AWC 変・本格ミステリー * ブルーorグレイ?  [3] 永山


        
#1720/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (JYC     )  89/ 7/27  14:23  (171)
変・本格ミステリー * ブルーorグレイ?  [3] 永山
★内容
ブルーorグレイ?−−もしくは「読後感想は?」−− 策斜和誰堕弄

 第3の被害者となったのは、本山が予想していた通り、成績第3位の荒木田
であった。死因は背後から心臓にかけての刃物によるもの。致命傷となったこ
の傷以外、傷はなかった。凶器は刃渡り12cm程のナイフで、現場である体
育倉庫に残されていた。正確に言うとそこにあった荒木田の死体に刺さったま
まだったのだ。指紋はなく、他の遺留品もなかった。死亡推定時刻は発見され
た当日の午後3時30分から午後4時30分。ただ、午後4時までは掃除当番
のため教室にいた事が証言されているので、午後4時からの30分に絞れる。
第1発見者はまたしても佐藤先生で、発見したのは午後5時頃。
 「どうしてあの現場に行かれたんですかな。」
吉田刑事が聞いた。佐藤が答える。
 「荒木田に来てくれるよう、頼まれたんです。『殺人事件について話しがあ
ります。誰に言えばいいのか分からないので、とりあえず、先生に話します。
午後5時に体育倉庫に来てください。』とね。それで行ってみたら、死んでい
たんです。」
 「午後4時からの30分間、どこで何をしていました?」
 「ちょっと、私を疑っているんですか。」
 「一応。仕方がないでしょう、二度も続けて第1発見者になられたんじゃ、
動機がなくても疑いたくなります。」
 「仕方がない。でも、アリバイなんてありませんよ。あのときはずっと一人
で理科室で実験の準備をしていただから。」
 「実験の準備と言いますと?」
 「明日、授業で実験をやるんで、その準備をしていたんです。」
 「成程ね。まあいいでしょう。おーい、本山君、入って来なさい。」
吉田刑事が大声で言った。そう、ここは例の応接室。本山が入って来た。佐藤
が同席したまま、本山は吉田刑事から情報を聞かされた。
 「第3の事件については以上の通りだよ。それからこれは今朝、警察に言っ
てきたものだが、この学校の園芸部に第一の事件で使われたヒ素が置いてあっ
スそうだ。それが第1の事件の数日前に盗まれていて、第1の事件が自殺で片
付くようだったので黙っておくことにしたが、一転、連続殺人事件の様相を呈
してきたので恐くなり、打ち明けたと言うことらしい。その顧問の先生は信用
して言い。動機はないし、アリバイもある。部員にしても同様だ。また、ヒ素
は盗もうと思えば誰にでも盗めるような状態だったらしく、これでは決め手に
ならないと言えるな。さて、君の方は?」
 「田中さんと鈴木のアリバイですね。田中さんは、荒木田にちょっと用があ
るからどこかで時間をつぶしといて、と言われたので、図書室にいたと言って
ますが、証人はいません。僕、文芸部だから本当は図書室にいなきゃならなか
ったんだけど、この時に限って部活を休んじゃって・・・。ついでに言っとき
ますと、僕にもアリバイはありません。えー、鈴木の方はあの日は部活がなく
てすぐに下校したと言っていたけど、これも証人はいません。」
 「ふむふむ。よし、ついでのついでだ、第1の事件での君のアリバイを再確
認しておこう。それに佐藤先生のも。」
 「私はあの日の朝、職員室で採点をしていました。ただ、他の人も多く来て
いたのですが、かえってアリバイ証明をしてくれる人はいないかも知れません。
人が多くて雑然としていた上、誰とも口をきかなかったと記憶していますから。」
佐藤は不愉快そうに答えた。次は本山だ。
 「僕は前に言った通り、A男とB男の2人と一緒でした。」
驕@「それは登校の時もそうかい。」
 「はい、一緒でしたよ。ご苦労にも朝7時から立っておられる先生が、証言
してくれたはずです。」
 「遊んでいたと言っていたが、何をして遊んでいたんだね。」
 「何にも遊具がないから、仕方なくオニゴッコを・・・。」
 「オニゴッコね。おっ、もうこんな時間か。この辺で帰らせてもらいます。
もうすぐ、事件解決だと確信していますので、安心を。」
そう言って吉田刑事が帰った後、本山が佐藤に言った。
 「先生も大変ですねー。犯人にされかけて。」
 「全く、冗談じゃない。どうせ動機はないんだから、大丈夫さ。それよりも
君達の気持ち、ようく分かるよ。私にも高2の子供がいるからね。」
 「そういえば、先生の子供って、エラいんでしたっけ。死んだ河野さんや高
橋と同じようにT大という一流校を目指しているそうで。」
 「ま、河野や高橋ほどではないが。この話はやめよう。そうそう、どうして
言わなかったんだ、荒木田に動機がある新しい容疑者を。」
 「え?何の事ですか。」
 「ふふっ。荒木田は女子に人気があったからな。それが今年になって田中が
特定の相手のようになっていたろう。だから、他の女子が嫉妬して・・・。」
 「確かにハンサムで、スポーツも勉強も出来て、話上手で、優しいでしたか
らね。でも、他の女子が殺すとしたら、田中さんの方じゃないですか。」
 「そう言われりゃ、そうだな。」
とても教師と生徒の会話と思われぬ会話は、この後も長く続いた。
 それから数日後、H高校に吉田刑事がやって来た。麦て来るなり、佐藤に、
事件の関係者を集めてくれるように頼んだ。どうやら、推理小説に出てくる名
探偵みたいに謎解きをするつもりらしい。その場所としては大層な事に、会議
室が使われることになった。一番奥の席に吉田刑事。その右隣には傍聴人とし
て校長が、左隣には検視官らしき男が一人、座っている。校長の右隣から順に
出席者を紹介すると、佐藤達郎、本山永矢、木原真子、田中素美礼、鈴木太郎。
吉田刑事が口を開いた。
 「未成年者を3人も殺すという、残酷極まりない事件が起こり、大変、遺憾
に思っています。この凶悪な事件もしかし、ここまでです。私は犯人を指摘で
きます。何のためにこうして集まってもらったかと言うと、未成年者が関係し
ており、犯人逮捕の証拠も状況証拠だけだからであります。それでは今から、
我々警察の考えを話します。質問があったとしても、後にしてください。」
そうして吉田刑事は、第1の事件での遺書のトリックと毒の飲ませ方・毒の入
手経路、第2の事件での現場への誘い出し方と凶器の入手経路及び男女を問わ
ず、犯行が可能なこと、第3の事件での凶器の入手経路のみ不明であることを
しゃべった。そして・・・。
 「以上のように、殺そうと思えば誰にでもこの3人を殺せました。我々はこ
の三つの事件を同一犯人によるものと考えました。ここで考えるべき事は、3
人に対して動機を持っている者がいるか、と言うことです。3人は成績におい
て1、2、3番と良かったそうですから、それより成績の低いものは皆、動機
があるように見えます。しかし、よく考えてみるとこの3人を殺して順位が上
がったところで、自分自身の成績の点数は何等変わらない。進学についても就
職についても、重要となるのは全体における順位ではなく、自己の成績の点数
でしょう。この位の事は誰にでも分かるはずです。となると、この三つの事件
に共通する動機は成績ではないと思われます。真の動機は何か?容疑者として
佐藤先生、鈴木君、田中さんがいますが、この内、佐藤先生だけは確実に動機
がないと言っていいでしょう。さて、鈴木君の動機ですが、第2の事件の被害
者である荒木田君に対して大変強いライバル意識があったそうですね。田中さ
んの動機は、荒木田君との間に何かトラブルがあったのかも知れません。」
こう言われて鈴木は元々きつい感じのする目を一層、きつくして吉田刑事をに
らみ、田中はその可愛らしい顔をひそめ、
 「想像でものを言わないで!」
と叫んだ。吉田刑事が続ける。
 「黙ってください。どちらが犯人にしろ、動機がこれで正しいとすると、犯
人の狙いは荒木田君を殺す事だったと言えます。他の2人は成績が動機と見せ
かけるためのおとりだったのです。そして第3の事件でのアリバイですが、田
中さんは図書室にいたと言った。その時は偶然、本山君がいなっかったから良
かったですが、もしこのアリバイが嘘で、本山君がいたら、すぐにばれていた
訳です。彼女が犯人だとしたら、こんな危険な嘘をつくとは思えません。それ
に引き換え、鈴木君のアリバイは下校中だったという、極めて曖昧なものです。
本当だと証明しにくい代わりに嘘だとも証明しにくい。こう考えると、他に動
機を持つ者がいない限り、鈴木太郎を犯人だと断定せざるを得ません。」
 「何をぬかす!俺はそんな事、やってねえよ。てめえの目は節穴か!?」
鈴木が大声で怒鳴った。それは犯人が指摘され驚いている皆を、さらに驚かせ
る程の大声だった。吉田刑事が再び言った。
 「物的証拠はないが、状況下ら見て、君が犯人としか思えない。反論できる
ならしてみなさい。」
 「刑事さん、僕が反論してもいい?」
鈴木に代わって、本山が言った。
 「ん、いいだろう。」
不可解な顔をして、吉田刑事が許可する。
 「言わせてもらいますと、この事件の犯人は別にいます。その名は佐藤先生
です!」
 「ば、馬鹿な。動機は何だ?」
吉田刑事と佐藤が同時に言った。
 「進学ですよ。刑事さんは知らないでしょうが、佐藤先生にはT大を目指し
ている高2の男の子がいます。その人、かなりのモノだけど、今度殺された3
人には及ばないらしい。そしてこの3人もTを目指していたんです。もう、お
分かりでしょうが、動機は息子の大学進学の手助けです。教師なら、息子の強
敵となる者ぐらい、分かるでしょう。」
 「しかし、証拠は。」
 「佐藤先生、うかつでしたね。第3の事件で凶器として使われたナイフ、あ
れと同じ物が入った刃物セットを先生が買うとこを、僕、見たんです。ひょっ
としたら、職員室の机の引出しの奥にでも隠しているんじゃないですか?」
 「嘘を言え!先生を馬鹿にするとただじゃすまんぞ!刑事さん、どうぞ調べ
てください。何なら家の方も。」
そう言われて、吉田刑事は調べに行った。すぐに戻って来ると、
 「ありましたよ、佐藤さん。」
 「ば、馬鹿な。こ、これは罠だ。誰かが私をハメたんだ!」
その声は空しく響くばかりであった・・・。

 佐藤達郎が逮捕されてから数日後、図書室にて。木原が本山に言った。
 「私、考えてみたの。あの事件の真犯人を。」
 「へえー、先生じゃないって言うのかい。」
 「そう、真犯人は本山君、あなたよ。」
 「こりゃ驚いたな。名探偵を勤めたこの僕が犯人だって?また、どういう理
由で。」
 「まず、第1の事件のあなたのアリバイ。あなたは警察にオニゴッコをして
いたと言ったけど、本当はかくれんぼうなんでしょ。かくれんぼうだって鬼が
いるから、かくれ鬼って言うこともあるわ。A男君達に聞いたのよ。かくれん
ぼうなら、遊びの途中に犯行が出来るわ。それから遺書。あなたが言ったやり
方で遺書らしき物を書かせることは出来るけど、どうして原稿用紙に書いたの
かしら。普通、教えてもらうなら、ノートにでも書くんじゃない?考えてみた
らあなたは文芸部だから、英米の小説の原書を訳していて分からない所があっ
たから、原稿用紙に書いて教えてくれないかって頼めば、謎は解けるわ。第2
の事件で高橋君を呼び出すにしても、彼は図書室にいたのだから、あなたにと
って好都合じゃない。証拠とされた第3の事件のナイフの件だって、職員室の
掃除の時に先生の机に隠したのよ。もしチャンスがなければ理科室があるし。」
 「証拠はないが見事だ。そう、僕が真犯人だ。だが君は、僕が一番分かって
欲しかった動機について、何も言ってくれなかった。」
 「動機なら、成績でしょう?」
 「バカバカしい。やっぱり分かってくれていない。僕がこんな事をしたのは、
大人によって自由を奪われ、勉強ばかりせざるを得なくなった子供を解放して
やり、償いを大人にさせるためだ。殺すことでしか、河野達を解放させられな
かったんだよ・・・。」

 読者に対し、作者の僕、本山は言った。
 「読後感想は?河野さん、高橋君、荒木田君、そして佐藤先生?」

−終−





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