AWC 「邪狩教団」第2章(2)         リーベルG


        
#2209/3137 空中分解2
★タイトル (FJM     )  92/10/ 1  23: 4  (145)
「邪狩教団」第2章(2)         リーベルG
★内容

 S−村へ通じる道路は一応車が通れるくらいには整備されている。当然、警戒もそれ
だけ厳しいと思われるので、玲子は森の中の道なき道を行くことにした。倒れた朽木を
乗り越えたり、薮を払ったり、ぬかるみを飛び越したりしているうちに、微かに感じて
いた肌寒さなどはどこかにいってしまった。無数の引っかき傷や、スニーカーとGパン
にはねかかった無数の泥のあとという代価は得たが。
 3度ほど機動隊員を見つけたが、いずれも発見されずにすんだ。例外なく2人か3人
のグループで、無線機とショットガンを装備している。何人かは明らかに安全装置を解
除して動くものを視界に捉えしだい、発砲しそうな様子だった。
 再びタイラント長官からの通信が入ったとき、玲子はS−村から200メートルの地
点まで進んでいた。
 『ハミングバード。こちら長官。応答せよ』
 「こちらハミングバード。どうぞ」
 『実は奇妙な情報がいくつか入った。昨夜、午前0時過ぎ、米軍のヘリが行方を絶っ
た。最後の通信地点から推測して、十勝岳付近に墜落もしくは不時着したらしい。メー
デーは発信されなかったし、フライトプランも提出されていない。何かの極秘任務だっ
たらしい』
 「米軍の動きはどうなんです?公式発表は?」
 『この情報は全くマスコミには流れていない。在日米軍内でも知っている者はトップ
の数人だけだ。しかし、これは未確認なのだが、横田米軍基地から特殊部隊が北海道内
に送り込まれたという情報がある。S−村が目的地なのかどうかはわからんが、可能性
は高い。確率の法則からいってもな』
 玲子はタイラントに見えないことも忘れてうなずいた。一つの村の住人全員が虐殺さ
れ、同じ日にヘリが行方を絶ち、特殊部隊が動きだしたという。偶然などではないこと
は首を賭けてもよいくらいだ。
 「特殊部隊というと?」
 『SEALらしい。何故か横田基地に密かに1部隊が滞在していたらしい。2日前か
らだ』
 SEAL。玲子はその名をもちろん知っていた。SEa Air Landの略で、アメリカ合
国海軍海空陸特殊工作部隊などと訳される。デルタフォースと並ぶ、特殊部隊のエリー
ト集団である。その任務は「極秘で重要」な種類ばかりなので、例えばグリーンベレー
などのようにその活躍が報道されたりすることはほとんどない。それだけに危険な部隊
である。隊員の一人ひとりが、射撃、格闘技、通信、医療、情報、語学のエキスパート
であり、SASやスペツナズの将校でも1対1で戦うのは躊躇するといわれる。
 「私一人じゃ荷が重すぎますね。任務は何なんでしょうね。凶悪犯や猛獣退治に特殊
部隊を提供してくれるほど米軍が気前がいいとは思えないし」
 『まだ、わからん。しかし、このような事態を予測してSEALを用意していたとな
ると…』
 「待って下さい」玲子は小声でタイラントを制した。身を隠していた茂みの蔭から、
気配を殺して、たった今、第6感を刺激した方向へ視線を投げた。
 3人の兵士が慎重に歩いていた。ジャングル戦用戦闘服に身を固め、サブマシンガン
とハンドガン、手榴弾などで武装している。全員がヘッドセットを装備しており、1人
がときどき、英語でどこかと通信している。少なくとも玲子の見る限りどこにもスキら
しいものは発見できない。ただし、機動隊員などと異なるのは、SEALの隊員は発砲
するのに、微塵もためらったりしないだろうということである。一目見て玲子は先刻の
機動隊員のようにコントロールするのを諦めた。
 玲子は再び気配を消したまま、身を沈めた。玲子でなければ、とっくに命がなかった
だろう。充分遠ざかったのを見計らって、通信を再開した。
 「噂をすれば影ですね。そのSEALらしいのがいました」
 『装備は?』
 「MP5K、ベレッタ、手榴弾。通信機装備です」
 『とりあえずそちらは仕方がない。1人ではぐれたのでもいれば、どんな指令か聞き
出してもいいが。そのようなことはSEALに限って絶対ありえないしな。できるだけ
接触を避けてS−村に急いでくれ』
 「了解」
 『1時間後に連絡する』
 通信は切れた。玲子は時間を見た。15時。明日の夜明けまで、およそ13時間であ
る。

  続く2時間、玲子は網の目のように配置された機動隊員の包囲網をかすめすぎるのに
全精力を使った。加えて、SEAL隊員も避けなくてはならない。3カ所ほどで、玲子
は機動隊員をコントロールしなければならなかった。あまり回数が重なると、異常に気
付く指揮官が出てくるだろう。
 玲子は汗を拭った。ようやくS−村の入り口までたどりついたのだ。村の中までは、
機動隊員も警官もいなかった。おそらく警察上層部は、何人か配置したかったのだろう
が、命令を受ける警官や機動隊員はいなかったとみえる。賢明である。
 玲子は村を見降ろす林の中の大木の蔭から、慎重に村を観察した。血の匂いが漂って
いる。裸眼視力2.0の玲子は、道に転がっている死体を見てしまい吐き気をおぼえた
。両手両足をちぎりとられ、芋虫の様に地面に投げ出されている女性の死体である。何
か人間の尊厳に対する侮辱が感じられた。
 玲子は深く息を吸って座り込んだ。ゆっくり、浅く、長く、静かに呼吸を行い、意識
を解放する。目を閉じ、眼下の村を思い浮かべた。
 玲子の意識に村の全景が航空写真でも見ているように描かれた。さらに死体の場所が
手にとるようにわかる。玲子はコンピュータ並の正確さで、死体の配置を分析した。
 −変だわ。玲子は顔をしかめて、意識の中で呟いた。再度分析する。結果は同じであ
る。
 目を開いた。軽い酩酊感を頭の一振りで追い払った。
 「何なの。このパターンは」不審そうに呟く。
 <旧支配者>の<従者>が生贄を捧げるときは、必ず何らかの儀式がともなう。その
時、贄の位置は定められたパターンに従って置かれる。そのパターンが魔法陣となり、
儀式の舞台ともなる。もちろん幾何学的なパターンとは関係がない。シンメトリックに
なっているわけでもない。最近になって、教団の研究者がいくつかのパターンが、マン
デルブロ図形と酷似していることを発見したが、何らかの法則を見つけだす努力は徒労
に終わった。
 今、玲子が読みとった死体の配置は、過去の戦いから得られたパターンのどれにもあ
てはまるものではなかった。
 玲子が考え込んでいると通信が入った。
 『村に入ったか』
 「まだ入り口です。妙なことがありまして」玲子は死体のパターンについての、考察
を語った。
 「いまだ教団の経験のない<従者>の新しいパターンかもしれませんが、私の印象で
は、意味がなくただ手あたり次第殺したように思えます。考えてみれば、<従者>が最
も好むのは犠牲者を生かしておいて、儀式の時間に殺す方法が多いはずですし。もちろ
ん<従者>の気配は残っていますし、虐殺したのが<従者>であることも間違いはあり
ませんが」
 『よし、こちらでも分析してみよう。パターンを教えてくれ』
 玲子は配置をマトリックス上の数値に変換しながら、それを云った。終わると玲子は
訊ねた。
 「何か新しい情報は?」
 『例のヘリだが、どうやらロシアから飛んできたらしい』
 「え?」玲子は驚いた。「だって米軍のヘリなんでしょ?」
 『2日前、ウクライナの旧ソビエト連邦の機密研究所を米軍の特殊部隊が襲撃したら
しい。この研究所は旧ソ連軍の最高機密で、連邦崩壊後ほとんど忘れられていた、とい
うかその存在自体がCISに報告されなかったらしい。その件の責任者は行方不明にな
ってしまった。しかし、合衆国の方は忘れなかった。以前からこの研究所の何かを狙っ
ていた。そして、ついに機会が至ったというわけだ。
 研究所はほとんど警備兵もいなかった。特殊部隊の連中は1時間の戦闘で研究所を制
圧した。その後、ヘリで何かを持ち出したあと研究所を破壊した』
 「無茶苦茶やりますね。何を研究してたんですか、そこでは」
 『そこは東側唯一の<旧支配者>研究所だったのだ』
 玲子は絶句した。再び口を開くには数秒の時間が必要だった。
 「よくそんな研究が、あのソ連で行われていたものですね。教団は知ってたんですか
?」
 『もちろんだ。我々の知らないことはない』それが大言壮語でないことを玲子は知っ
ている。『しかし、研究といっても大して重要なものではなかった。旧連邦内で発生し
た異常現象の研究程度しかできなかった。<旧支配者>関連の資料はほとんど西側にし
かないからな。しかし、<旧支配者>の力で軍事的優位に立とうという考えが、軍の限
られた上層部にはあったのだろう。冷戦時代からソビエト連邦はエスパーの研究なども
かなり真剣に行っていたしな』
 「時代遅れの発想ですね。おまけに無知蒙昧このうえないじゃありませんか」玲子は
容赦なく評した。「本気で<旧支配者>を操れると考えていたのでしょうか?」
 『それは知らん。しかし軍人という奴は度しがたい人種だからな。ちょっとまて』タ
イラントは言葉を切った。誰かと何かを話している。
 『例のパターンだが、こちらの研究者、データベースでも何も発見できなかった』
 「わたしの推測をいっていいですか?」玲子は考えながら云った。
 『いってみたまえ』
 「推論1。研究所では何か、少なくともインスマウスなんかより危険なものを、研究
していた。根拠1。米軍が危険を冒して、特殊部隊を送り込んでまで奪取したかったか
ら。つまり実際に脅威を感じていた。
 推論2。墜落したヘリにはそれがいた。根拠2。メーデーもSOSも発信されなかっ
た。補足2。米軍は誰にもそれの存在を知られたくなかった。
 推論3。S−村の住人を虐殺したのは、ヘリから逃げだしたそれである。根拠3。墜
落地点とS−村は直線距離において、10キロである。
 推論4。それは目的をもって、住人の虐殺をおこなったのではない。根拠4。意味の
ないパターン。怒りにまかせた衝動的な殺戮か、飢えを満たすためである。
 どうです?長官」
 長官の声は冷笑しているように聞こえて、玲子は少なからず憤慨した。
 『さすが大学生らしく穴の多い論理だな』
 「じゃ、長官の考えは違うんですか?」玲子は言い返した。
 『もちろん君とは異なる見解をもっているが、今話しているひまはない。そろそろ村
に侵入してみてくれ。暗くならないうちにな。回線はオープンにしておくから、異常が
あればすぐに連絡してくれ』
 「わかりました。じゃあ、いきます」玲子は通信を切って立ち上がった。それにして
も何と失礼な男だと思いながら。





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