AWC 誤解の勘定(改訂版A) 1   永宮淳司


    次の版 
#4767/5495 長編
★タイトル (AZA     )  99/ 2/26  18:47  (176)
誤解の勘定(改訂版A) 1   永宮淳司
★内容
 はい、予告していた通り、改訂版です。
 批評オフの場やボード、メールでいただいた感想を受け、比較的簡単に手直
しできる部分を中心に改稿してみました。要求が難しくて、手を着けずじまい
の問題点もありますが御容赦を。
 内容に関しては、最後に付け足しを行った程度で、大きくは変わっていませ
ん。小さく変わりました(笑)。
 なお、これとはまた別バージョンの改訂版Bを書き上げ、将来UPするかも。

 てことで、改訂前の物を読んだ方も、お時間があればどうぞ。

――――登場人物――――――――――――――――――――――――――――
吉見新太郎(よしみ しんたろう) SF作家
刈沖武蔵(かりおき むさし) 売れっ子のホラー作家
刈沖早弥子(かりおき さやこ) その妻、旧姓遠藤。旅行代理店勤務
遠藤公夫(えんどう きみお) 早弥子の弟。俳優の卵
岸本秀美(きしもと ひでみ) 早弥子の親友。宅建事務所勤務
森川勝也(もりかわ しょうや) 編集者。刈沖が若い頃からの付き合い

 **  **  **  **  **  **  **  **  **

地天馬鋭(ちてんま えい) 探偵
「私」 物語の記述者で推理作家。地天馬の相棒。吉見、刈沖の知り合い
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 我が友・地天馬鋭を訪問するに当たって、これほどまでに気が急くのは初め
てだった。少しでも早く着きたい。角度のきつい階段も一段飛ばしで昇った。
階段の幅が狭く、おかげで私は壁や手すりに身体をしこたまぶつける羽目にな
ったが、それさえ気にならない。とにかく、一刻も早く地天馬に会わねば。
 夏だと言うのに懸命に走って汗だくになった私を待っていたのは、狭く、蒸
し暑い部屋だった。
 地天馬は冷蔵庫の前に突っ立っていた。
「随分と早い到着だな!」
 何かをメモし終わると、その紙切れを冷蔵庫の扉に磁石で張り付け、それか
らようやく私を声高に出迎えてくれた。
 引っ越し作業の際にエアコンを壊してしまったそうだが、長らく使っていな
かったので元から故障していたのかもしれない。私はどこかから拾ってきたよ
うな長椅子の端っこに腰を下ろすと、ハンカチで汗を拭った。
 手に移った汗をもきれいに拭いてから、原稿を鞄から取り出す。順序が入れ
違ってないかをざっと確かめた上で、地天馬に差し出した。
「今さらページが前後するなんてあり得ないと思うね」
 地天馬が早口で指摘した。私も思わず苦笑する。確かに、原稿の順序が正し
いことは出かける前に二度も確認している。鞄の中で入れ替わるはずがない。
「習慣だよ」
 いいから受け取ってくれとばかり、手を前にぐいっとやる。地天馬は両手で
大事そうに原稿を掴んだ。
「これを最後まで読めばいいのか」
「ああ。電話でも言ったように、最後まで読み、謎を解いてほしいんだ」
 三週間前に体験した事件について記したもので未解決なんだと、昨夜の電話
で伝えておいた。
「こっちの新聞には出ていないんだが、地元の警察も苦戦している模様なんだ。
君があの場にいてくれたなら、即座に解いていたかもしれない。そう考えると
居ても立ってもいられなくて、こうして小説の形にまとめてみた。足りない点
は口頭で補うから、何が何でも解いてくれよ」
「読む前に、余計な世話を焼かせてもらうが、君自身の仕事は片付いているの
かい?」
「どうしてそんなことを気にするんだ?」
 鋭い指摘に、私は不自然な笑みを浮かべてしまったかもしれない。
 地天馬は伏し目がちにしたまま、答を投げてよこした。
「作家として忙しい身の君が、事件解決を願ってレポートを作成するなんて、
久しくなかったからね」
「人並みの正義感ぐらい持ち合わせてるさ。身近に君のような人間がいるのに、
未解決事件を黙ってるなんてできないんだよ。一刻も早く真相を」
「ふうん? ま、いい。静かにしていてくれ。すぐに考える」
 手を振って蚊柱にするように私の喋りを煙たがると、地天馬は没頭し始めた。
 私はどんな質問にも淀みなく対応できるよう頭の中を整理しつつ、キッチン
に立った。勝手にコーヒーでも入れて、飲みながら待つとしよう。

           *           *

 同じ作家でこうも違うものか。
 元は旅館だったが親会社の方針転換で売りに出されたところを買い取ったと
聞いているが、六階建てとなると安くないだろう……。
 楕円を筒にした形の建物を見上げながらの第一印象は、我ながら非常に情け
ないものだった。事前に知らされてはいたが、実物を前にすると嫉妬が新しく
生まれるようだ。旅館と言うよりもちょっとしたホテルじゃないか。周囲を清
い川や豊かな木々といった自然に囲まれており、生活の便は別としても、執筆
環境の快適さは抜群に違いない。
 首が痛くならない内に目の高さを戻し、同行の吉見新太郎と顔を見合わせた。
勝手に苦笑が浮かぶ。
「稼ぎ頭にはかなわないね」
「まったく」
 鞄片手に旅行者気分に陥りつつ、時計回りのスロープを進んでいくと、玄関
前に到着した。さすがに、玄関口のガラス戸から旅館名は消されていた。
 呼び鈴なんて物はあるのかしらと頭を巡らせていると、ドアの向こうに主の
小柄な身体を見つけた。スーツ姿で駆けて来る様は花嫁に逃げられた新郎のよ
うだ。
「よく来てくれた。窓から見えたんでね」
「そんなに息せき切って迎えてくれなくてもよかったのに。よほど広いらしい
な、ここは」
 嫌味混じりに言ってやっても、刈沖武蔵は人のいい笑みを維持したまま、呼
吸を整えている。痩身には似合わないふくよかな笑みに、こちらも毒気を抜か
れてしまう。
「使用人の一人や二人、雇えばいいのに。そんぐらいの余裕はあるだろ」
 吉見はスポーツバッグを持ち替えてから、肘で小突く動作をする。数年前に
成人式を迎えたという理由だけでは不足なほど、子供っぽい仕種だ。
 対して、片腕を広げ、迎え入れるポーズの刈沖。屋根の下に入ってから、話
し始めた。エントランスホールは天井が高く、吹き抜けになっていた。
「それが、雇う必要がなくなったんだ。身の回りの世話をしてくれる人を見つ
けてしまったもので」
 私と吉見は再度、顔を見合わせる羽目になった。
「そうか、それが僕らを呼んだ目的か」
「とにかく案内するよ」
 照れを押し隠す風に早口で言うと、刈沖はきびすを返して進んで行く。途中、
右手の奥、鉢植えの観葉植物に隠れる形でエレベーターらしき金属の扉が見え
たが、通り過ぎてしまった。
「動いてないんだ。さすがにもったいなくてね」
 尋ねると、肩越しに振り返った刈沖は苦笑混じりに答えた。
「それでも電気をやれば動くんだろ? 家族に、介護が必要な者が出ても、と
りあえず安心だ」
「一階フロアーだけで充分広いから、上を使う必要なんて本当はないんよ」
 冗談半分にうまく揶揄してやったつもりだったが、刈沖の切り返しも見事だ
った。
 ホールを奥まで進み左に折れると階段があった。デパートで見かけるような
幅の広さを持つ、アイボリー調のステップ。光沢があることから、購入したあ
と塗り替えたのかもしれない。
「他の人と同様、二階の部屋を用意したよ」
「どこでもいいよ。ありがたく使わせてもらおう」
 私が素直に礼を述べたのとは好対照に、吉見は、
「いや、二階でよかった。あまり歩かされるのはつらいね」
 と、階段の手すりを愛おしげにさすった。
 二階に着くと、真鍮の古めかしい鍵を渡された。便宜上、階段に近い部屋か
ら順に番号で呼んでいるそうで、我々に宛われたのは二号室と三号室。吉見と
目で相談し、私が二号室、彼が三号室を選んだ。
「まあ、適当にくつろいでいてくれ。みんなが揃ったところで紹介するから」
「分かった。一号室には誰か入ってるのかい?」
 木肌色した戸を見つめながら聞いた。どの部屋も同じドア。と言うことは内
装も同じなのだろう。
「ああ。男が一人。僕の義理の弟だ」
 刈沖は取り澄ました笑みを返してきた。

 テーブルの上には取り寄せたパーティ料理が所狭しと並べられていた。
 昼食の席が紹介の場となった。たった七名で旅館の食堂をそのまま使うだけ
に、広々として開放感がある。
「初めまして」
 刈沖のよき人の名は早弥子、旧姓遠藤早弥子といった。籍は入れたが挙式は
まだという。
 馴れ初めは、旅行代理店に勤めていた彼女に、まだ駆け出しだった刈沖から
声を掛けたとのこと。なけなしの金をはたいて取材旅行に出たら思わぬ拾いも
のをした、と言ったら怒らせてしまうだろうから口にしないでおく。
 刈沖は背こそ高いとは言えないが、スポーツ万能タイプであるし、何と言っ
ても爽やかな笑顔を自然に作れる二枚目だ。私なんぞ、こしらえもののような
笑みしか見せられない。年がら年中トリックや犯罪のプロットに頭を悩ませて
いるせいかもしれない。
「よろしくお願いします。あの……私はほとんど小説を読まないものですから、
失礼とは存じ上げますが、どのような」
 早弥子さんは申し訳なげに目を伏せ、それから質問してきた。社交辞令には
違いないが、気分は悪くない。心地よい微笑みを作る人だ。
 私は推理小説、吉見はSFと答えて、続ける。
「あなたのご主人が得意なジャンルに、ただいま浸食されてる立場です」
「そうなんですか? それはすみません」
 頭を深く下げられ、我々二人は苦笑せずにはおられなかった。
 そこへホラー作家――成功を収めた――の刈沖が助け船を出す。いや、婚約
者に救いの手を差しのべるのだから、さしずめ白馬の王子か。
「何をやってるんだか。あることないこと吹き込まないでくれよ」
 刈沖のすぐ隣には、背の高い男が座っていた。顎髭を蓄えているが、発散す
る雰囲気は若い。
 そちらは?と聞くより先に、早弥子さんが反応をした。
「弟です」
「遠藤公夫と言います。えっと、お恥ずかしいんですが、無職。役者目指して
アルバイトやってます」
「ほう、役者志望」
 フリーターなんて言わないところが気に入った。
「憧れの役者は誰だい?」
「ジャッキー=チェンですね。派手なアクションができて、その上で凄い演技
もこなせる役者になりたい。まあ、夢ですけど」
 なるほど。遠藤の体格を見ると納得できる。外見だけで運動神経の善し悪し
は判断できないが、胸板が厚く、筋肉もありそうだ。
 私達は刈沖へ目をやった。刈沖の作品は何度も映画化されている。その影響
力をもってすれば遠藤を将来使うこともできるのではないか、とまで考えた。
 私と吉見も正式に自己紹介を済ませ、残りの面々の話に耳を傾ける。
 早弥子さんの友人という岸本秀美は住居斡旋業に携わっていると聞いた。眼
鏡におかっぱの出で立ちはあか抜けないが、それを吹き飛ばすほどに明るく、
甲斐甲斐しい。皆の小皿に料理を取り分けてくれたり、飲み物を注いでくれた
り、果ては館の主が音頭取りをしやすいようにお膳立て。

――続く




前のメッセージ 次のメッセージ 
「長編」一覧 永山の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE