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★タイトル (AZA ) 99/ 7/31 22:43 (141)
かわらない想い 17 寺嶋公香
★内容
「えー、ただいまから、ペットボトルロケットの実験を行いまあす! ご覧に
なりたい方は、外に回ってくださあい!」
一年生だろうか、男子が顔を真っ赤にして声を張り上げていた。
「これだよ」
「そっか、飛行機関係ね」
そこで五人で、外に移動。
すでに設置されてあるペットボトルロケットの向きから、校舎と並行に、裏
庭をいっぱいに使って実験は行われるらしい。
とりあえず、部員がやってみせるようで、準備を始めた。水が半分ほど入っ
たペットボトルに、今度は自転車の空気入れを使って空気を詰めていく。それ
に従い、ボトルはぱんぱんに張っていく。
「よし、もういいだろ」
そんな声がして、ついでロケットの飛ぶ方向に対して注意が促される。
準備完了。部員の一人が、ペットボトル底部に着けられたプラスチック製の
コックを開く。
短い音がしたかと思うと、ペットボトルは水を噴き出しながら、斜め上方向
に飛び出し、放物線を描いた数秒間の飛行のあと、ごとんと地面に落下した。
途端に起こる、感心したような大きな拍手と歓声。特に、小学生ぐらいの子
供達は大喜びしている。
「凄いね」
こちらも感嘆している秋山。
「あんな簡単な仕組みで、飛ぶんだよなあ。飛行機とは別の意味で、わくわく
する」
「水をまき散らかさなきゃ、もっといいのにな」
本気なのかどうか、頼井がそんなことを小声で言った。
「じゃあ、秋山君、将来、目指すはパイロット?」
要が目を輝かせている。
「なれたら楽しいだろうな! でも、もう一つ、空でも宇宙でもいいから、飛
ぶ機械を作るのも面白いかもしれない。とりあえず、手始めに、ラジコンを手
作りしてみたいな」
「えー? ラジコンて、手作りできるの?」
「やろうと思えばできるよ。ただ、すこーし、お金がかかる。残念だけど、今
すぐには無理かな」
「……」
黙ってじっと秋山を見る公子と要。
「はは、やっぱり、子供っぽいよね」
「ううん、そんなことない」
要に続いて、公子も力説。
「そうよ。私達、まだまだ子供だもん。変な風に気にしないで、やりたいこと
やらなきゃ」
それを耳にした頼井は、誰にも聞こえないような小さな声で、ぼそりとつぶ
やく。
「公子ちゃんこそ、やりたいようにしたらどう? 変に気を回さずにさ」
繁華街を行き交う人は、誰もが暑そうだった。十一月中旬というのに、夏が
忘れ物でもしたのか、急に戻って来たような暑い休日の午後。
「こんな日に、コートを買いに行くなんてねえ」
隣の悠香を見ながら、公子はつい、こぼした。
「いいじゃない。ほしいんだから」
「はいはい、付き合いますよ。ただ、巡り合わせが悪い感じ」
「今日暑くても、明日暑いとは限らない。季節は冬に向かっているのだ」
元気よく唱える悠香。彼女はふと思い出したように、話題を転じた。
「要がいないと、何となく、欠けている気分だね」
「うん。用事って、何なんだろ」
今日の買い物は、悠香と公子の二人だけで来ている。要も誘ったのだが、そ
の日は用事があるからだめという返事だった。
「秋山君を連れてくれば、あの子だって、用事を放り出してでも来たろうにね」
悠香の笑いながらの一言に、公子は無言で笑みを返した。
「やっと見えた。あそこのお店よ」
こざっぱりしたファッション服のお店。客層の幅が広そうに見える。模式化
されたドレスが、白地に黒で描かれている看板が、店先でかすかに揺れていた。
「実は、ちょっと迷ってるんだ」
店に入るなり、一方向にまっしぐらの悠香。急いで公子は追っかける。
「よかった。まだあった。ほら、これとこれ」
ハンガー二つを指先に引っかける悠香。一つはシンプルで飾り気もワンポイ
ントぐらいのコートで、もう一つは首周りに白い毛をあしらった、見た目がち
ょっと高そうな品だった。
「どっちがいいかな? 意見を聞かせてよ」
「ユカには、どっちも似合いそう」
正直なところを述べる公子。
「それじゃあ困るんだけど。私も悩んでんだから」
「でも、本当に……。待ってよ。この店のライトがあるから」
公子は一度天井を見上げ、淡い黄色の光線を確かめた。
「外で着るなら、こっちだよ、きっと」
シンプルな方を指さした。
「こっちが絶対いい。そっちは、こういうとこじゃないと浮いて見えるかもし
れないわ」
「言われてみたら……そうかもね。よし、決めた。ありがとね」
いらなくなった方を戻し、悠香はそのまま店員をさがしてかけ出していった。
「外で待ってるねっ」
そう言って、公子は店から出た。店のウィンドウに飾られているジャンパー
スカートが、気になっていたせいもある。
店を出て、何気なく通りの向こうを見たそのとき−−。
(あ)
声をなくして、目を何度もしばたたかせる公子。
(秋山君と……カナちゃん)
公子が見たのは、並んで歩く二人の姿。
(カナちゃん、用事ってそういうことだったの……。楽しそうだね。いつの間
に、そんなに進んでたの? 凄い、かなわないなあ。あは。転校が決まって、
本当によかった……)
公子から二人に声をかけることはできなかった。仮にそうしようとしても、
秋山と要の姿は、すでに人混みの中にまぎれて、分からなくなっていた。
「お待たせ!」
悠香のはずんだ声が聞こえた。
「買っちゃった。これでまたしばらく、金欠病だわ。……?」
反応のない友人を訝しく思ったか、悠香は公子の正面に回り込んだ。
「おーい、どしたん?」
「え−−あ、ああ、ユカちゃん」
「ユカちゃんじゃないでしょ。ぼーっとしてたみたいだけど」
「ううん、何でもない。ちょっと……暑さで頭がぼけてたかもしれないけど」
「そこまで暑いかしら?」
腰に両手を当てて、首をひねる悠香。
「まあ、いいわ。次は公子の行きたいところ、付き合うから」
「あ、うん。そうね」
生返事しかできない公子。
「あのねえ。どうしたの? 本当に大丈夫? 熱があるとか」
と、公子の額に右手の平を当てる悠香。公子は意味もなく、目を閉じた。
「熱はないみたいね」
「何でもないったら」
目を開け、笑みを作る公子。
「−−映画、行きたくなっちゃった」
「……それはまた唐突な」
「もしお金が大丈夫なら、付き合って。少しぐらいなら足りない分、私、出す
から」
「何を観に行くのよ」
「そうねえ……」
公子は、近頃話題のサスペンス物の題を挙げた。
「いいでしょ?」
「かまわないよ」
悠香の合意を得て、映画館に向かう道すがら、公子はずっと考えていた。
(転校のこと、みんなに打ち明けなくちゃいけないな……)
期末試験が終わり、二学期も、ひいては今年一年も残すところ少なくなって
いた。
(ずるずる延ばしてきたけど、もう打ち明けなくちゃいけない)
実際のところ、試験前に担任の先生から、ぎりぎりまで伏せておくのも何か
と問題があるからと、早く伝えるよう促されていた。だが、打ち明けることで、
もしもみんながテストに集中できなくなって成績が下がっては悪いという気持
ちもあって、先延ばしにしてもらっていた。
(自分からは言えないな)
だから公子は、先生からみんなに言ってもらうことにした。
それが今日。これからのホームルームで、先生の口から言ってもらう。
(前もそうだったな。小四のときでも、友達と離れるのが嫌で嫌で、泣き明か
したり、ずっと電話したり。今度は……もっと)
腕枕に、顔を横にしてうずめた。
周りのみんなは騒がしかった。普段通りだ。このまま、ずっとこうしていた
い。
その願いはすぐに壊された。
教室の、前の戸が引き開けられ、先生が入ってきた。
――つづく(第二部・終わり)