#2887/3137 空中分解2
★タイトル (RAD ) 93/ 2/19 23:57 ( 43)
「なんとなく」(2) 悠歩∞
★内容
部屋に帰ったあとも、私の腕の中には赤ちゃんの温もりが残っていて、なんだかす
ぐに眠りたくはなかった。
「ねえ、浩ちゃん。まだ起きてる?」
「んー。起きてるよ」
けだるそうな浩ちゃん。
「私も赤ちゃんが欲しいな、浩ちゃんの」
「おい、俺たちゃ心中するんだぜ」
「だからさ……、やめにしない?」
浩ちゃんは枕許に置いた煙草を取り、火をつける。
浩ちゃん、寝煙草はだめだよって注意したかったけど、なんだか言いにくかった。
「じゃあ、やめるか、心中するの。もともと俺には心中する理由なんて、無かったし
な」
「あーっ、浩ちゃんたら、そんないい加減な気持ちだったの!」
私はちょっぴり頭にきて、浩ちゃんを怒った。
「どっちがいい加減だよ。生きるの死ぬのって簡単に変えてさ。俺はお前が好きだか
ら、お前のいいようにしてしてやりたいと思ったんだ」
「ふーん、浩ちゃんて『俺についてこい』タイプじゃなかったんだ」
「だって、お前そう言うの嫌いなんだろ」
「そんなことないもん」
「それなら、そう言うタイプになりましょう」
そう言いながら、浩ちゃんは私の胸に手を延ばしてきた。
「もう! えっちなんだからあ」
「赤ん坊は良くて、俺はだめなのか」
「ばか」
浩ちゃんはこの日二度目の愛をくれた。
「それじゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい、浩ちゃん」
毎日、会社に出掛ける浩ちゃんを見送る。これが私の日課。
ごくありきたりの生活の、ごくありきたりの光景。
でもなんだかとっても充実してる。死のうと考えたことが、まるで馬鹿みたいに思
えてくる。
「さあ、チィちゃんもパパにいってらっしゃいは?」
「ぷうっ」
私の腕の中の赤ちゃんも、今朝は御機嫌みたい。
この子、どうもあの時に出来たみたいなのよね。一度目か二度目かは分からないけ
ど。私は二度目だと信じてる。
「生きてて、よかったな」
浩ちゃんの問い掛けに、私は大きく答える。
「うん」
おしまい。