AWC 戦国演義(4)           早川龍胤


        
#242/1160 ●連載
★タイトル (yiu     )  04/04/11  20:00  ( 42)
戦国演義(4)           早川龍胤
★内容
「おい。吉法師様に酒を出せ。」
酒場に入ってきた若者の一人が怒鳴った。
「へい、只今。」
酒場の女将がびっくりしたように云った。吉法師と呼ばれている青年が座敷に音を立て
て座った。すると酒を飲んでいた町人達は、『うつけ殿だ。』と舌打ちした始めた。や
がて、酒とつまみが運ばれてくると吉法師は、酒場の者全てを睨むように酒を口に運ん
でいた。先程まで賑やかだったこの酒場は酒をすする音だけが響いた。竹千代も絡まれ
ないようにしていた。が。
「おい。酒場に小僧がいるとは珍しいな。名は?」
全身に鳥肌はたったように竹千代は感じられた。
「竹千代です。」
「竹千代か。出は?」
「この町の近くの山村です。」
「そうか。なのに、着物が新しいではないか。」
「はい。織田信秀様にお目通りしたいので、新しく購入したんです。」
「何?親父か。」
「はっ?」
「よし、俺も同行しよう。仕官であるな。」
吉法師は、竹千代の腕を引っ張って城門へ向かった。竹千代には何がなんだかさっぱり
分からなかった。大名の倅といえば、武士道を重んじて日々鍛錬を繰り返し人前には現
れる筈がない、と思っていたからだ。
 吉法師は城門へ着くなり、大声で『親父ーーー。』と叫んだ。そして城門兵へ近づく
と城門兵は『信長様。御帰りなさいませ。』と会釈をしていた。城内は広大だった。堀
がいくつもあり、本丸がとても遠くに見えた。信長は本丸の謁見室まで竹千代案内する
と、『親父を呼んでくる。』と云って去った。謁見室は広く正面に信秀が座ると思われ
る大きな台座があった。交渉が成功すれば晴れて食事にありつけるわけだが、竹千代に
は分からないことがあった。平八郎忠勝と、信秀がどうやって接触したか、だ。平八郎
忠勝だって、自分と同じ土民。人脈がなければ、大名と親しくなれるわけがない。そん
なことを考えていると、信秀と信長父子がやってきた。
「お主か。織田家に仕官したい兵というのは。」
「はっ。」
相槌は打ったものの、自分は土民。兵と云われる程の力はない。信長にやられたな。竹
千代は思った。信長の方を一瞥すると、彼は苦笑していた。
「お主の熱意は三郎から聞いた。その心構え、感服いたす。されど、幼いお主をすぐさ
ま合戦に出すわけにはいかんな。どれ、小姓として使ってやろう。」
「はっ。有り難き幸せ。」
かくして、竹千代は小姓として雇われ食事に有りつけたわけである。
 朝。いつもと違う武家屋敷で目覚めた竹千代は朝日を見つめていた。すると信長が、
「目覚めたか。俺は、織田三郎信長。幼名は吉法師だ。」
と名乗った。
 
 





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