#485/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NNH ) 87/11/10 18:23 ( 86)
『すくらんぶる交差点』 (5) 小嶋 淳
★内容
すくらんぶる交差点
小嶋 淳
5
陽も傾きかけた三軒坂を独り昇っていく。
こんなのかなり青春ぽいんじゃないかな。
ほら、よくあるだろ? 夕陽に向かって何とかとか。
さすがにそこまでは……、ね。
「今、由香の家にいるんだけど松本君も来ない? 吉川君や坂本君もいるから」
って、さっき碧から電話があったんだ。
で、おれが鳥羽由香の家に着いた時には、吉川や坂本は、ほとんど出来上がっててさ、
「よう松本、遅いじゃないか。待ちきれなかったぜ」
なんて、軽い言葉が飛んできた。
「ああ」
適当に答える。
はっきり言って男なんかどうでもいい。
「早かったわね、松本君」
碧が笑顔で迎えてくれた。
「わ、松本君久し振り。覚えてた?」
由香も奥から出てきた。
「もち。中学の同窓会以来だよね」
「うん、そう」
結局集まったのは、おれを含めて男女共3人。
3−3=0、で完ぺき、の筈だけど……。
とりあえずこういう場合に出てくる話題なんてもんはワン・パターンでさ。
『誰某は、中学の時暗かった』だの、『誰と誰は、密かにできていた』だの、って
ね。
今日の場合、少々アルコールが入っているからさ、あった事、なかった事、取り混ぜ
て会話が飛び交うわけだ。
そのうち、坂本が、
「夜風にでもあたってくるか」
なんてキザっぽく言いだした。
酔っている場合ってのは、面白いもので、みんななんにでものっちゃってさ。
おれ達6人は、ワイワイと屋上へ昇っていった。
アルコールで火照った肌に、夜の冷んやりとした風が心地好かった。
10分後、おれは天井を仰いでいた。
雰囲気で飲み過ぎたらしい。
「どうしたの? 松本君。体の調子でも悪い?」
碧がやってきて、心配そうに覗き込んだ。
と、無意識のうちにおれは、自分の唇を碧の唇に重ね合わせていた。
「ちょ、ちょっと松本君」
碧が避けないのを良いことに、おれはただボーとした頭で肩に掛かっていた手を、碧
のバストの辺りまでゆっくりと降ろしていく。
Tシャツ越しにも、女の娘の感触が伝わってくる。
「だめよ」
碧は、おれの手を振り払った。
「いいだろ、少しぐらい」
何言ってんだろ、おれは。
「みんなが戻ってきたらどうするの?」
碧はそう言うと、バルコニーに出て深呼吸した。
碧が、指を絡めながら、
「2人きりなんて、また襲われちゃいそう」
と、悪戯っぽく言った。
「またぁ、もう忘れてよ」
おれもちょっと冗談ぽく返した。
吉川達3人は、方向が違うんで、おれと碧2人きりってわけだ。
で、ちょうど駅前のすくらんぶる交差点まで来た時、事件は起きた。
宏美とバッタリ、逢ってしまったんだ。
ま、こんな場合は、宏美が気付かなければなんでもないんだけど、視線まで合ってし
まったものだから、事情は複雑だ。
もう無視するわけにはいかない。
で、焦って、何を血迷ったか、買物袋を抱えている宏美に、
「い、良い天気だな」
なんて言っちゃって……。
「いいなぁ、彼女と真夜中のデートなんて」
宏美は、何気無く言った。
こういう場合、『何気無いパワー』は効くよ。ほんと。
「あ、いや、うん、でも」
言い訳が、日本語になってない。
「気を付けた方がいいわよ碧。松本君手が早いから」
宏美は碧にそう言い残すと、さっさと行ってしまった。
……sigh。
「ね、まずかったんじゃない? 宏美と逢っちゃって」
「……」
「松本君、宏美に気があるみたいだし。宏美も松本君のこと好きみたい」
「どうして?」
「なんとなく、ね。女の感っていうのかな」
「……」
−Screen5 end…To be continu