AWC 大型リレー小説>第6話 「コーラス」 山椒魚


        
#1761/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (RMF     )  89/ 8/ 9  22:55  (111)
大型リレー小説>第6話 「コーラス」            山椒魚
★内容

 「こんな馬鹿なことがあるものか」。カイロン島の浜辺で杉野森弥三郎は、
歯ぎしりをした。金属バットをひっさげて、松本喜三郎の家に押し入ったこと
までは覚えている。しかし、玄関の奥で空間転移装置のようなものをいじくっ
ているうちに何者かに後頭部を殴られ、意識を失ってしまった。どうやら、そ
の間にこのエーリアンのいる島に運びこまれてしまったらしい。

 体の節々が痛む。肋骨が2、3本折れているかもしれない。しかし、そんな
ことより手児奈と喜三郎の行動が気になった。あの雰囲気では、今夜、二人は
生臭い青春の果実を味わう行為にはしりそうだった。それだけは何とか阻止し
なければ。しかし、よろよろと立ち上がった弥三郎は、バランスを失ってヘナ
ヘナとへたりこんでしまった。

  「へーい、ヘタリック・マイ・フレンド。股間に闘志が残ってるかい」。
なまりの強い女の声が耳にとびこんできた。巨大ロボットの形状のガンボート
が近くを通り過ぎて行き、その中から金髪娘が身を乗り出して、手を振ってい
る。「な、なんだ、あいつは」。金髪娘の隣には三本松高校野球部4番バッタ
ーのサイボーグ乱菜が無表情な顔で座っていた。

 悪夢だ。弥三郎は首をふりながらうめいた。何故、あの金属スキン・ヘッド
野郎がこんなところにいるんだ。まったく信じられない。この島にいるところ
をみると、あいつはエイリアンの手下だったのか。いや、これは夢ではない。
エイリアンか悪魔か悪霊のしわざだ。やはり俺が恐れていた通りだ。

 弥三郎は、夜空の星をあおいだ。星を凝視していると、宇宙からのメッセー
ジを感じとる力がついてくるような気がする。数日前、彼は白鳥座の方角から
人類に危機が迫っているというメッセージを受け取った。人間の心を支配する
おそるべき敵グー星人がやってくる、おまえの好きな女性と力を合わせてグー
星人敵を撃退せよ、というメッセージだった。

 弥三郎は、好きな女性としてためらわずに手児奈を選び、野球場で彼女にそ
のことを伝えた。手児奈もたしかにことの重大性を理解した筈であるが、その
後の彼女の行動は、弥三郎の期待を裏切るものであった。試合では、2番バッ
ター天津に熱を入れて大騒ぎをし、バスの中では喜三郎といちゃついた。そし
て、一緒に星を見ようという弥三郎の誘いを振りきって、喜三郎の家に行って
しまったのである。

 「そうか、グー星人は既にやってきているのだ」。弥三郎は叫んだ。そう考
えると、手児奈のつじつまの合わない行動がすべて理解できるのである。奴ら
は既に地球にやってきて、手児奈の心をコントロールしているのだ。手児奈だ
けではない、喜三郎だって、いや弥三郎自身の心さえ奴らはコントロールし始
めている。なるほど、だから俺は金属バットをひっさげて、喜三郎を殺そうと
したのか。どうもおかしいと思った。カーリー監督から殺人バッティングなん
かならっていない俺に、奴らは催眠術でそう思いこましていたらしい。

 喜三郎の家に空間転移装置のような高級なものがあるというのもおかしいな
話だ。まして、喜三郎が世界でも有数の富豪、松本コンチェルンの御曹司だな
んて笑わせるじゃないか。あいつは松戸の百姓のせがれの筈だ。近頃は地価が
高騰したという話であるが、たかがしれている。

  よし、喜三郎と手児奈にかけられた心の呪縛をといてやろう、と弥三郎は思
った。そうすれば、あの二人は生臭い快楽の追求をやめるだろう。弥三郎は、
そろりそろりと立ち上がって、白鳥座に方向に視線を向け、集中的に強い思念
を送った。

 「いけないわ」。手児奈は、喜三郎から身を離した。「私と喜三郎さんがこ
んなことをするなんて何かの間違いだわ」。
  「そう言えば、そうだな。どうして、手児奈の口に俺の口をつけようなどと
馬鹿なことを考えたのだろう。そんなことに何の意味があるんだ」。
  「そうよ。それにこの家も変ね。ほんとに喜三郎さんの家なの」。
  「違うみたいだな。俺の家は松戸なんだ」。

 喜三郎は、子供の頃のことを思い出した。家の近くに梨畑があり、もぎたて
の梨をサクサクサクとかじっているうちに、何となく悲しくなってシクシクシ
クと泣いたことがある。そうか、甲子園に行けないんだったら、その代わりに
一度松戸へ帰ってみるとするか。

 「手児奈、俺、松戸に帰ることにした」。喜三郎はポツリと言った。手児奈
は、つぶらな瞳で喜三郎を見つめ、涙をこらえながら言った。
 「帰らないで」
  「止めないでくれ、手児奈。俺は半端な気持ちで言っているのではない」。
  「どうしても帰りたいの」。
  「どうしてもだ」。
 「わかった。喜三郎さんが、そう言うなら、帰ってもいいわ。でも、松戸に
だけには帰ってほしくないの」
  「どこならいいんだ」。
 「わかってるじゃない」。手児奈は、ポッと顔を赤らめながら言った。
 「わからん」。
 「ううん、いじわる」。
 「言えよ」。
 「だって恥ずかしいもん」。
 「言え」。
 「じゃあ言うわ、新・松・戸・・・」

 いよいよ喜三郎が故郷に向けて出発する当日、三本松高校ではコーラス部が
はなむけの合唱をすることになった。しかし、当日になってコーラス部の部長
の風野又三郎が風邪をひいて休んでしまったので、カイロン島から帰国したば
かりの杉野弥三郎が指揮をとることになった。

  「それでは、これから喜三郎君の帰郷を祝して、印旛沼三郎作詞作曲「帰れ
新松戸へ」を歌います、サンハイ」
 「帰ろの歌が 聞こえてくるよ」
 「カット!やり直し。サンシ」。
 「蛙の歌が聞こえてくるよ。愚ぁ愚ぁ愚ぁ愚ぁ、毛毛毛毛毛毛 毛毛毛」。
 「カット!もっとマジメにやれ。サンショ」。
 「度度度度度度度度 度度度度度度 度度度」
 「いいぞ。ヨイショ」。
 「津津津津津津津津 津津津津津津 津津津」
 「コラショ」。
  「眞眞眞眞眞眞眞眞 眞眞眞眞眞眞 眞眞眞」

  「シーン」(観客席)

  「もっとやれ、ワッショ」
 「魔魔魔魔魔魔魔魔 魔魔魔魔魔魔 魔魔魔」
  「ドッコイショ」
 「通通通通通通通通 通通通通通通 通通通」
  「ドッコイシャンシャンコーラョ」
 「道道道道道道道道 道道道道道道 道道道」

  「シーン」(ROM)                                 (つ




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