AWC 『Z−NETは秋の空』(10)旅烏


        
#1152/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG     )  88/ 9/19  21: 9  (100)
『Z−NETは秋の空』(10)旅烏
★内容

「高校生は喫茶店の出入り禁止だろう?」

「それじゃ、家が喫茶店の娘は年中謹慎ばっかじゃないの?」

「お前がついてきたんじゃ、わかるものもわからんくなるわい」

文句を言い合いながら、いつのまにか杉浦巡査と美紀を引き連れて、冬野所長は外に
歩き始めた。
駅前のホテル葵に入って行くと、フロントの頭髪の薄い男がイヤな顔を露骨にみせた。

「警察の旦那、もう勘弁して下さいよ・・そう毎日毎日来られたら、お客が寄付きませ
 んよ」

警官の制服を着ている杉浦巡査を見て、冬野所長の事を刑事と勘違いしているようだ。

「オホン、まぁ今日の検証で終わりに成るはずだから安心しな」

「そうよ、オジサン・・すぐ犯人も捕まえてあげるから」

杉浦巡査のオロオロした態度を尻目に、冬野所長と美紀は堂々としたものである。
駅前のホテルと言っても、もともと田舎である岡崎市なので大したホテルなんか有る
わけもなく、狭苦しいエレベーターは一基だけで階段はフロントの正面に半ば非常階段
のような鉄製の重いドアで仕切られている。

「先輩、これじゃあとてもフロントの目を掠めて入り込むことなんて出来ないですね」

確かに外部の者の犯行という見方は少し苦しい。
エレベーターで事件のあった部屋に行き、冬野所長はドアから廊下の絨毯の上まで、
嘗めるようにして調べた・・・
そして最後に風呂場に入って、風呂場のドアと床の隙間などをしゃがみ込んで調べると
なんとなく沈んだ表情で立ち上がった。

「そう言う事か・・・いや、まさかそんな事・・・あの事件のあった日に、この階の
 ゴミ箱からセロテープかビニールテープが出てきた筈だけどな?」

冬野所長は傍らでボケッと立っている杉浦巡査を振り返って聞いた。

「え?先輩よく分かりましたね、そこの廊下の端のゴミ箱から丸めた透明のビニール
絶縁テープが出てきて、どっかで電気の配線工事でもしたのかと思ってましたが」

「やはりな...そうするとそれしかない訳だ..」

「なによ、一人だけでブツブツ独り言いっちゃって・・勿体ぶらずに教えなさいよ」

メガネの杉浦美紀が不満そうに唇をとがらした。

「ここのホテルが安普請だった事が手がかりを残すことになったな・・」

「先輩!なにか手がかりが有ったんですね?犯人は誰ですか?」

冬野所長は、背をそらすとゆっくりした口調で「いくら出す?」...

「へ?」

杉浦巡査は目を剥いた...

「事件を解決してやったらいくら出すかって聞いてるんだよ」

「せ、先輩!お金取るんですかぁ?」

冬野所長は凄い目でジロッとにらんで気の弱い杉浦巡査を震え上がらせた...
なにしろ弱いものには滅法強いのが、我らの冬野所長である。

「いいか、俺は私立探偵だぞ..ここで私立という意味をよーーく考えてみような..
 お前らは親方日の丸だから、金の出どころが分かっていないんだ。
 俺んとこの事務所は俺が稼がないと、干上がってしまうだろうが..」

「もう半分干上がってんじゃん」

自称ヤングギャルの美紀は言いたいことを言って、冬野所長にニラまれると舌をペロッ
とだして首をすくめた。

「いくらですか?あの..僕、あんまりお金ないんですけど..」

「喫茶杉の次男坊が何を情けない事言っとるんだ..お前と俺の仲だから、特に30万
 にまけてやるぜ..」

「さ、さんじゅうまんえん!!」

杉浦巡査は腰が抜けそうな声をだした。

「ねぇねぇ..ZEEKさん、私のキスでサービスしてくれない?タダにしてよ」

おかっぱ頭にメガネの杉浦美紀が冬野所長にすり寄って行く...

「わっ!よせっ!お前のキスなんざ5円でもいらんわ..あっちいけ」

「ふん!失礼しちゃうわね..私がレディになってから後悔しても遅いよ」

「せ、先輩..その30万円の内訳はどうなっているんで?」

冬野所長は指を折りながら..「えっと、タマちゃんのサラリーが12万円だろ、
それに俺の分が最低16万円だろ..事務所の家賃が2万円..」

どうやら完全に冬野所長の内輪の事情から30万円と言う数字が出てきたようだ。

「あの..先輩..月賦になりますか?」

「何回くらいだ」




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