#487/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NNH ) 87/11/10 18:32 ( 95)
『すくらんぶる交差点』 (7) 小嶋 淳
★内容
すくらんぶる交差点
小嶋 淳
7
夕方だからさ、狭い駅前通りは、学生やら買物おばさんやらで、やたらごった返して
いる。
そんな光景を、20分程眺めていると、白いパーカーにチェックのスカート姿の宏
やって来た。
「気が向いたの?」
「まさか。買物の序でよ」
「……」
うぐぐ……。
だって何も持ってないじゃないか。
「何も持たずに、か?」
おれが、からかう様に言うと、
「……用がないのなら帰るわよ」
と、宏美は頬を膨らませた。
で、とりあえず、おれ達2人は、喫茶店『K/2』に入った。
「どうして来なかったんだ? 宏美らしくない」
先天的に、おれはしつこいらしい。
「たまにはサボりたくなるわよ、私だって。それより何時から他人の事言えるように
なったの? 伸君は」
「……」
「今日、デートだったんだ」
「デート?」
「そ、デート」
「というと、世間一般に言う、あれか?」
宏美は、ストローをくわえたまま小首を縦に振った。p
「で、あいては?」
と、喉まで迫り上がってきた言葉を、グっと飲み込んだ。
よく柵lえたら、宏美のこと言えない……。
「伸君はどう? うまくやってる?」
おれは何気無く、
「ぜーん然」
と、肩をすぼめてみせた。
いくらおれが素直じゃなくたって、
「まあまあかな」
とは言えない。
それこそ宏美との距離が、、何万光年もワープしちゃうから、さ。
宏美は黙ったまま、窓に映るイルミネーションを眺めていた。
気まずい沈黙が、果てしなく続いていく。
「ね、帰ろ」
そう言うと宏美は、すっきりした足を90度ターンさせて腰を上げた。
ヘ 階段の手前で、宏美は足を~めておれの背中を突いた。
その人、碧が昇ってきたんだ、それも男と2人で……。
二十歳ぐらいかな。
おれが、碧に気付くのとほぼ同時に、
「あ、松本君」
碧もおれに気付いた。
相手の男は、ちょっとけげんそうな顔をして、今までおれ達が座っていたテーブルに
さっさと腰を下ろした。
(こんな奴、おれの好敵手じゃないよ)
って感じにさ。
「一昨日はどうも、ね」
「あ、いや。ね、誰?」
おれは、窓際で余裕しゃくしゃくって風に煙草を吸っている、さっきの男に視線を向
けた。
「ん? あ、彼よ」
碧は、あくまであっさりと答えてくれた。
頭がクラクラする。
「もう2年位になるんだけどね、此処1,2ヵ月彼の仕事が忙しくって逢えなかった
の。で、今日久し振りにデートしてきたって理由」
碧は、早く彼の傍へ行きたいって様子だ。
「そ、そう。良かったじゃない」
笑って返したけど、多分顔は引きつってたに違いない。
宏美は隣でクスクス笑っているしさ。
「うん。それじゃ、宏美と仲良く。またね」
そう言い残して、碧は男の所へ小走りに掛けて行った。
「……」
な、何なんだ、いったい。
これじゃまるでおれが、『アホ』じゃないか……。
おれは、宏美に腕を引かれるまま『K/2』を後にした。
浅間神社の前まで来たとき、
「恋人にずっと逢えなくて、淋しかったのよね、きっと……」
宏美が自分に納得させるように呟いた。
「別に付き合ってた訳じゃないし……」
「無理しちゃって」
宏美はおれの腕を、キュっと抓った。
「……ごめんね」
「ん?」
「さっきのデートの話、実は嘘なの」
茶目っぽく舌を出した。
「そんなことだろうと思ってたさ。宏美とデートする物好きがいるわけないもんな」
し、しまった。
また心にもないことを……。
「でも松本君は、物好きでしょ?」
茶化す様に、宏美が言う。
「……」
「明日、朝10時、駅のホームで待ってて、ね」
神社の並木が、風に揺れた。
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