#1765/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ ) 89/ 8/11 13:53 (100)
『闇の迷宮』 −16− Fon.
★内容
by 尉崎 翻
「牢か...」
リクトはまわりを見渡し、そして顔をしかめた。
この牢らしき部屋全体に異臭が漂っており、湿度がすざましく高い。壁はあち
[jらこちらに汚らしい苔やカビの類が生えており、不快指数は95を越えているの
は確実である。長居は無用をこうむりたい場所だ。
扉を開けると前には錆付いた鉄格子の部屋が3つあった。
何げなく中をのぞいてみる。
左は空。
真ん中も空。
右は...
腐臭。
部屋全体を覆っている臭いの原因はこの牢の内部だ。
数体の腐乱死体がそこには折り重なっていた。
床には死体の他に糞尿がたれ流しされておりより一層異臭を強めていた。
と、リクトの目をとめたものがあった。部屋の奥の壁際に膝を抱えてうつむい
ている人影がある。部屋が暗いのでよく判らないが...
リクトはランプをかがげた。
「誰かいるのか...?」
*
「のわっ! どわーっ! ひえーーっ! あわわっ!」
次々と繰り出されるティスタの攻撃を間一髪でダグはかわし続けた。
ティスタの目は異状な光を帯びており尋常でなく、執拗にダグへの攻撃の手を
ゆるがそうとしないのだ。
ダグがティスタの剣からよけた場は岩は砕け、壁は崩れおち、装飾品は切り裂
かれる。100パーセント、ティスタはあのケスクに操られている。もし反撃し
たとすれば敵の肉体はティスタそのものであるため、それはイコール、ティスタ
を傷つけることになる。
「どーせなら他の形で迫られたいよなぁ...」
ダグがぼやく。
ティスタは繭に入っていた時と同様、なにもまとってはいないのだ。
恥ずかしがる様子もなくおかまいなしに剣をふるってくる。
ラチがあかない。
ダグは床を蹴り飛び上がった。
恐るべきジャンプ力、既にティスタの頭上に位置している。ティスタの剣がそ
れにあわせて頭上に突き上げられるが、間に合わない。
ダグが空中より手刀を放ちティスタの首筋にヒットさせた。
一瞬で勝負は決まり、ガックリとティスタの身体が崩れ落ちる。
普段のダグからは想像もつかぬような動きだが...
ダグはティスタの気絶を確認して腰袋から掌くらいの長さの筒を取り出しだし
先端にある栓を外した。中には液体が入っておりダグはそれを口にふくむ。ティ
スタの身体を支え起こしその口に唇を重ね液体を流し込んだ。
「魔力によるものならば...この薬で元にもどるはずだが...」
ダグはしばらく様子を見ることにした。
*
「少し侮りすぎたようだな」
ケスクは歩きながら舌打ちをする。
女戦士のダーシィが少し遅れて後ろをついてきている。
「あの男はたいしたことはあるまい、残りの二人を葬るのが先だ」
「はい、しかしガーゼットが倒されたということは...その二人の力量は相当
なものでは?」
ややダーシィの声がうわずっている。
「案ずるな、わしの魔力をもってすればやつらなど赤子に近いわ...だがこの
近くまで入り込んで来たとすれば少々面倒なことになるかもしれぬ。その前に
手をうたねばな」
ケスクは通路から一つの開けた場所に入った。
「もう遅いわ。ケスク」
15m四方程の部屋になろうか実験室の一つである。
その反対側から女の声が発せられたのだ。
「だれだ!」
ケスクがそう叫びあげると同時に忠実なる僕のダーシィがその盾になるがごと
く前に立ち剣を油断なく構える。
部屋の反対側の壁際に一人の女性が腕を組んでこちらを見つめていた。
「久しぶりね...何年ぶりになるかしら?」
女性が組んだ腕をとき部屋のはじからケスクの方に歩きだす。
ケスクはいぶしげな顔をしたがハッと何かに気付いた表情に変化する。
「...きさまっ、レナ!!」
「思い出してくれて光栄だわ」
ニコニコしながらレナはあいかわらず、ゆっくりと近付きケスクとダーシィの
目の前まで来た。
「きさま、生きていたのか!?」
ケスクの表情が驚愕に変わっている。
「おかげさまでね...だけど、こんな所で貴方にあえるとは思わなかったわ」
ケスクが無意識的に半歩下がった。
ダーシィはチラッとケスクに視線を移す、この女をどうするかの指示を待って
いるのであろう。
「ダ、ダーシィ! 斬れっ!」
声を震わせケスクが叫び上げる。
ダーシィはコンマ1秒で反応していた。獣のように吠え剣をレナの首筋めがけ
て振り斬った。
だがその剣先は虚しくも空を斬る。
それよりも迅くレナは後ろへ下がり剣の動きの範囲から外へはずれていたのだ。
途端に部屋全体が衝撃とも勘違いするような光に満たされた。レナはあわてて
目をつぶったが、光はまぶたをも突き破ったかのごとく網膜を刺激する。
「うくっ、しまった!」
レナはあわててその場から離れる。
目が封じられているいじょう、得物を持っているダーシィと呼ばれた女戦士の
方が歩が遥かに高い。
シュッ! シュッ!
空気を裂く音が聞こえる。ダーシィが剣を振りまわしているのであろう、だが
おそらくあちらの方も目はやられているに違いない。光は既におさまっているよ
うである。目を開ければボンヤリとした光景の中に目の前の人物がこちらへ剣を
斬りかかる像が映りあわてて避ける。
間一髪、ローブのセンチを斬り裂かれた程度ですんだ。
だがこれで相手は自分の位置を確認したに等しくなった。
続け様に剣がレナの身体を襲う。
ガキッ!
剣と剣がかみあう音が響き、ドッと人が倒れるような鈍い音がした。
「レナ、いつの間に撲を追い抜いたんだ?」
声の主はまぎれもなくリクトのものである。 (RNS.#1)<つづく>