとしていましたね。すっかり季節は春色なのに、あなたは憂鬱
な時ばかりを過ごしていましたね。でも、もう大丈夫!。汽車はどんどんと街
をはなれてゆきます。あなたの心は、少しずつ少しずつ優しくなってゆきます。
それに、もうすぐ電車の旅も終りに近付いているようですよ。車掌さんが世話
しなく歩きまわっています。すぐそこに目的地は近付いていました。

 駅の改札をくぐると懐かしの田舎街。でも、ここであなたは産まれたわけで
はありません。ここからバスにずうっと乗って行くのです。
 「かわってないみたい!この街並も、この空気も、、、、。ほんとに何年ぶ
りだろうな〜あ、、、、。」
 すっかり太陽は春色に温かくて、あなたの食欲を元気にしてゆきます。旅の
初日がお天気で、本当についているようですよ。雨降りは嫌いです。雨降りの
一人旅なんか、なんだか寂しすぎます。
「おなか、すいた〜!。」
あなたは田舎街の食堂、薄汚れたのれんをくぐります。「日替り定食!おねが
いしま〜す、、、、!。」気の良さそうなおあばちゃんに、笑顔で微笑んでご
らんなさい。それから周りの目なんか気にせずに社員食堂のように大きく口を
開けてモクモクご飯をほおばりましょう。くれぐれもバスケットの中の愛する
住人もお忘れなく!。小さくちぎったお肉の破片をポイッとほうりこんであげ
ましょう!。

 ごサ、bイそ、ごそ、キュルルルる!!。
(ひえ〜!最高!!大好物の肉〜、肉〜〜!はらぺこだったんだ〜!。)

 おなかが一杯になると、気まぐれな思考回路は正常に動き始めます。でも、
どうやら順番を間違えてしまったようです。バスの時間を調べてから食事にす
ればよかな〜って後悔しても始まりませんよね。これから待つこと2時間以上
もあるようです。きっと、あなたはそれを望んだのでしょうね。この街で、も
う少しのあいだ懐かしの小道を歩いてみたいなって!!。そうですね。あなた
はこの街で、よくお母さんと買物をしましたね。車にのって街まで出てくると
、そのたんびに服をおねだりしましたね。あなたは元気だったころの母さんを
思い出して、目頭が熱くなるのを感じ始めます。
 あなたのお母さんは、あなたがまだ小さかった頃、二人して暮らしていまし
たね。お父さんとは、もう何年も顔を合わせていませんね。あのころのあなた
には離婚の二文字は辛すぎました。でも、今思えば、あなたは「それ」を避け
るために結婚を思い留まっているのかも知れません。母さんの苦労を自分の子
供達にはさせたくありませんものね。
 「そうだ、、あの呉服やさん!まだやってるかな〜あ、、、。ひろし君!、
、、どうしてるのかな〜あ、、、。」ふっ!と、昔し昔の初恋物語に胸が締め
付けられるような気分!。「あえるかな?、、、あえるよね!、、会えたらい
いな。」

 店先まで来て、「あの〜う!。こんにちは〜!」なんて、まの抜けた挨拶だ
けはやめましょう。そうです!しっかりと東京人らしく気前の良い挨拶にしな
くちゃ〜わらわれちゃいます!。そう自分に言い聞かせて、ちょっぴり勇気を
出しましょう。あっ!!、店の中から懐かしのひろし君の顔が覗きます。「い
らっしゃいませ。」ほら!!。ひろし君の声が聴こえてきますよ、、、。
「ひろし君!!。」
「あれ〜!!なっつかしいな〜あ!ミッちゃんじゃないの!?。久しぶり!。」
優しくひろし君の手をとって笑顔で迎えてあげましょう。「ごめんね!手紙も
出さずにいて、、、。」うつむきかげんに、ひろし君にあやまりましょう。も
うずっと長いあいだ、あなたはひろし君へ手紙を出さず仕舞いだったのですか
ら。きっとひろし君は、あなたにあやまられると困った顔して「ああ、いいん
だってば!。」とか何とかテレながらごまかすことでしょう。
「手紙には銀行で働いてるとか書いてたな〜、、、そうなのか?」
「うん、、、ふつうのOLやってるんよ!。でも、つまんないんだ!、、ひろ
し君は店をついだんだよね!。えらいな〜あ。」
「ああ、親父がうるさいからなあ〜!、、、まあ、嫌いじゃないんだ!、田舎
から出てみたいけど、この街は捨てられないし、親父もおふくろも歳だし、。」
ちょっとのあいだ、そんな身の上話に華を咲かせましょう。ひろし君の笑顔が
曇りながら、あなたの心も少しずつ昔へと帰ってゆくのを感じます。やはりど
こか変わったな〜?、きっと素敵に歳をとったせいなんなね!っ、そんな彼は
前よりもずっと優しいみたいなのです。
「時間あるんだろ!なかに入ってけよ!!、、な!、ミッちゃん、、、、、ほ
ら早く、、、母さん!!母さん!!、、、、。」
ひろし君は本当にあなたに会えて嬉しそうです。声が楽しげに踊っているよう
です。田舎ってやっぱりいいな〜あ。
 なんとなく彼の声が優し過ぎて、そんな幸福感にしばらく浸ってみたくなっ
たりします。
「荷物もってやるよ!、、ほら、、、、、」
指先に彼の温かなぬくもりが、大きな手が、そっと触れます。「あっ、、!!」
あなたは慌てて片方の手で指輪を隠します!!。「ああ〜あ!大丈夫!大丈夫
!重くないんよ!、、、、」すこし後ろめたさを感じ始めます。でも、いった
い誰に対する後ろめたさなのかな?無理して笑顔を作りながら、そんな事をふ
と思ってみたりします。あなたは指輪を外すと隠し場所に困って、もうそれは
すごく慌ててバスケットの中へほうり込んでしまいます。ここならしばらく安
心ですね。
「いいから、、、持ってやるってば、、、、」「ああ!!!っ。」
あなたは体のバランスを失って、、、、バスケットが思いっきり宙を舞ってし
まいます!!

 キャ泣球ルル〜る?!(どっヒエ〜!!お助け〜!!)

 ヤモリの灰褐色な体が、そっとバスケットから覗きます。「え〜〜!!指輪
は何処!!っ」あなたはまずヤモリより先に指輪のことを心配することでしょ
う。「だいじょうぶか?、、、、怪我、、ないか?」
「うん、、、、ありがとう、、でもなんともないんよ!」
なんともない?!とんでもない!それどころじゃありません!。「あっ!!」
思わず声になりそう〜!やだ〜あ、、あんな所に、、、。」
そっと気づかれないように指輪をつまんで、
「え〜い!!飲みこめ!!え〜いっ!!」

キュる???!

無理やりにヤモリの口に押し込んでしまいましょう。「もう大丈夫!。」
「え?!どうしたミッちゃん?。」「う〜うん!、、」もう、これで一安心!。
心臓がドキドキ高鳴ります。ひろし君に見つめられて?!。それとも後ろめた
さに押し潰されそうになって?!。無理やりとっぴょーしもない事しちゃった
から?!。とにかく、もうこれで安心、あんしん!。

 え?!後ろめたさ?。感じないって?!。
 キュルっ?!キュルルルル!るっ?(???、、、、!)

「あ〜ら!珍しい人がおいでじゃないかい!、、ミッちゃん!元気そうで〜!
え〜っ!もうすっかり大きくなっちゃって〜、、、、、覚えてるかい?ほ
ら、、、、、、、。」話せば止まらない性格の叔母さんは、きっとこのまま喋
り続けることでしょう。その間じゅう、けっして笑顔を絶やしてはいけません。
叔母さんには小さい頃、よ〜くお世話になっていたのでしょ!。話が止まりそ
うもない時には、そこでタイミングよく手土産を差し出しましょう。
「お茶、、、いれてくるからね、、、。」叔母さんは茶菓子には弱いようです。
でも、食べながらじっくりとお喋りを楽しもう!なんて、、、、そこまであな
たは考えも及びませんでした。おかげでひろし君とは、その間じゅう目で会話
する羽目に、、、。それでも初恋同志のこんな二人には、そんな話し方のほう
が気が楽なのかも知れませんものね。おせっかいな親心にちょっとだけ感謝し
てみたり、どきどき瞳を会わせ合ったり、不思議な時間が二人を包みます。
「じゃ〜、これから昔住んでた所にねえ〜。」
「ええ、、、母の見舞の途中にちょっと寄ってみたくなって、、、、、。」
「じゃ、僕もいっしょに行くよ、、、お見舞しにゆくよ、、、。」
「そうだよ、、そうしてくれると母さんも助かるよ!。じゃ!仲良く行ってお
いで、、、、。」

 二人の背中を、ひろし君のお母さんがずうっと手を降ってくれます。見えな
くなるまで、ずうっと、ずうっと、、、、、。ひろし君が荷物越しに、そっと
肩を寄せてくれます。あなたはバスケットを乱暴にふりながら、彼の大きな肩
に近付いてゆきます。恋人みたいな、そうじゃなくて、もっと素敵な関係のよ
うな、、、、とにかく幸せな気分なのです。

 あら!バスケットの中がなんだか騒がしいようですよ。キュルる〜〜!!
    (悪酔いしそ〜う!?、、、、ぐえ〜、ぐえ〜い??!)

                          つづく、、




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 ごんたの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE