#1164/1165 ●連載 *** コメント #1163 ***
★タイトル (sab ) 26/01/11 14:02 ( 42)
「ナショナリズム的誘拐事件」4
★内容
システムといえば、誠は最近、楽天モバイルに乗り換えたのだが…。
或る、学校帰りの夕方の事だった。五反田TOCのユニクロに寄った。
昭和の匂いが残る巨大ビルの中で、店内だけが均質な白い光に満たされている。
誠はヒートテック極暖を一枚手に取り、値札を確認した。1990円。
別にこんなものは通学用だった。サルサを踊る時には、
ドルチェ&ガッバーナを着ている。
本当は矢沢永吉をモデルにしているのでヴェルサーチェでも着たいのだが、
柱のささくれにひっかけただけで40万おじゃんにするのはもったいなので
買わなかった。
ユニクロのレジに立っていたのは、又しても中国語訛りの日本語を話す若い女だった。
名札にアグネスとあった。年は二十五前後、顔はBOA似か。
「ユニクロ公式アプリをインストールすると、五百円分プレゼントになります」
決まり文句のような口調だったが、その言葉に含まれる“アプリ”という単語が、
誠の注意を引いた。
「でも、格安スマホで、スピード遅いから」
「大丈夫です。今、入れてください」
彼女は即答した。
誠はその場でダウンロードを始めた。
だが、進捗バーは遅々として動かない。少し進んでは止まり、また止まる。
その間、背後の列は別のレジへと流れ、誠のいるレジだけ塞がった恰好だ。
でも中国人の店員のアグネスが“いい”と言ったのだから、いいだろう。
十分ほどして、ようやくインストールが完了した。
支払いが終わり、全てがスムーズに終わったと思っていたのだが、
アグネスが、お釣りとレシートを渡す時に、誠の手の平にぎゅーっと押し付けてきた。
(この中国女め、自己主張が強い。日本人だったら絶対に余計な事はしないのに)。
店を出ると、誠はすぐに電話をかけた。店長を呼び出し、事実だけを並べた。
その場でアプリを入れるよう指示されたこと。十分ほどレジが使えなかったこと。
釣り銭を渡す際に不必要な接触があったこと。感情は混ぜなかった。
翌日、同じ時間に店を覗いてみると、アグネスはレジにいなかった。建物の外で、
冷たい風に晒されながら、段ボールを整理していた。
薄い上着の隙間に晩秋の冷たい空気が入り込む様に見えた。
(俺がクレームを入れたからだ)と思って、誠はアグネスに接近して、声をかけた。
楽天モバイルではない、もう一台のスマホ2
ーー以前サルササークルにいた留学生から譲り受けた端末を取り出し、
番号を交換した。「何か仕事が出来たらやるよ」。善意の申し出の積りだった。
彼女は短く頷き、視線を落とした。その反応を、誠は肯定として受け取った。
帰り道、ユニクロのアプリを開く。購入履歴が写真付きで並び、
ポイントが加算されている。オンラインで買って、店舗受け取り。
大学の帰りに寄ればいい。ユニクロなんて、
ヒートテックとエアリズムとソックスしか買わないから。
柳井が気に入らないから。山口県の衣料品店のおっさんの癖に、
東レの技術と東南アジア人からの搾取で儲けやがって。こ狡い商売人が。