#533/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG ) 87/12/ 2 23:15 (116)
『殺しとキスとセーラー服』(4)旅烏
★内容
「くだらん事を言っとらんで、さっさと現場検証に掛からんかっ!」
「はっ、はい!」
警察の到着をしおに、私たちも引き上げることになった・・・もちろん居場所をしっか
りと聞かれた上であることは言うまでもない。
「久美子・・・」
階段を降りながら芳夫君が小声で話しかけた。
「なに?」
「お前、以外とグラマーなんだな」
私は、この無神経な男の頬に手形をつけてお礼をしてあげた・・・
その夜は殆ど明け方にうつらうつらしただけで、登校時間が来た。
「ふわぁーーあ」
あくびをしながら、教室にはいると丁度一番後ろの席の芳夫君も背伸びをしながら大あ
くびをした所である。
「わぁ、二人揃って目は真っ赤だし睡眠不足なんて怪しいなぁ?」
親友の真弓は、明るくて良いのだけど時々余計な事を言ってくれる。
「そうさ、昨日の夜は久美子が一晩中寝かしてくれねぇんだから、参っちゃうぜ」
昨日の仇討ちのつもりか、芳夫君はとんでも無いことを言い出した!
教室にドッと歓声が上がる・・・
「ちょ、ちょっと・・冗談じゃないわ!何てこと言うの!誤解されるでしょ」
慌てる私を見て、芳夫君は片目をつぶってペロリと舌をだしている・・・
「いいこと!私と芳夫君は決してそんな関係じゃありませんから、無責任に誤解をしな
いように希望します!」
私が決然と椅子の上にたって大声を張り上げた時、後ろで声がした・・・
「始業時間と放課時間を誤解しないように希望するものである」
潮が引くように教室のざわめきが消え、椅子の上に仁王だちの私を残して静かになった。
「あ、先生・・来てらしたんですか?」
「君達にとって、誠に不幸だとはおもうがね・・・」
私は音がしないように、そっと椅子から降りると「先生はとても生徒思いですから、む
ごいお仕置きはなさいませんよね?」と言ってみた・・・
「どうかな?人を見かけで判断してはいかんぞ」
先生は出席簿に目を落としたまま、アッケラカンとした口調で答えた・・・どうもこの
ままでは済みそうもない。
「あの・・・先生、私と小林君は教室の後ろで立ってましょうか?」
「すまんな、そうしてくれるとたいへん助かるよ」
死なばもろとも、地獄の道連れである・・・ザマァごらんあそべ!
「えーーっ!先生、僕もですか?」と、芳夫君は驚いて目を白黒させている。
「いやなら、今度のテストは10点割引になるが、好きな方を選んでいいぞ」
芳夫君は、しぶしぶ立ち上がるとわざとらしくビッコを引きながら教室の後ろに歩いて
きた。
「久美子、兄貴に事件の事聞いたか?」
やはり、芳夫君も首無し殺人事件の事が気になって眠れなかったようだ。
「お兄さんは、昨日は帰らなかったの・・事件の夜はいつもそうよ」
「ふーーん、じゃあ今夜も帰れないのかな?」
「そうかも知れないわ・・でも同じ団地に殺人犯人が居るなんて、なんだか薄気味悪い
わね」
「恐かったら俺が久美子の部屋に泊まりに行ってやってもいいぞ」
「バカ!そっちの方が余程アブナイわよ」
冗談と分かってはいるが、なんとなく胸がドキンとした。
教室に二人だけが立っている、というのは妙な連帯感が有るものだ。
「ちょっと、待ってよ・・そんなに怒らなくてもいいでしょ?」
下校途中で、親友の真弓が薄い鞄を振りながら息をはずませて追ってきた。
「ふん、この裏切り者・・・おかげでいい恥かいたじゃない」
「あら、小林君と二人で立ってる時も、結構いい雰囲気だったわよ・・・あの二人はデ
キているっていう噂も、まんざら根も葉もない噂でもないのかな?」
「ぶつわよ、私と彼は家が隣同士だってだけだから変に誤解しないでね」
「私と彼かぁ・・・ふーーん・・ま、今んとこはそうかもね」
その後、団地の近くまで歩きながら昨夜の殺人事件の事を細かく話すと、真弓は目を丸
くして驚いた。
「そんな恐い事件が有ったのに、よく一人で寝られるわねぇ」
「私の兄さんは刑事なのよ、それとも真弓が泊まりに来てくれる?」
「とんでもない!殺人事件の有った所なんて、親が聞いたら腰を抜かすわ」
薄暗くなったマンモス団地は、所々の窓に明りがついていた。
部屋に入って、鞄を投げ出すとセーラー服を脱ぎ捨てて、白のアンゴラのセーターと、
チェックのミニスカートに着替えた・・・
セーラー服と言うのは、冬寒くて夏は暑いし着心地の良いものではない。