#2944/3137 空中分解2
★タイトル (HVJ ) 93/ 3/ 1 11:28 (107)
真夜中の処方せん (5) ごんた
★内容
* *
あなたはこの一カ月間に、数え切れないくらいの友情を失いました。
そしてこの冬、あなたは彼女も失って、そうして淋しいクリスマスを
迎えようとしています。一言も台詞が無いかも知れない冷たい夜の一
人芝居、クリスマスが一週間後に迫っています。
あなたはアルバイトを終えて安アパートに一人帰って、まず初めに
テレビをつけます。決ってそれを見もしないのに取り合えず電源をい
れているのです。ひどく頭が病みます。あなたは女のいない生活をし
て、まるで朝食のような野菜サラダとサンドイッチをコンビニで買い
込み、牛乳で胃袋に流し込むとぼんやりテレビを観て、寝薪に着替え
ます。それから風邪薬を四錠、正しく説明書きの通りに食後に飲み込
み、ベットに横になって、死んだように眠りに落ちてしまいます。あ
る意味で、ありふれた芝居のような夜を、一人で病気する恐怖におび
えながら冷たい部屋に時を演じる役者になりきってしまうのです。あ
なたの風邪はしだいに悪化して、気の弱い甘えたがりやのあなたは、
我慢出来ずに前の女に電話してしまいます。あなたの迷!?演技に、
不思議と昔の女がだまされます。急いで駆けつけては、優しく看護し
てくれます。
「ひどい熱よ!。」
昔の女がそういったら、あなたはこう言いなさい。
「君に熱を上げてるのさ。」
昔の女はあなたに優しく口付けを運びます。口紅をすこし控え目にぬ
って、あなたの唇を誘います。あなたはこの女にまるで一年ぶりに再
会して、すっかり元気になったような明るい笑顔を取り戻しています。
「ありがとう。きっと来てくれると思ってたんだ。」
くれぐれもあなたはこの台詞を、場所とタイミングを弁えて使ってく
ださい。しかしあなたの詩的世界の標準思考回路は、まるで初な小学
生並なのです。あなたは彼女から必ずこう言われます。
「うぬぼれないでよ!。」
「愛してるんだ!。」
あなたを捨てた女はきっと決ってこう言うでしょう。
「ベットでしか、その台詞を言えないようね。」
Aパートを出てゆきます。一度も振り向きも
しないで、戸をはげしく打ちつけ女のヒールが階段に響いて、お母さ
んからはぐれた子供のような不安を覚えます。
十二月二十一日。今日は社会学のレポートの締切日です。でも何を
書いたらいいのか思い浮かびません。そこでとりあえずあなたは一人、
バスルームで時を過ごします。熱い湯につかって、彼女のことを思い
出しはじめます。
「キキ、、、。」
彼女のセミロングの髪があなたの胸を滑べりながら、小さく柔らかな
忘れたあの夜。ベットサイドに逃げ場を失い
閉ざされたままの指先、彼女の桃のような傷つきやすい乳房、白くて
ベルベットな肌を想い懐かしんでのぼせてしまっています。取り乱す
あなたを優しく胸に包みこんで、迷路のような闇の中を触れ合うこと
で愛を確かめあったあの夜を、あなたは昨日のように思い出してしま
います。彼女が別れ話を持ち出した夜、あれからずっと、あなたは壊
され投げ出された恋の迷路を今までぼんやりとさまよっていたのでは
ありませんか?。バスルームにこぼれるあなたの溜息と煙草の煙が、
あなたをふたたび甘い物語へと誘います。彼女の声が聞きたくなりま
す。あなたは彼女にもう一度だけ電話しようと思います。でも、まず
初めに分析学の講義を電話予約して、あなたはその処方箋を書いても
らわねばなりません。気の強い女を口説く処方箋は、それにきく薬が
人体に強すぎて、なかなか認可が降りないことでしょう。あなたはひ
たすらその認可を待つことでしょう。そして時が迫っていました。彼
女をさそうイブの夜です。
「俺は彼女にまいっているんだ。キキを愛しているんだ。」
あなたは友人に泣きつくように言いなさい。同情を寄せたくなるよう
な演技を繰り返しなさい。
「もう一度、風邪で寝込んでしまえばいいのさ!。」
を返してはいけません。彼の言葉は本当な
のです。彼の長年にわたる分析結果なのですから。単純な統計学と女
達のおしゃべり、寝言、溜息、告白の中から築き上げた彼の経験とプ
ライドを傷つけてはいけません。彼は背は低いが、プライドは高いの
です。
分析学者の彼はいいます。
「心には心の論理があるんだ!。」
「なんだい、それ?。」
彼は得意になって、真新しい紙と鉛筆をあなたに要求します。
「こう言うことなんだな。」
そういって、すらすらとペンを走らせます。
〜 処方箋 〜
「ベットしか持っていなくても、気の強い見
栄張りの女に貢げるほど金持ちでなくても、強引に迫ってくる女
ったらしの男に女は弱い。
2、気の強い女は、自分が一度振った男に、今までよりももっと親密
な関係を築くための危険を犯して欲しい。(この場合の女は、ロ
マンチストでわがままである。)
3、気の強い女は、愛を失うことを本当は恐がっている。(愛の財テ
クの仕方を間違っている。貯め込みすぎか、使い込みすぎ。)
4、「僕は恐いんだ、君を失いたくない。だけど、自分が恐がってい
ることを君に言うのを恥じたりなんかしない。」
(注:覚えておいた方がいい台詞。使い方と、場所に注意!!。)
5、勇気はもっと単純なものであるから、女が感情を激しくぶつけて
くるとき(泣き出す、怒り出すなど)をねらって彼女を優しく慰
めてやること。その時、女の手首を強く握りしめ、キスをする。
そして「わがままなお姫さまだ。」と、耳もとをくすぐる。
れらの項目にさっと眼を通して、すこしの間
じっくりと考えてみなさい。やがてそれが彼の分析分野に必要な女っ
たらし論理のエッセンスであることが見えてくるはずです。それは正
確に対象を捉えているに違いありませんが、あなたの場合は、それを
どうやって実戦で演じられるでしょうか?。
あなたにとって得意な行動分野、お気に入りの場所は、もう彼女は
飽き飽きしているかも知れません。彼女の身体は、あなたを欲しがっ
てはいないのかも知れません。しかしそれをあなたはもう一度確かめ
てみる価値はあります。そこであなたは考えます。
『肉体には肉体の論理があることを、、、。』
そこであなたは社会学のレポートを、テーマ自由型で『心と身体の
論理』についてまとめることでしょう。