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詩篇 空中の書19 直江屋緑字斎 |
#331/1850 CFM「空中分解」 ★タイトル (QJJ ) 87/ 9/11 12: 7 ( 17) 詩篇 空中の書19 直江屋緑字斎 ★内容 <人類の鉱脈 17行> 人類の鉱脈 最初に出会ったのは優しい眼をした狂女であった。眷属(けんぞ く)の一人であるから雰囲気は思い浮かぶのだが、明瞭な顔の輪 郭は記憶の底に沈んでいる。雪が降っていたのかも知れぬが、降 っていなかったのかも知れない。まだ晩秋の頃であったかも知れ ない。田圃の傍の清らかなせせらぎで洗い物をしている後ろ姿も、 和服であったようにも思えるが、判然としない。振り返った女と 言葉を交しているのだが、何を喋ったのか、たぶん挨拶をしたの だろうが、その貌ともども思い出すことはできない。もしかする と、彼女に関する思い出とは、後年になって一族の不可思議な秘 匿の匂いと証言によって組み立てられたに過ぎないものなのかも 知れない。 だが、たしかに最初に会ったのは彼女のはずである。逆算すると、 二十三、四歳、それ以降は知らない。
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