AWC 揺らめぎの狭間と、少女その弐 天魔・零


        
#292/1160 ●連載
★タイトル (yut     )  04/06/14  23:32  (199)
揺らめぎの狭間と、少女その弐 天魔・零
★内容
森を出た、二人を迎えたのは太陽の光だった。
二人は、道を歩いた。二人は並んで歩いた。
歩き始めて、10分ほど経った後、絢水は言った。
「ねぇ、コクウ」
と言った絢水は、コクウと言う標的を見据え、掌底を放った。語尾には、くらえという
言葉を残して。
「なんだ、いきなり?」
コクウは、それを一瞬で避け、聞き返した。
絢水の掌底は、熟練された技だった。コクウは絢水を、只者では無いと感じ取ってい
た。
絢水は、自分の掌を見据えた後、唸った。
「やっぱり、私の予想は間違ってなかったなぁ。ねぇ、コクウって強いでしょ?私の掌
底避けた人って、コクウが初めてなんだよ」
「まぁ、俺の部族の中じゃ一番強いけど。でもなぁ、アヤミ。いきなり、掌底放つな。
危ないだろ」
コクウの言葉を受け取ると、絢水は、あはは、と笑いながら答えた。
「確かに。私の掌底、ちゃんと喰らったら、骨の一本や二本折れちゃうかもね」
絢水が先ほど放った掌底は、心臓を捉えていた。喰らっていたら、コクウは意識を失っ
ていただろう。
「しかし、お前の掌底、凄いぞ。アヤミ、武術の心得あるのか?」
「ちょっとね。1ヶ月間ある人に鍛えてもらったら、1ヶ月でその人より、強くなった
よ」
すごいでしょー、と絢水は笑いながら話す。
「ほぉ」
コクウは、絢水が持つ、身体能力・潜在能力に興味を持った。
思考を凝らしながら、歩き続けるコクウと、笑いながら自分の武勇伝を話す絢水。
二人は、到着地である、コクウの家にたどり着いた。
 
コクウの家はでかかった。塀は全長で、50mほどあり、門は絢水の身長を3倍したぐ
らいのでかさだった。
「すごいねぇ。でかいや」
と、絢水は感心した。コクウは感心してる、絢水を促す。
「着いて来い、アヤミ」
絢水は、コクウに続いた。
中に入った二人を、男性と女性が迎えた。
「若様。お帰りなさいませ」
女性は、栗色の髪を頭の後ろに束ねた、美人だった。
「よぉ、お帰り。旦那」
そう言った男性は、灰色の髪を縦横無尽に垂らした男だった。
「ただいま、アスカ・ネリィ。俺の後ろにいる奴は、アヤミと言う。俺の客なんで、丁
重に扱ってくれよ」
絢水は、今までのハイテンションが嘘みたいな礼をした。
「絢水です。よろしくお願いします」
丁寧な礼をしている綾水は、汚れを知らぬ世間知らずの令嬢のようで、コクウは息を呑
んだ。
「あらまぁ、若様。こんな、可愛い娘を連れてくるなんて。若様も、隅に置けませんわ
ね」
アスカが、微笑む。隣の、ネリィは絢水を訝しげな目で見た後、コクウに尋ねた。
「なぁ、旦那。このアヤミって娘、迷い者なのか」
コクウは、真剣な顔で返した。ネリィの顔も真剣だった。
「多分な。だが、別に変な行動は起こしてない。害も無い性格だし、危険は無いよ」
その言葉を聞くと、ネリィは絢水を視界に定め
「俺は、ネリィ。シリウェニナの部族の、切り込み隊長だ。旦那は、シリウェニナの部
族の当主で、歴代最強の力を誇る方なんだ。旦那の事、よろしく頼むぜ」
と、礼儀正しく礼をした。
絢水も礼儀正しく、はい、と返事をした。
 
その後、二人は分かれた。コクウは、ネリィが少し話があるそうなので、別室に行き、
絢水は、アスカに先導してもらい、コクウの部屋に着いた。
アスカが襖を開け、絢水を中に入れると
「後で、お茶菓子を持ってきますね」
と言い、廊下を歩いていった。その顔は終始笑顔だった。
絢水が、コクウの部屋を見渡す。
部屋の大きさは12畳ほどで、中央にでかいテーブルがあった。テーブルを囲むよう
に、本棚があった、置いてあるのは巻物だったが。テーブルの左には、襖があり別の部
屋に続いてるようだった。
絢水は、部屋の隅にある座布団を持ち、テーブルに腰掛けた。腰掛ける動作も、優雅だ
った。
絢水は、いきなり何も無い空間に話し始めた。
「ねぇ、いきなり変わらないでよ、絢水。いきなり、変わるもんだから、これでも焦っ
たんだよ」
(ゴメンネ、彩花。でも、正直助かったよ。知らない人と話すときは)
「第一印象。でしょ。その言葉何回聞いたか」
絢水の顔は呆れていた。
―彼女・絢水は二つの人格を持っていた。絢水と彩花(さいか)。絢水は、物心ついた頃
から、もう一人の自分に気づいていた。絢水は、もう一人、自分がいる事を、他人に話
したことは無かった。その理由は、彩花が、他人に話す事を拒絶したからだった。幼い
絢水にとって、彩花は初めての友だった。その友が否定する事は、私も否定する。と、
絢水は心に誓った。二人は、同じ思いを共有することによって、その絆を深めていっ
た。そして、今日に至るまで、二人は旨く生きてきた。天真爛漫な絢水。冷静沈着な彩
花。二人は、「祈祷絢水」と言う体の中で、互いの人格をその場その時に合わせ、交代
し生活していた。絢水が、コクウに着いて行ったのも、彩花の判断に絢水が従ったから
だった―
「で、どう思う、絢水。コクウ君て、良い人だと思う?」
彩花が、左腕をテーブルに立て、掌で顔を支えながら虚空に喋る。
(うん。コクウは、良い人だね。私には判る。だって、私の攻撃避けたの、コクウが始め
てだもん)
彩花が溜息を吐いた。
「まぁ、悪い人では無いわね。実際、私達を保護してくれたし」
(違うよ〜。良い人なんだって〜。で、この後どうするの?)
彩花が、考え込む。
「まぁ、私達の所存次第でしょ。現実的に考えれば、ここは北海道では無い訳だし、多
分北海道には戻れないわ。ここで、生活することになるでしょうね」
そう言った、彩花の表情は、諦めに満ちた顔だった。
「そういえば、コクウ君遅いわね」
(そうだね。ネリィさんと何話してるんだろ?)
「さっき、ネリィさんが、『旦那は、シリウェニナの部族の当主』って言ってたでし
ょ。と言うことは、コクウ君は偉い人。きっと、いろいろと大切な話とかあるんじゃな
いの?」
(きっと、そうだろね。ところで、お腹空いた〜)
いきなり、襖が音を立てた。
「コクウだ。入っていいか?」
彩花は、絢水と代わった。
「入っていいよ〜。コクウ」
 
ネリィの話とは、深刻な話だった。
ネリィは、しばらくこの土地を離れ、レイジェスプの皇に用があるため皇の城に出向い
た時に、謁見の間で皇からこう言われた。
『我が國は近々、戦をする。ネリィ、コクウ殿に伝えてくれ。前の戦の時の様に、力を
貸してくれ』と。
ネリィの話しを聞いたコクウは、別室から出て、自室の前まで着いた。その間、コクウ
は終始難しい顔をしていた。
襖を叩こうとしたら、声が聞こえた。絢水の声だ。
「まぁ、悪い人では無いわね。実際、私達を保護してくれたし」
と、絢水が独り言を話していることに気づいた。だが、その口調は家に着くまでの口調
では無く、絢水の性格を正反対にしたような口調だった。
コクウは興味を持ち、襖に耳を傾けた。
「まぁ、私達の所存次第でしょ。現実的に考えれば、ここは北海道では無い訳だし、多
分北海道には戻れないわ。ここで、生活することになるでしょうね」
その物言いは、全てを悟っているような響きだった。独り言は続く。
「そういえば、コクウ君遅いわね」
コクウは、疑問に思った。自分は絢水に、くん付けするなと言ったはずなのに。コクウ
は、右手を口に当て、絢水がくん付けする理由を考え始めた。
コクウの両腕には、鳥肌が立っていた。さらに、絢水の独り言は続く。
「さっき、ネリィさんが、『旦那は、シリウェニナの部族の当主』って言ってたでし
ょ。と言うことは、コクウ君は偉い人。きっと、いろいろと大切な話とかあるんじゃな
いの?」
コクウは、今の言葉を聞いて、確信を持った。絢水は、独り言では無く、誰かと話して
いる。と。
コクウは過去に、多重人格の者と出合った事があった。独り言を漏らすその姿は、今の
絢水の状態に、酷似していた。
コクウは確かめる為、襖を叩いた。
「コクウだ。入っていいか?」
「入っていいよ〜。コクウ」
と、返事が返ってきた。その口調は、コクウの家に来る前の絢水の口調だった。
 
コクウは、何も言わず部屋に入ると、絢水の正面に座った。そして、意を決し、
「なぁ、アヤミ。お前の体の中には誰がいるんだ?」
と、切り出した。その言葉は、絢水の表情を固まらせた。
「誰かいるんだな?」
コクウの表情は、確信を得た顔だった。
「な、何言ってるの?私、訳分からないよ」
取り繕うように、絢水が答える。
「俺、襖を叩くまで、お前の会話聞いてた。始めは、独り言かと思ったが、どうも違う
ようだった。聞いてるとお前、俺のことコクウ君って言ったよな。俺はお前に、くん付
けするなと言った。しかも、口調まで変わってたしな。俺の予想だと、お前・アヤミの
体にはもう一人、もしくはさらに人がいるな?」
すでに、コクウの言葉は尋問に変わっていた。絢水は、下を俯いてる。やがて、意を決
したように顔を上げた。
「当たり、だよ。そう、私・絢水の中にはもう一人、彩花って娘がいるの。私達は、好
きな時に変われるの。今、彩花に変わるね」
絢水は、目を閉じる。目を開けた時には、彩花に変わっていた。
「どーも、私が彩花。私の方が、話が通じると思うから。それで、何が聞きたいの?」
コクウは、一瞬だけ考え
「何故、アヤミの中にお前・彩花がいるんだ?」
「それは、私のも分からないわ。私達は、物心着いた頃から、互いを認識してたしね。
先天的な物なのか、後天的な物なのかも分からないわ」
「そうなのか。俺は、別に気にしない。まずは、自己紹介してくれないか。彩花、俺は
君の事、名前以外分からないから」
彩花は、分かったわ、と返事をした。
「私は、彩花。基本的に、絢水が必要とした時に、現れるわ。絢水は体を使うことが得
意で、私は頭を使うことが得意だわ。絢水は、武術。私は、弓道を習っていたわ。私の
実力はともかく、絢水の実力は達人級ね。こんなものでいい?」
と、彩花は聞いてない事まで丁寧に話した。
「分かった。だが、どうする。さっき、あの二人に挨拶した時、サイカだっただろ。
次、出会った時アヤミが喋ったら、あの二人驚くぞ」
「ああ、その点は大丈夫。私達は、ほぼ一瞬で変われるから。そこは臨機応変にやる
わ」
その言葉を聞くと、コクウの表情は真剣な眼差しになり
「それなら、お前達に任せる。じゃあ、そろそろ自分達の置かれた状況を確認しよう」
彩花は、分かってる、と返事をした。
「サイカ、いやお前達は、揺らめぎの狭間に迷ったんだ。揺らめぎの狭間に迷うと、別
世界に跳ぶ、と言われている。お前達は運悪く、迷い込んでしまったんだと思う。多
分、前の世界にはもう帰れない。これからどうするんだ?」
しばしの間、彩花は考え
「とりあえず、現状は理解したわ。前の世界に帰れないのは、私達の運命なんでしょ。
なら、運命には購わず、流れに身を任せなきゃね。一応、私としては、コクウ君にこの
まま、保護してもらえれば最高なんだけど」
「アヤミも、同意見か?」
絢水は即座に現れ
「うん。彩花の言ってることが、一番私達に言いと思うから、私も同じ意見だよ」
「そうか、ならお前達、この家で暮らしてもいいぞ。自由に使っても構わない。後で、
アスカにこの世界の服を用意させる。とりあえず、部屋は隣を使ってくれ」
その言葉を聞いた、絢水は驚き
「本当にいいの。私達何も出来ないよ。まぁ、私は武術の心得あるけど日常生活じゃ使
わないし、でも」
と、独り言を始めてしまった。
「いいじゃないか。この家の主が良いと言ってるんだ。自由に使えばいい」
絢水は、小声で彩花と話す。
「彩花も、この家で暮らせばって言うから、暮らすことにするよ。ありがと、コクウ。
これからお世話になります」
と、絢水にしては丁寧な礼をした。
「じゃあ、俺は夕食の時間までいろいろする事あるから、早く行ってくれ」
「分かりました〜隊長。私達は、夕食の時間まで寝させていただきます」
と、絢水は敬礼のポーズをとった。
「そうか。お休み」
絢水は、襖を開けながら、お休み〜、と言った。
 
終わり





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