#393/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (BMD ) 87/10/11 23:55 ( 70)
「その日、その時」(続・ある日常) By友岸 誠
★内容
「キーン・コーン・カーン・コーン」
チャイムが鳴りわたる。治は校庭で朝練のサッカーをしていた。練習とはいえ久しぶ
りの試合であった。先生が会議で練習を見られない、という訳で練習試合となった。
治にとっては始めての試合だったので張り切っていた。スライディングのタックルを
決めて6年を驚かせる程であった。
「校長先生、なにを見ているんです? 会議中に。」
治のクラス担任、北村はサッカーを窓から見下ろしていた校長に尋ねた。少々非難め
いた口調である。北村が言っているように今は臨時の職員会議中だったので当たり前の
指摘だろう。
「休校にしないのは仕方がないとして、昨日のニュースを子供達に何て言えばいいんで
すか? まさかR国が悪いんだから仕方がない。とは言えないでしょう? 私は昨日に
児童に作文を書かしたんですよ。『原爆をどう思うか』という題名で、それを昨日の今
日でこんな・・・」
今まで黙っていた校長が口を開いて言った。
「ねぁ北村君、A国とR国のどちらが悪いというのは我々が教える事ではないでしょう。どっちが悪いなんて事は我々教師の判断を超えています。質問されたら旨く話題をそら
せて核の怖さをじっくり話してください。それでいいじゃないですか」
「しかし、校長、児童はそれでは納得しません。」
「それを納得させるのも君の仕事だろう! これ以上会議する事はない。解散!」
校長は突然怒鳴った、黙っていた他の先生もビックリしたようだ。
「・・・わかりましたっ、失礼します」
北村はそう言って職員室からでて行った。なんかスッキリしないな、そう考えながら
北村は屋上に出た。児童は立ち入り禁止の場所である。北村はこの場所に寝そべって空
を眺めるのが好きであった。自分にも答が判らない物を教える事が出来る筈がない、こ
んな簡単な事をなんであの校長にはそれが判らないのだろう。
−−−ピンポーン・パンポーン
「北村先生、北村先生、至急職員室まで来て下さい。」
放送が入った。呼び出しだ。
「ちぇ、なんだってんだ。まったく・・・」
北村は毒つきながら階段を走っていった。
「−−−え、休校?」
北村は言った。校長はさっき言った事には触れずに言った。
「そう今、教育委員会から連絡があってな。『児童に影響がでるとまずい』そうだ。
良かったじゃないか、これで面倒な説明しなくてもすむ。さ、早く連絡網で電話して」
−−−そういう問題じゃないだろう!
北村は出かかった言葉を抑えて自分の机に向かった。
「・・・そうです。今日は休校という事で、ハイ、連絡網でお願いします。では」
最初の児童に連絡を終えた北村はふと窓の外を見た。朝練をしていた子供達が家に帰っ
ている。辺りを見回すと先生達も帰り支度をしている人もいる。どうやら先生も休みに
なったようである。
「ここにいても仕方が無いな」
そう言って北村も帰る支度を始めた。
最後の児童から確認の電話を受けた北村は校長に形だけの挨拶をすませ学校から出て
いった。
−−−なんかクサクサするな・・・
北村はすぐ家に帰る気にもなれずブラブラと散歩していた。街には別に変わった様子
はない。その事に腹を立てながら。
いつの間にか歩行者天国にきていた。ここでは自分に自信のある若者が他人にアピー
ルしている事で有名な場所である。今日も例外なくいつものように賑わっていた。
いったいなんなんだ? 昨日、同じ惑星の中で数千人が死んだんだぞ、知らない事は
ないだろう。それなのになぜ、平気でいられるんだ? 自分で無ければ関係ないのか、
撃った奴も撃たれた奴もそれを聞いた奴も全て同じ人間なのに・・・明日は自分がそう
なるかもしれないのに! 結局、俺達は自分が被害に遭わなければ被害の大きさが解ら
ないのか、「日常」という枠から出られないのか!
その時彼の耳に最近ヒット・チャート上昇中の「宇宙船地球号」という曲が入って来た。「自爆装置付きの宇宙船か・・・」
そうつぶやいたのが北村かどうか、それは北村にもわからない。
とりあえず宇宙船地球号がその日その時を生き抜き、果てしない大宇宙を飛んでいるのは事実らしいが・・・
【 END 】