#224/569 ●短編
★タイトル (dan ) 04/11/19 07:09 ( 35)
青春放浪 談知。
★内容
20代は旅ばかりしていた。なんであんなに旅ばかりしていたん
だろう。そんな気がするほど旅ばかりである。最初のヨーロッパの
旅。パリに降り立ちイギリスへいきドイツ、そして南周りの飛行機
でタイのバンコクにストップオーバーして何日か滞在した。その旅
を皮切りに、東南アジアやインドネパールへの旅が続いた。何かに
取り憑かれたような旅だった。
あれはやっぱり脱出衝動のようなものだったんだろうな。本来旅
が好きというものではなかったような気がする。とにかく出たい。
この日本の外へでてみたい。そういう闇雲な衝動だったようである。
それゆえ、こうしてその衝動がやんだ今など、とくに外国に行きた
いという思いはない。やはりあれは旅が好きというものではなく、
衝動だったのだ。
旅で得た物。それは静かな自信のようなものだろうか。ワタシは
まったく自信のない男だった。いつもきょときょと不安げな目をし
ているような男だった。そんな男が外国にでた。空港に着いたとき
から、すべて自分でするしかない。バスの切符を買い、市内までい
く。ホテルを探す。泊まる交渉をする。レストランに入り料理をた
のむ。街をぶらつく。どれもこれもひとりでやった。自分がやるし
かない。だれもやってくれるわけではない。それを言葉も分からな
い異国の街でやったわけである。こういうことをいろんな国のいろ
んな街で繰り返していくうちに、ワタシはやれる、大丈夫な男だと
いう自覚みたいなものが生じてきた。少しづづ自信めいたものがで
てきた。
30になって旅をやめたときには、まだそんなに自信があったわ
けではないが、それから今まで少しずつ、自分のなかの確かさみた
いなものが育っていったようである。それが育つなかで、自分に対
する自信みたいなものができてきた。それもみな20代の旅の中で
得た物から生じたことである。ひとりの旅を繰り返すなかで、自分
にたいする自信と自覚が生じたわけである。現在、ワタシが感情的
にも性格的にもかなり安定した状態で毎日暮らしていれるのもその
おかげである。
外国の旅の最大の成果は、このワタシに生じた静かな自信みたな
ものだと思う。これは本当にありがたいね。そのせいで、ワタシは
毎日がおだやかにすこやかにすごしていける。この一点だけとって
も、20代のあの闇雲な旅は無駄ではなかったのである。