#2242/3621 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 22/06/09 18:07 ( 41)
カオナシならぬ形無し 永山
★内容
WOWOWで放送の松本清張映画「顔」(一九五七年 日本)を録画視聴。ネタバレ
注意です。松本清張作品初の映画化がこれだそうで。
原作は松本清張の同名小説で、短編集で昔々、読んだ覚えがあります。確か小説で
は、殺人を目撃されるのは男性だったような。
個人的には原作での印象以上に、ドラマで観てイメージが固定された気がします。何
せ、同作はテレビドラマ化されること十二回にのぼるみたいで、その内のいくつかを観
ているので大凡の構図は記憶にしっかり残っている訳で。
そんななじみ深い作品の映画版を初めて観てみましたが……いやあ、さすがに古めか
しい。使われている音楽が、昔のスリラーのソレで、今どきなら乱歩や横溝による怪奇
譚でもこんなメロディは使いますまい。でもまあそれは時代を反映していると考えれ
ば、納得できます。社会派推理の大御所の作品でも、推理物はスリラー、怪奇譚で一括
りにされていたんだなと。
観ていて落ち着かないのは、感情移入できる人物がいないこと。ヒロインは、序盤は
闇医の男に無理矢理付き合わされて悪事に手を貸し、モデルとして成功の芽が出て来た
ので逃げようとするも見付かり、やむを得ず闇医を列車から突き飛ばして殺害――と、
いかにも悲劇のヒロインて描かれていたのですが、次にモデルの仕事をちょっと重ね
て、偉いさんの中年男に気に入られてのし上がると、男を利用してどんどんスターダム
に駆け上がっていく。仕事以外での話し言葉も汚く、平気で嘘をつく。こんな具合だ
と、途中で目撃証言などから彼女が窮地に陥りそうになっても、応援する気になれな
い。
目撃者の青年も、純粋な正義感かと思いきや、情報を小出しにして新聞記者や警察か
ら金をせびり取り、ヒロインの顔をはっきり覚えているのにモンタージュ作成ではいい
加減な顔を作る。しまいにはヒロインに接触して言いたい放題。
ならば刑事はというと、笠智衆演じる刑事が一応、主役各のはずなんですが、あまり
表立って活躍しない。警視庁の刑事に見下されがりな地方の刑事といったポジション
で、窮屈そう。警視庁の刑事らに対する物言いもはっきりしない場面が多く、もどかし
い。
もどかしいついでに、捜査の段取りももたついている感じがするし、偶然が結構作用
しているし、脇役達(ヒロインをサポートする中年女性やヒロインと付き合っているプ
ロ野球選手、ヒロインのモデルの先生でありながら後に追い越される大御所)が活かし
て切れていない惜しさがそこかしこにあるしで、ちょっと残念な出来映えかなあ。
あと、ヒロインの成り上がる様が、以前観たドラマ版とは大きく異なっていました。
一九五七年頃というとまだ芸能週刊誌やグラビアなんてなかったのかな。テレビ番組も
バラエティ系はそんなにないでしょうし、歌を唄わずに売れて行くには、ファッション
モデルとして専門誌や週刊誌の表紙を飾るのが一番で、そこから映画出演だの何だのに
結び付くみたい。ドラマ版だと、テレビ出演してすぐに顔が売れていったイメージがあ
ります。
他にも、プロ野球選手の扱いがやけに低かったり、目撃者の指名が報じられたりと、
現代と比べると隔世の感がありますね。
ではでは。