#1148/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG ) 88/ 9/19 20:48 (100)
『Z−NETは秋の空(6)旅烏
★内容
杉浦巡査が、割って入った。
冬野所長の説明が続く...
「昨晩のように蒸し暑い夜に、エアコンを止めて寝るなんて不自然きわまり無いと思う
が、どうかなぁ...窓だって錆び付いてて開かないし、普通ならとても寝れんぞ」
「冷え性だったんじない?」
二人がやけに真面目なので、玉井和子は面白がって茶化す...
ジロリと玉井和子をにらんで沈黙させてから、冬野所長はくたびれた背広のポケット
に手を突っ込み、もったいぶって黒いプラスチック製のマッチ箱のような物を取り出し
た。
「ここに重要な手がかりになる物がある」
「先輩、それ何ですか?」
「殺人現場に有ったワープロの熱転写インクリボンだ」
杉浦巡査は大げさに驚いた。
「げっ!黙って持ちだしたんですか?」
「どうせ、警察ではこんな物に着目するような気の効いた奴はおらんだろ?」
「証拠隠滅罪で逮捕されますよ!」
「お前が現場に返しておけばわからんさ」
平気な顔で冬野所長は言った...
「そ、そんな..僕を懲戒免職にさせる気ですか?」
「ふん、平巡査がおおげさな...懲戒免職になったら探偵事務所でやとってやるぜ
ビビル事はない」
「杉浦さん、ここに雇われるようになったら人生はオシマイよ..」
「タマちゃん!それは、いっくら何でも....」
冬野所長は目をむいた..
「スミマセン..つい..」
ブツブツ文句を言いながら、冬野所長はインクリボンの巻いたフィルムを戻して一生
懸命解読し始めた。
しばらく無言の時が過ぎ...突然、ドアが乱暴に叩かれると、ドスの効いた声が
「おい探偵屋、現場から持出した物を返して貰おうか...さっさとドアを開けた方が
身のためだぞ」とドアの外から怒鳴った。
岡崎署の浦野警部の声である...
警察手帳を持っていなかったら、ヤクザの殴り込みと大差無い大声だった。
冬野所長に言わせれば、「警察なんて大きな顔をして拳銃持ってるだけ、ヤクザより
始末が悪い」と言うだろうが...
「ど、どうしよう...もう駄目だ..懲戒免職だ...」
ドアを叩く音はますます高くなっていた...
気の弱い杉浦巡査は、真っ青になって震えている。
「別にお前が持ちだした訳じゃないから、恐がることなんかないさ」
「で、でも..」
ドアがぶち破れそうな音に、タマちゃんがおそるおそるドアを開けた。
大柄でパンチパーマの浦野警部は、ずかずかと入り込むと冬野所長の手にしたインク
リボンに視線を走らせて皮肉な調子で言った。
「探偵稼業と言うのは、泥棒の真似も本職はだしだな」
「お誉めに預かって恐縮です..」
「このまま留置場にブチ込んでやっても良いんだが、折角解読したならそいつを聞かせ
て貰おう...手間が省けるからな」
ワープロの熱転写プリンターは、印刷した文字がリボンから抜け落ちるため、印刷済み
のリボンを光に透かして見れば書かれた文書の内容が解読出来るのである。
さすがに浦野警部は、現場のワープロにインクリボンが無いのを気がついたらしい。
「まだ、さわりだけしか読んでないけど...」
浦野警部は、傍らの折り畳み椅子を引き寄せると、どっかと腰をおろして尋問口調で
「面倒だから、声を出して読め」とドスを効かせる。
内容は杉浦巡査が言っていた通り、飯野代議士の汚職とスキャンダルに関した物であっ
た。
その他にも芸能人の恋愛関係などに関する脅迫めいた文章が2つ程解読出来たが、これ
では恨みを買うところが多すぎて、かえって容疑者が絞りにくい。
その芸能人と言うのは、どこかの人妻とのスキャンダルを派手に取りざたされた為、
ここのところテレビからも遠ざかっている北野芳英という若手の歌手だった。
玉井和子がコーヒーをお盆にのせて、運んで来ると「インスタントで申し訳有りません
が、どうぞ...」と、ついぞ見たこともない、愛想一杯の笑顔で浦野警部にコーヒー
を出した。
「や、サービス満点だな..スマンね」
外見の恐さとは違って、浦野警部は目尻を下げて嬉しそうな声を出す...
逆に冬野所長と杉浦巡査はポカンとケゲンそうな表情だ。