AWC 『すくらんぶる交差点』 (1) 小嶋 淳


        
#481/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (NNH     )  87/11/10  18: 7  ( 79)
『すくらんぶる交差点』  (1)  小嶋  淳
★内容



                          すくらんぶる交差点
                                                          小嶋  淳


                                  1

  水の中から、弾んだ歓声が漏れてくる夏休みの午後。
  『先天性・女全欲症候群(つまり、女の娘全部欲しい病)』の、軟派芹沢は、あちこ
ちでその症状を十二分に振り撒き、美樹本はおれの隣で、zzz……しちゃっててさ。
  おれはおれで、さっきからプールサイドのデッキ・チェアに寝そべって、肌を焼く序
でに通り過ぎる女の娘を、ウォッチングしていた。
  もっとも、女の娘をウォッチングする序でに肌を焼いていた、といった方が正解かも
しれないな。
  うん。
  で、おれが丁度ピンク・ビキニの娘に視線ビームをこれでもかこれでもかって浴びせ
かけてた時、
「ま・つ・も・と・君」
  と、頭上約……で女の娘の声がした。
  芹沢の悪い癖なんだ。女の声を真似て他人をからかうのは。
  ほら、よくいるだろ?つまらんギャグ連発して喜んでいる奴。ああいうタイプなんだ
よ。
  こういう人種は、無視するにかぎる。
「松本君てば!」
  このての人種は、得てしてしつこい。
「よせよ芹沢。鳥肌が立つじゃないか」
  おれは寝そべったまま『あっち行けよ!』と、片手で押しやった。
  瞬間、明らかに芹沢のそれとは違う感触が手を伝わった。
「やっだぁ松本君。エッチね」
「な、なんだ?」
  振り返ると伊藤碧が、セミ・ロングの髪から雫を落として、茶目っぽく笑って立って
いた。
  碧は中学時代の同級生さ。
  形の良いバストとキュッと上がったヒップが、赤いビキニに良くフィットしている。
「もう松本君たら、女の娘に見とれてて、気付いてくれないんだからぁ」
  碧はプッと頬を膨らませた。
「あ、いや、そうじゃなくてさ、うん。てっきり芹沢がからかってるんだと思って、
ね」
「だれ?  芹沢さんて」
  碧は高校が違うからね、知らないんだ。
  色魔芹沢のこと。
「おれの悪友。悪戯好きな奴でさ」
「ふーん。あ、それはそうと、いいの?  こんな所で遊んでて、大事な高3の夏だぞ
「うーん、おれの場合はさ、受験よりまず卒業できるかどうかが問題だからね」
「だと、遊んでてもいいわけ?」
「うむ、鋭い質問。でも他人の事言える?」
  碧は舌をチョンと出した。
「大体、偏差値を上げるためだけの勉強なんて……。なんとかを入れないコーヒーだ
よ」
「ふーん、重症ね、現実逃避の」
「……」
「ね、松本君、まだ遊んでる?」
「勉強でもしようってんの?」
「ううん。久し振りの再会だもの、落ち着いた所で、色々とお話しようよ」
「おれはいいけど」
「じゃ、正面ゲートで待っててね」
  そう言うと碧は、レストハウスに向かって小走りに駆けて行った。
  しかし、碧がこんなに積極的な娘だとは思わなかったな。
  で、おれがゴソゴソと帰り仕度をしていると、
「逢引きか?  いいなぁ」
  いつの間にか美樹本が隣でニヤニヤしていた。
「そういうわけだから、先に帰るぜ」
「……」
「お前はいいだろ、由美ちゃんがいるんだからさ」
「松本だって西川がいるじゃないか。夫婦喧嘩の原因になっても、おれ知らんからな」
「冗談だろ?  宏美とはただの友達さ」
「お前はそう思っててもさ、西川はどうだか」
「……」
  そりゃ宏美は美人で可愛くて賢いけどね。
  だからといって、まだ宏美ひとりに絞りたくないというか軟派というか……。
  おれにとっても、宏美にとってもそれが正解だと思うんだ。
  おれはさっさと荷物を纏めると、
「じゃぁまたな。芹沢によろしく」
  と美樹本に残して、約束の場所に向かった。

                                            −Screen1 end…To be continu





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