#2943/3137 空中分解2
★タイトル (HVJ ) 93/ 3/ 1 11:26 (123)
真夜中の処方せん (4) ごんた
★内容
十二月十三日。あなたはときどき分析学者の講義を受けます。彼が
パソコンを自慢したいために開かれる講義です。彼のまとめた研究デ
ータと、その利用法の講義です。例えばこうです。
〜 1992年、データー、ベース 〜
パスワード 表現方法
共犯/微笑 女のささやき、妙な共犯の微笑は男を迷わす。
虚栄心 満たされた官能と、傷つけられた虚栄心。
憎しみ 優しさが静かに終わりを告げてから、憎しみが頭
をもたげはじめる。
深刻な愛 友愛。もし、それでよければどんなに楽だろう。
深刻な愛から逃れて、愛や愛の為の欲望から逃
れて、、
欲望 欲望に品位というものはない。
闇に疲れて 想いに疲れ果てて、夜の闇を滑り落ちて行くように
ワイングラスの底であなたの夜は泣いている。
涙/皮肉 (恋愛には、よくあることだ。)どちらか一方が泣
きわめき、やがて二人とも皮肉しか言わなくなる。
分析学者は少し得意げにあなたの方に微笑みかけます。
「こうして言葉を順序よく並べるうちに、或る法則に気が付くだろ?。
つまり、、、(何やら紙に書きはじめます。)」
『ありふれた言葉の氾濫』 + 『データ ベース(言葉の整理)』
= 『あなたに優しいあなた自身の言葉』
そこでふたたび分析学者の声が激しく飛びかいます。
「今まで!!君は、現代社会に不必要なほど氾濫している言葉の渦に
巻き込まれていた。そうだろ?。だけど、この方法で、つまり君が自
然に引き寄せられる言葉、つまり、自分の好きだな〜と思った言葉を
選んで処理すれば、情報化社会に付もののそんな言葉の障害を逆に利
用できるんじゃないかな?。」
そこであなたは、大げさなコンピュータで情報を分類、処理すること
でしか氾濫した言葉から逃れられない現実に少しうんざりし始めてい
ます。しかし講義はまだまだ続きます。
『見なれた言葉』 + 『あなたの心』 = 『あなたの感情』
『ありふれた風景』 + 『あなたの心』 = 『あなたの人生』
『疑いのない真実』 + 『あなたの心』 = 『あなたの経験』
分析学者の友人は言います。
「でも、こんなにデータを貯め込んだって使わなきゃ意味ないんだぜ
!。そうだろ?。」
まったくその通りです。使い方を、あなたはまだ知らないようです。
< データ、ベース入門編 >
プロセス
なく出合った『まだ他人の言葉』。
(補則:出会いとは、テレビ、映画、友人との会話、読書、など)
2、『まだ他人の言葉』の中から『気にいった奴』を選ぶ。
3、『気にいった奴』を集めての『よせなべパーティー』をする。
「どう?わかる??。」
「まあ、なんとなく、、、。」そう、あなたは曖昧にごまかしなさい。
「つまり、気にいった奴とはまた何度も集まりたくなるだろ?。酒飲
んだり歌ったり!。そこでだ、電話番号を聞き出して、何時でも連絡
できるようにリストをつくるんだ!。」
「つまり、それが、、。」
「そう!!、データ、ベースってわけだ!!。わかったろ?。じゃ、
わかったかどうか試してみよう。(何やらまた書き始めます)」
言葉にならないじれったい感情』
− 『あなたに無関心な言葉』 = 『?』
「答は?。」
「えっ?。」溜息ばかりが憂鬱なあなたを襲います。
あなたは、こんなにものすごい量のデータを何処から集めたのか不
思議に思いなさい。そして友人に尋ねます。
「一体全体いくら言葉が詰まってるんだい?。」
「五万は固いかな!」
ワ万!?」
あなたは呆れたような感心したような気の遠くなるような『素っ頓狂』
な間の抜けた声を出して彼をまじまじと見つめなさい。
つまり五万という天文学的な(あなたのボキャブラリーと比較すれば
そうなのです)数字を、あなたは分析してみなさい。彼にこう尋ねる
のです。
「何年貯め込んだんだい?」
二人はちょうど三時の遅い昼飯、あなたにとっては早い朝飯を、それ
ぞれの皿にそれぞれのメニューをフォークでつつきながら交互に眺め
合います。こうしてあなたは、彼の苦労話を、彼の分析結果を聞いて
上げなさい。
「つまりこういうことだな、、、。」
あなたは分析好きの友人に好き放題に喋らせておきなさい。
ヘ表現を入力して、
三百六十五 × 五十 = 壱万八千弐百五拾
今年でだいたい三年間分として、
壱万八千弐百五拾 × 三 = 五万四千七百五拾
「どうだ、納得いくだろ?!」
「はあ、、、」
あなたの疲れた鰯の頭は、彼の言葉と統計分析学的思考回路、この天
文学的数字に、まるで反応を示さない様子なのです。あなたは文系な
ので特に疲れを感じます。お昼ごろ起きたので、いささか時差ぼけの
様な気分、少し吐き気がしてきます。
「つまり、君は五万と口説き文句をもっているわけなんだ〜!?」
「女の口説き文句は、たかだか一万ちょっとだよ!。」
あなたは学者の友人をもって幸せ者です。そう、単純に思いなさい。
今のあなたには、ほんの少しの甘い言葉と自慢の体力さえあれば、そ
れで十分だということを彼は教えてくれているようなものです。あな
たの良い先生です。あなたは、この言葉の星座のなかから塵のような
隕石のかけらを分けてもらいなさい。
「いいさ。もう使い古した四千ばかり分けてやるよ!。」
あなたはそれを素直に受け取りなさい。何時かの役に立つかも知れな
いのですから。そしてあなたは考えます。
四千といえば、、、
四千 ÷ 三百六十五にち = 一日平均、十一個
あなたは果たして一日平均十一個も詩的な言葉をつかって会話するの
gっても、、、う〜ん。十年は持ちます。
分析学者の友人は相変わらず女に遊び言葉を集め続けて、この頃あ
なたはホンの少し劣等感を覚え始めています。そして、そんな友人の
プレイボーイ振りを感心して眺めているだけの我慢ができなくなり始
めています。それに気づくのに、あなたは二週間もかかるのです。
そして二週間と二日目の朝のことです。あなたは偶然、見てはなら
ないトンネル工事現場に出くわしてしまったのです。そこであなたの
友人はこう言います。
「出てってくれ!!。」
あなたは、ベットの上で女よりも慌てる哀れな男の顔に、不思議と残
酷な仕返しをしたくなってしまいます。そこであなたはこう言います。
「出てってくれ!!だって?!。まるで詩的じゃないね!。」