AWC 【遙かなる流れの果てに】(最終回)  コスモパンダ


        
#1744/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 8/ 5   8:37  ( 99)
【遙かなる流れの果てに】(最終回)  コスモパンダ
★内容
             (10)まだ見ぬ友人達へ

  ロックの腕の中でアニタが弱々しく息をしていた。微小な爆発の破片が、スペース
スーツを通し、アニタの肉体を貫いたのだ。
「あいつが……、あいつが行っちゃう……」
 チークダンスでアニタの声が聞こえた。
「あいつ、調子いいんだから……。向こうで成功したら……、迎えに来てやるって…
…。あいつが…戻って来た頃……、あたしは…もういない……」
 おそらく、アニタの恋人が、あの恒星間移民船に乗っているのだろう。ひょっとし
たらアニタの恋人は、ジェニファーと同じ船に乗っているかもしれないな。
 置き去りにされた男と女。不思議な巡り合わせだった。
「畜生! 行かせるもんか……。あたしを置いて行かすもん……か…」
 なんという激しい思いだろう……。時に、愛は転じて憎悪となるのか……。
「アニタ」ロックは優しく囁いた。
「トムス! トムスね」
 トムスとは、アニタの男の名前なのだろう。
「ああ。逢いたかった、アニタ」
 弱々しく、アニタは両の腕でロックを抱き締めた。
 ロックもそれに応えて抱き締めた。
「トムス。あたしのトムス……」
 アニタはキスしようとしたが、ヘルメットに遮られてできなかった。
「トムス……。キスして…」
 それがアニタの末期の声だった。
 やるせない悲しみと哀れみがロックを捕らえた。彼は、ボーイに呼ばれるまで、ア
ニタの亡骸を抱き締めていた。

「……の事故により、フリゲート艦、コンステレーションは壊滅。乗員は全員が死亡
したとのことです。また、事故現場付近にある太陽系浮遊鉱山局のKLS9023B
鉱山も爆発に巻き込まれ、かなりの被害が出た模様です。詳しいことが分かり次第、
お知らせしたいと思います。
 それでは次のニュース。
 本日、人類初の恒星間移民船団が、イオ中継ステーションを出発しました。航行は
極めて順調であり、現在のところ心配することは何もないと、宇宙移民局では語って
います。また、流星雨警報が発令されていましたが、その後の調査によると、誤報だ
ったことが明らかになり、先程解除されました。この流星雨警報のため、移民船団も
コースを変更して出発しましたが、新型の対消滅エンジンはこの程度のコース変更に
充分対応できると、スポークスマンは語っています。
 さて、五万人乗りの恒星間移民船五隻。総勢二十五万人の大移民団を送り、人類の
新しい時代が開けたと言っても過言ではないでしょう。
 ソラリア連邦首席、マーズ・C・バロステス女史は、今回の移民船団出発後、次の
ようなコメントを発表しました」

 『人類の長年の夢であった恒星間旅行、それも移民という素晴らしい形で、可能な
 時代がやってきました。今、遙か遠いエリダヌス座に向かっている人達に、我々人
 類は大いなる夢を託しています。
  これまでの人類は、愚かな歴史の繰り返しであり、そのために流された血と、多
 くの犠牲は計り知れないものがあります。
  私達は、この機に新人類としての誇りと自覚を持つべきです。

  旅立って行く人々にも、残された人々にも、お願いします。
  過去の過ちを決して繰り返さないでください。
  新人類として新しいモラル、新しい思想で困難に立ち向かい、新しい世界、新し
 い未来を作っていって欲しいのです。
  しかしながら、決して忘れてはいけません。
  言い古され、使い古され、手垢に塗れて、誰もが振り向きもしなくなった言葉を
 もう一度思い出して欲しいのです。
  すべては愛から始まります。
  照れることなく、この言葉、いえ言葉ではなく『愛』を大切にしてください。
  これを忘れた時、人類の進歩も止まるでしょう。

  そして、旅立って行く人々に。頑張ってください。
  未曾有の驚異の世界が、あなた達を待っていることでしょう。苦しいことや悲し
 いことも待っているでしょう。
  しかし、あなた達は、自らが望み、自らの道を選んだのです。
  いつも愛を忘れずに、頑張って欲しいと思います。

  そして、もう一つ。忘れないで欲しいのです。
  あなた達は、決して孤独ではない!
  この太陽系にいる多くの同胞が、いつもあなた達のことを思っています。
  私達とあなた達の間には、膨大で空虚な空間が広がっています。
  あなた達にとっても、私達にとっても、相手は手の届かない所にいます。
  でも、あなた達と私達の間には同胞の血と心でいつもつながっています。
  私達は、決してあなた達のことを忘れません。
  だから、あなた達も私達のことを忘れないでいて欲しいのです。

  エリダヌスは、古代ギリシア神話の川の神の名です。
  そしてエリダヌス座には、ギリシア、エジプト、バビロン、ローマなどの古代国
 家で、川を意味する名が付けられた星座なのです。
  あなた達は、その『大いなる流れ』に向かって行くのです。
  いつの日か、その岸辺で多くの人々が生き、繁栄できることを祈ってやみません。
  そして、更に、エリダヌスの流れに沿って、人類文化が果てし無く広がって行く
 ことを決して疑いません。

  最後に、この宇宙におられる、まだ見ぬ友人達にお願いがあります。
  この大宇宙の中で無数に息づく生命。私達は、そのほんの一握りの生命です。
  今、私達は大切な同胞達を、大海原に送り出しました。
  まだ見ぬ友人達よ、お願いがあります。
  私達の同胞が道に迷ったり、困難なできごとに遭遇した時、ほんの少しで結構で
 す。私達の同胞に救いの手を差し延べてやってください。
  同じ宇宙に生きるものとして、あなた達を信じています。
  どうか、どうか、私達の同胞、私の子供達を見守っていてください』

 マーズ・C・バロステス女史の推進した恒星間移民は、こののち二年毎に三回行わ
れ、総勢百万人の移民がエリダヌス座に向かうことになる。
 一方、KLS9023Bは軌道が狂い、放棄されてしまった。
 その後、ロック・マツオ輸送監督官は第三次恒星間移民となり、ボーイ・ショウは
マーズ・C・バロステスが派遣する最後の恒星間宇宙船に乗務することになる。

…………ソラリアン達の旅はまだ始まったばかりである。………(END)…………




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