AWC 『闇の迷宮』 −13−            Fon.


        
#1643/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (DGJ     )  89/ 6/16   6:21  ( 97)
『闇の迷宮』 −13−            Fon.
★内容
                             by 尉崎 翻
「魔法か...」
「リクト大丈夫?」
 レナがリクトに肩をかそうとする。
 リクトは自分の脚で立ち上がる。
 見上げるといまだガーゼットは先程の体勢のまま微動もしていない。
 グッ...グッ...
 と、いううめき声を絞り出すだけである。
 レナが両腕を伸ばし上げ、掌をガーゼットの方に向けた。
 とたんにガーゼットの全身が外側よりバキバキバキッと砕け始めた。
 ゆっくりと始まったその崩壊はやがて急速に早まり各部所を破壊し始めていた。
 腕がもぎとれ、脚が砕けおちる。
 その本体から離脱した残骸も次々崩壊していく。
「グオーーーーーォォォ....!」
 うなり声とも区別つかぬ絶叫とともについに頭部も跡形もなくなった。
 破壊された岩は砂のように流れ落ち、やがて埃となり、空中に消えていく。
 驚愕して見ていたリクトの前にただひとつ、空中に漂う拳程度の石が残った。
 微弱にもその石はドクッドクッと脈を打っている。
「レナ、こいつは...」
「魔石「「「魔人の心臓ともいってもいいわ」
 レナは石に近付き手にとった。
「一口に魔人といってもその種類は様々だわ「「「なんかダグの真似みたいだけど
 この魔人は魔石からつくられた魔人よ。魔術師がね。わたしはそれを元に戻した
 だけ」
 レナは目をつぶり両手で魔石を握りしめた。
 数秒程してから目を開き魔石から手を離す。手から放たれたそれは再び空中を漂
いはじめた。
「さ、リクト行きましょう」
「どこへ?」
「もちろんこの魔人を創造し、わたし達を排除しようとした魔術師さんの所によ。
 大体の情報は魔石からたった今読み取ったわ」
 レナはダグが消えた地点まで歩き床を調べた。魔石「「「すなわちガーゼットの
記憶からすればダグはここから下へ落ちたらしい。
 が、既に下へ崩れ落ちた穴はガレキで塞がっており侵入は不可能であった。
「しかたないわね」
 レナは一瞥するとガーゼットが最初にこの部屋へ侵入するために崩した壁の穴へ
と向かう。壁をくぐる所で振りかえり、眼でリクトを促した。
 「「「まったく魔法ってやつは得体がしれないな
 リクトはチラッと浮遊する魔石を視界の片隅に置いてからレナの後に続いた。
「そうね。わたしもそう思うわ」
 レナが足元の岩に注意しながら奥へと進む。
 それがタイミングにも言葉としてもあまりにも適切だったために、リクトはレナ
が自分の思考に対して言葉を返したことに気付かなかった。
                  *
 ダグは扉の向こうの気配を察した。
 特に音も聞こえずにトラップも無さそうである。
 音を立てずに慎重に扉を開けはじめた。
 扉の向こう側は広い部屋となっており岩の柱のがところどころに立っている。壁
のあちらこちらにはなにやら歯車や筒を複雑にからめた不可思議な機械がおいてあ
るかと思いきや、遠くの棚には瓶に入った奇妙な液体が無数と言える程に並べられ
ている。なにかの実験室なのかもしれない。
 先程マントの人物の前に出現したのは石化したティスタであった。
 その人物がなにやらブツブツと唱えたとたんに、ティスタは石化から解除され床
に倒れ込んだのである。同時にティスタの身に着けていた鎧や衣服、剣さえもが灰
のごとく崩れ落ち消滅した。そして傍らにいた女がティスタを片手で持ち上げ(肩
に娘をかつぎ上げたまま!)空になった繭にティスタを放り込んだのである。
 繭は直ぐに反応したかの様に自然に閉じティスタを受け入れた。
 それを確認するとマントの人物と女は入って来た扉から再び外に出ていった。
 その後を追うかと一瞬悩んだのだがダグは先にティスタの押し込められた繭に近
付いた。中のティスタは繭の中で立った姿勢を保っていた。当然、全裸のままであ
る。弾力のある繭を叩いたり揺すったりしてみるが反応はまるでない。
 他の繭の中の娘達と同じに氷のような表情のままで固く眼を閉ざしている。
 やがてダグは自分の行動が無駄なことと悟りマントの人物の後を追うべく扉から
外に出たのだ。
 自分が落ちてきた通路に出る。マントの人物はすでに影も形もない。進んでいく
と最初の地点らしき所にたどり着いたのだが天井の穴は岩で塞がっていた。たいし
て気にもせずにさらに進むと通路の終りをしめす扉にあたったという次第である。
 実験室らしき部屋には人影はなく幾つかの方向に扉の無い通路が続いていた。
 ダグはまわりに注意しながらそれぞれの方向を見渡す。ざっと見た限りではどの
通路も同じように見える。が、ダグの耳が一つの方向からかすかに聞こえる話声を
逃がさなかった。足音を消しながらそちらの方向へ歩き出した。
「...にしても、20日ごととは待ち遠しいものであるな」
「はい。しかし娘の補給もそう度々は...」
「判っておる」
 通路を歩いて行くと拡がっており、遮る物がなく次の部屋となっていた。
 岩の陰からソーッとダグは部屋の様子をみた。
 部屋の大きさはさほど広くはない。天井も3mとはないであろう。
 部屋の中央には金属で出来た桶のような物がありその横にマントを羽織った人物
が立っていた。それと1m程離れた所に女がいたのである。
「だが...わしとしては毎日でも行ないたい。次の日からあと19日待たねばと
 思うと...」
「重々に判っております。ケスク様。しかし近頃ではそう大きな戦もございませぬ
 ので...一度に大量に補給いたしますとあやしまれてしまいますから」
「うむ... まぁそれよりも準備をはやくせい。ダーシィ」
 マントの人物はケスク。女の方はダーシィと言うらしい。
 だがそんな事よりもダグは目の前の光景に眼を奪われた。
 部屋の天井には格子のように木が横たわっておりあちらこちらで交差している。
 その木には数ヵ所、植物の蔓で編んだロープが縛りつけられており、そのもう片
方にはそれぞれ人間の両足を縛りつけてあるのである。早い話しが数人の人間が天
井からロープで逆さ吊りにされているのだ。その数人全てが娘「「「おそらく先程
の繭の中に入れられていた娘達であろうが「「「娘であり両手は背中で別のロープ
で固定されていた。奇妙なのは娘それぞれの容姿が全裸であるのにはかわりがない
が微妙に違う事である。数日吊されたように顔に血が浮き出ているのもいればたっ
た今、吊されたようなのもいる。
 ダグは心の中でつぶやいた。
「「「まさか次はロープで身体全体を縛って鞭でしばくんじゃないだろうなぁ
                        (RNS.#1)<つづく>




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