AWC 電話       香山水舞


        
#37/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (EAJ     )  86/11/ 5   0:36  ( 27)
電話       香山水舞
★内容
 軽いジャズピアノの音が部屋の中に満ちている。
 くくくっく、と独りで笑う。長い夜はいつもこうしてふけて行く。

「聞いてるの」
 電話の向こうの声は生彩を欠いている。
「んん」
「頭が変になりそう」
「どんな風に」
「  何か   熱を持って、気が狂いそう」
 べつにあなたの気が狂おうと私には関係ない。くくく、また少し
笑いながらウィスキーのグラスをとる。私は小さな悪意と嫌悪の中
に生きている。文学的な深刻かつ有意な状況を考えているのではなく、
自然とそういう環境に慣れてしまっているのだ。心にもない意地悪な
声が私を動かしている。暖かいように見えて、とてつもなく冷酷な
言葉を平気で口にする。
「どうかしたの」
「嫌なのよ、なにもかも」
「よくわからないな、」「なにかあったの」
「そうじゃなくて、    」
 甘えているのだろうか。
 煙草に火をつける。考えがまとまらない。なにを私に期待している
のだろう。言葉がみつからない。
「それで   あなたに電話を  」
「電話を」
 受話器を持つ手は白く冷たい。
「聞いてくれる    」
 私は受話器を置く。くくくと笑いながら。




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