AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(1)コスモパンダ


        
#513/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/ 1   6:20  ( 97)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(1)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート}「皮かぶりのガキが、舐めた真似をおしでないよ!」その1

 まだ五時過ぎだが、ウイークデーだろうが、ウイークエンドだろうが、この辺りでは
いつもこの状態だ。やたら若い奴が多い。アベックで来る連中は少ない。男も女もこの
店に来てパートナーを見つける。さっき声を掛けてきた胸のでかい超ミニの女の子なん
か、成熟しきってたけど、歳を聞いて驚いた。十一って、本当かな? どう見ても、二
十位に見えたんだけど。よく育ってること・・・。
 ノリスが行方不明?
 昨日はいたぜ。一晩、部屋を開けたぐらいどうってことないじゃないか。いつものこ
とじゃないか。昨日誰と一緒にいたかって? そうだな、ジャンにバンス、それにチビ
のコウイチもいたっけな。そうそう最後はルノーと店を出てくのを見たな。
 俺がノリスと一緒だったろうって? 誰に聞いたんだ? 言えない? どうせクチコ
ミ・マークだろう。俺は別の奴と朝まで一緒だったんだ。誰と一緒だったって? それ
がお前とどういう関係があるんだ? 俺がノリスを誘拐しただと? ふざけんなよ。ど
うせどっかの男としけこんでるのさ。うるせえな、分かったよ。俺と歩いてたノリスは
別の男を見つけて、そいつとどっかへ行ったよ。そいつの名前? 知らねえけど前にラ
・プペの店で見掛けたな。背がやたら高くて、そうだな百九十近くてひょろ長い奴だ。
髪はブルーに染めてた。
 ノリスか、肉付きのいい奴だな。それから・・・。おい、その物騒な物を仕舞ってく
れよ! よく覚えてないんだよ。昨日はとことん飲んで・・・、記憶なんてドブの中に
流しちまったよ。ノリスとやったよ。だけど、朝、目が覚めると奴はもういなかった。
どこに泊まってたか? スロータ・ヒル。ああ、五十六番街の裏手にある安宿さ。そこ
へ行けよ! 行ってオーナーに聞けばいいだろう。ぼろ宿のくせに、高い料金を取りや
がって!
 おい、行くのか? さんざん、人にものを尋ねといて、ただってことはないだろう。
いや! いや、分かった。そ、そんな、気を使って貰ったんじゃ、心苦しいな。いや、
いいんだ気持ちだけでよ。分かったから、そいつを仕舞ってくれよ。わーっ、わーった
、分かったから。行くよ、行くから・・・。
 その少年はうって変わっておとなしくなった。百九十近い、柄のでかい奴だったが、
少年だった。歳は十四、五というところか。借りてきた猫のようにおとなしかった。そ
れもその筈、目の前に〇・五ミリのバレンタイン・レーザーの銃口を突き付けられれば
、誰だってそうなる。
「行くよ。カズ」
呆気に取られて見ていた僕に声を掛けると、ノバァはスタスタと店の出口に歩いて行っ
た。そのノバァに少年が飛びかかろうとした。だが、ノバァの身体は少年の視界から消
えた。彼は凝った細工の皮製のウェスタンブーツを履いていた。そのブーツの踵が蒸発
した。左右のブーツ共だ。少年は潰れた蛙のように床に寝そべっていた。そいつの頭の
周りの床に、ボスッ、ボスッという音と共に穴が幾つか開き、焦げ臭い煙が立ち登って
いた。ノバァはそいつの頭をブーツの踵で踏みにじりながら、バレンタインを構えてい
た。
 店の中は急に静かになっていた。
「皮かむりのガキが、舐めた真似をおしでないよ! 今日は、未成年に免じて許してや
るけど、今度こんなことしたら、尻の穴から手を突っ込んで腸を引きずり出すよ!」
 ノバァは捨て台詞を残すと、ドアに向かう。ドアボーイが慌てて、ドアを開ける。ノ
バァは軽く頭を下げ、ドアボーイに流し目をした。
 普段のノバァの瞳はグレーだが、今の切れ長の目の中の瞳はグリーンだ。ノバァが怒
っている時はこうなるのだ。
 ドアボーイはその魅惑的な瞳に一瞬、気をそそられたようだったが、すぐに職業上の
笑顔を浮かべると、またのお越しを、と深々と頭を下げた。
 僕は、そのノバァの後を追い掛けた。ドアボーイはノバァが出た途端、ドアを閉めた
。そこにタイミングよく、ぼくはドアと鉢合わせし、高くもない鼻を強か打った。ドア
ボーイはほんの上辺だけ謝ったが、その目は笑っていた。
 鼻を押さえたまま、店の外に出ると、ノバァに怒鳴りつけられた。
「何やってんの! 愚図だね、まったく。さっさと歩きな、若人!」
 ノバァは口が悪い。その悪さは外見からは想像もつかない。そして性格も悪い。
 おっと聞こえたかな? だが、スタイルは抜群だ。
 彼女はショッキングピンクのぴったりしたパンツに、踵の低い真っ白いパンプスを履
いていた。背が高く、足の長い彼女だから似合うが、その辺のブスの太い大根足じゃさ
まにならない。パールカラーの襟ぐりの大きなシャツを軽く着こなし、淡いピンクのス
カーフを長い首に巻きつけていた。
 スナックの駐車場から赤いスポーツカーが出てきた。ツー・シーターのそいつは、小
型だが、とんでもない化け物だ。旧出力基準で言えば、排気量九千CC、五千馬力のガ
スタービン型エンジンを積んでいる。ポリ・セラミックス製のエンジンは軽く、車体重
量も五百五十キロしかない。こんなアンバランスな車は滅多にない。下手にアクセルを
踏めば、空が飛べるという代物だ。冗談ではなく、この車はGEM(地表効果車)にも
なる。もっともまだ一度も試したことはない。
 ノバァはその車をカーマインと呼んでいる。「真っ赤カー」という意味だ。その赤い
化物は歩道に立つノバァの側で停止すると、ガルウイングドアを開けた。
 彼女はさっそうと乗り込む、僕は車の鼻先を回って彼女の隣の助手席に乗り込んだ。
ドアのクローズボタンを押すより前に、太い五点式のシートベルトを閉める。最後のベ
ルトバックルがカチリと音を立てると同時にガルウイングが閉じた。そして、航空母艦
のカタパルトから発射される戦闘機のような勢いでカーマインは飛び出した。忽ち対G
シートのような座席に身体が減り込む。あっという間に、視野が狭くなった。スピード
メータは百五十を超していた。
「制限速度をオーバーしています。速度を落としてください」
 車のオートドライバーが優しく注意する。
「お黙り!」
「しかし、ノバァ、これ以上の速度での走行はあなたの運転技術では危険です。速度を
落とすか、私が代わって運転いたしましょうか」
「うるさいわね。カーマイン、あんた、誰の御陰でスクラップになるところを助けられ
たか忘れたの!」
「ノバァ、あなたです」
「そう、あんたはあたしに大きな借りがあるんだからね。でもいいんだよ。もう一度、
あのスクラップ置き場で雨曝しになりたいのなら、いつでもそう言うんだね。すぐに連
れてってやるよ」
「お願いです。ノバァ、あそこだけは戻りたくありません。だから、どうか助けてくだ
さい。私は真面目なオートドライバーです。何でも御言いつけください。何でもします
。音楽は如何でしょう。この時間ですと、FMのDRGでは、ジミー・マッケンローの
『イージー・イブニング』というイージーリスニングを中心とした番組があります。そ
れからTKVでは『最新ポップヒット百』、COSではグレン・リトナーのクラップ・
ジャズ・コンサートとか、その他に」
「うるさい、うるさい、ウルサーイ。あたしが今一番欲しいのは静寂。黙らないと、言
語プロセッサを引き千切るよ!」
 オートドライバーは沈黙した。
 僕も彼女の怒りのとばっちりがこないように、黙っていることにした。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 コスモパンダの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE