#394/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XKG ) 87/10/12 1: 1 ( 84)
極東エアライン クエスト
★内容
極東エアライン クエスト
俺は焦っていた。もう2、3日でアメリカ行きだというのに、安い切符が手に入らな
い。経費節減のため、会社はぎりぎりの旅費さえもくれないのだ。
「くーさん、電話や。」くーさんとは俺、九重素人のことではないか。
「まいど。浪速ツーリストです。切符、やっと取れました。」
「そーですかー。いやー、よかった。で、なんぼくらい...」
「シスコ往復で6万。安いでっしゃろー。」
「えー、ほんまかいな。どこの会社ですか。」
「極東エアラインです。」
「極東エアライン、知らんなー。そんな会社あったかなー。」
「なかなかええサービスするらしいでっせー。まあ、とにかく他は今の時期、満員です
よって。九重さん、ここにしときはったらどうですか。」
9月27日、俺は大阪空港のゲートにいた。
極東エアラインというロゴを付けた飛行機が確かに窓の外に見える。
「えらい派手な飛行機やなー。」
何とその旅客機は極彩色を使い分け、まるでデコトラのようである。
尾翼にはライオンらしいマークが付いていた。
やがて搭乗時間がきて、俺は飛行機に乗り込んだ。
飛行機の中は思いがけないことに、ゆったりとしている。
普通は10列以上ある客席が、窓際にそれぞれ2列、中央部はがらんと空いて実に広々
としている。
他の乗客もびっくりしたり、嬉しそうにしている。なぜか男ばかりだ。
スチュワーデスがでてき...なんと、彼女たちは網タイツ、あのバニーガールの服
装ではないか。
にこにことしながら、なんとも悩ましい彼女たちはセクシーな身振り表情で緊急脱出
の手順を演じた。
機が飛び立ってしばらくすると、スチュワーデスがやってきて、何と俺の横にすわっ
た。そういえば、2列ある客席は全て窓際しか客が座っていない。
「私、あけみ。よろしく。注文、何になさる?」
「あ、ええっと、ビ、ビール。」思わず俺は答えてしまった。
「こ、この飛行機だいぶ変わってますねー。」
「あら、そうかしら。最近、競争が激しいから...」
俺のところにビールとおつまみが運ばれ、俺はあけみというスチュワーデスと何だか
知らないが乾杯をした。
そうこうする内に機内の照明が暗くなり、赤や黄色のなにやら怪しげなスポットライ
トだけになってしまった。
天井から何時の間にかミラーボールが降りてきて、きんきらきんきらとした光りをあ
たりに撒き散らす。
そして、人をおかしくしてしまいそうな煽情的なBGMが流れてきた。
「くーさん、いい男ねー。」などといいながら、少し酒に酔ったのか顔を赤らめてあけ
みが俺に絡みついてくる。豊かな胸に俺の手をもっていこうと...
「え、えーと、ここは飛行機やなかったんやないですか。」
「いいのよん。サービスだから。」
あ、あけみは俺の.....
「トイレ行ってくる。」
俺は迫ってくるあけみをなんとか振りほどいて、チークダンスをしている乗客とスチュ
ワーデスをかきわけていった。
そこここで溜め息や悶えるような声が聞こえる。
トイレのそばに、ボーイのような格好をした男がいた。チーフパーサーであろうか。
「あ、あの、この飛行機ちょっと普通やないみたいやけど、大丈夫でっしゃろか。」
「お客さん、なにかご不満でも。」
「いや、不満やなんて。た、楽しい飛行機ですけど、なんかこういうのは初めてなもん
で。」
「当社は後発ですので、内容で勝負しております。サービスの点ではどこにも負けませ
ん。」
「確かに...しかし、往復6万でこの客数、このサービスでよーやれますね。」
「九重さんでしたね。あなたの現在の料金を精算しますと、搭乗費の他、ビール、つま
み、オードブル、テーブルチャージ、サービス料等、しめて52万8千円です。」
「えー、そんなあほな。私、そんなもん払いません。第一、そんな金もってへん。」
俺は男に詰め寄った。
「わかりました。ではこちらへどうぞ。」
俺は仕切られたキャビンのような所へ連れこまれた。
そこには、黒づくめの姿をした男達がたむろしていた。
男達の一人がドスのある声で言った。
「にいちゃん。ええ度胸やないか。この極道エアラインに金持たんと乗るやなんて。」
「ここは、サービス、食事、酒、ぜーんぶ別料金や。チケットの条項よう読んでみい。
われ。」
俺は搭乗券の裏に細かくてとても読めそうもない字がずらずらと書かれていたのをチラ
と思い出した。
「あ、しかし、しかしです。普通は...」
「普通も特急もあるかい。われ。そうか、金ない、よー払わんゆうんやったらしやーな
い。わしらもボランティアやないし、ここで降りてもらおか。」
男達が有無をいわせず、俺を押さえつけ、背中にパラシュートをくくりつけた。
非常口が開く。
「お一人様お帰りぃー。」
背中を思いっきりどつかれ、俺は空中に放り出された。
尾翼についた唐獅子のマークが、俺をかすめていった。