AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(13)コスモパンダ


        
#621/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/27   7: 6  (110)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(13)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート=u宵越しの金は持たないんだよ」その1

 キーンコーン、キーンコーン、キーンコーン。
「ノバァ、上空監視レーダーに反応があります」とカーマインの声。
 スクリーンには赤い光点が点滅していた。上空五百メートルを飛行している。
  透明なサンループを通して見える夜空には星しかない。しかし、カーマインの電子の
目がそれを捕らえた。
 一難去ってまた一難。敵は誰だか知らないがしつこい。新手を用意していたのだ。
「エアロダインです。しかも武装しています」
「機影から分かるでしょ。アーミーか、市警察のパトじゃないかい?」とノバァ。
「エアロダインの機種は不明。航空機リストには登録されていません」
「どんな武装だい?」
「小型ミサイルポットを二つ、バルカン二門程度です」
 結構な話だ。こんなカーマイン、軽く一ひねりだ。
「呼び掛けてみたの?」
「識別信号は出ていません。一般通信要求信号にも応答ありません」
「航空管制局に問い合わせろよ」と僕。
 ギャーン、ビー、キューンという賑やかな音が車内に響いた。後部座席のノリスがび
くっとした。
「電波妨害です。通信できません。レーダーにもゴーストが出ています」
「カーマイン、全速力! 電波とレーザーの妨害も!」
 エンジンの音は急に高くなり、カーマインは弾かれたように飛び出した。車体の後部
から白い煙を吐き出している。電波とレーザーの誘導波妨害用チャフだ。スピードメー
タはたちまち百キロを超える。破れたウインドウから吹き込む風は肌に痛い。
「ミサイルが発射されました」と、お落ち着いたカーマインの声。
 急制動、斜め移動、四輪ともカーマインの指示で素早く角度を変える。
 左のドア、スレスレのところを後方から追ってきた明るい光が通り過ぎ、運河を挟ん
だ対岸に向かう。
 真っ白な光が目を焼いた。ビリビリと衝撃波が空気を車体を振動させる。
 グワーン、音が後から追っ掛けてきた。対岸の道路に黒い小型の茸雲が膨れていた。
 気の強いノリスも今度ばかりは唇が青ざめ、全身が小刻みに震えていた。
「急ぎな。あそこのトンネルに逃げ込めば助かる!」ノバァが叫んでた。
 前方に人工の山が見えた。道路はその山のトンネルに向かっている。
 第二発目がカーマインの走る狭い道路の右側の壁を数十メートルにわたって崩した。
 もう少しでトンネルという所で後ろから追って来る黒い蜂のような飛行物体が見えた
。全長十メートル程の黒いエアロダインが、高度数メートルを飛行している。
 カーマインがトンネルに飛び込む。黒い奴は中まで追って来ないだろう。
 オレンジ・ナトリウム灯の光が一点透視図法の見本のように続いている直径十メート
ル程のトンネルだ。カーマインはスピードを更に上げた。
 突然ギアダウンをすると、トンネルの左側の壁を抉って造られている退避エリアに車
体を滑り込ませた。
 カーマインが停止すると同時にその横を二筋の光が通り過ぎていった。
「みんな、耳を塞ぎな!」ノバァが皆に呼び掛ける。僕らは両手で耳を塞いだ。
 トンネルの奥の方で爆発が起こった。車体は揺れ、トンネルのオレンジ色の天井光が
消えると、暗い緑の非常灯が灯った。しかし、それも猛烈な煙で霞んでしまった。
「カーマイン、エンジン停止、ライトも消しな。みんな、じっとしてるんだよ。あいつ
はブラック・ホーネットだ。新鋭の戦闘エアロダインだ。しつこい蜂だよ」
 そう言うとノバァはドアを開けて飛び出した。右手には愛用の小型バレンタインレー
ザー銃を握っていた。退避エリアはトンネルの本線から脇へ少し凹んだ部分にあった。
 ノバァは銃を握ったまま、本線から引っ込んだ壁に張り付いていた。
 キーンという甲高い音が聞こえてきた。機体内部に揚力と推進力を生む高速回転のタ
ービンブレードを内蔵したエアロダイン特有のエンジン音だ。
 敵はとんでもない奴だ。この狭いトンネルの中でエアロダインを飛ばしてる。
 埃と煙で非常灯も霞んで暗いトンネルの天井や路面が急に明るく照らし出された。
 トックントックンと心臓が早鐘を打つ。
 キーンという音は今や轟々という音に変わっていた。サーチライトの強烈な光が天井
や壁に反射する。その反射光が壁にへばりついているノバァの姿を浮かび上がらせた。
しかしノバァは壁の一部のように動かない。
 喉がカラカラに乾いてきた。ノリスは目を閉じ、口を手で押さえていた。
 サーチライトに照らされた中にもうもうたる埃が狂ったように舞っていた。その埃が
掻き分けられ、壁の向こうからエアロダインのノーズコーンがにょっきりと現れた。
 黒っぽい機体の先端は蜂の頭のように二つの目の位置にキャノピーがあった。いや頭
だけでなく、全体が蜂のような形をしていた。羽根が異様に小さいが、サーチライトの
中で踊る埃の乱舞がエアロダインの機体の周りに猛烈な気流があることを示していた。
 その蜂の頭の触覚のようなセンサーが回転し、カーマインの方向を指してぴたっと止
まると、頭の下に付いたバルカン砲塔がキュンと回転しカーマインを狙おうとする。
 その時、壁になりきっていたノバァが動いた。
 エアロダインの黒い機体にボスッボスッと穴が幾つも開く。バルカン砲塔も幾つか穴
が開くと、ギギッという音を最後に回転は止まった。
 ゆっくりと前進するエアロダインは、機首から中央、そして後部のエンジン部まで数
十の穴が開いた。ボンという音と共にエンジンが火を噴いた。
 ノバァがその爆風に五メートル程飛ばされた。路面に倒れたまま動かない。
「ノバァ!」僕の叫びと同時にカーマインがエンジンをスタートさせるとバックでノバ
ァの側まで近付いた。僕は左のドアから外へ飛び出した。
 ノバァはうつぶせに倒れていた。
「ノバァ! ノバァ!」と呼ぶが返事が無い。
 僕は彼女をそっと抱き起こした。手足を擦り剥いているようだが、骨折した様子も大
した怪我も無い。気を失っているだけだろう。ノバァを抱き抱え、運転席にノバァを放
り込むと、ノリスが彼女を抱きとめた。
 僕が運転席に滑り込むと同時にカーマインは猛烈なスピードで走り出した。後ろを振
り返ると、エアロダインがゆっくりと路面に機体を横たえていく姿が見えた。その機体
が埃と煙の中に次第に見えなくなった。
 カーマインが路面に開いた大きな穴(恐らくさっきのミサイルが開けたのだろう)を
避けて飛び越した瞬間、天地を揺さぶる振動が襲ってきた。そして衝撃波。僕はとっさ
にノバァの身体に覆い被さった。
 次の瞬間、カーマインはトンネルを飛び出していた。カーマインはそのままスピード
をグングン上げていく。トンネルを出た道は真っ直ぐに続いていた。道路の両脇に立つ
ポールのライトが光の筋になって後ろに消えて行く。
 その光の筋を目で追って首を回すと、トンネルの出口が崩れていくのが見えた。
 エアロダインが積んでいたミサイルポットの爆発が、人工山の土台をも破壊したよう
だった。中腹から大きく崩れ出し、トンネルを完全に埋めつくした土砂は二つの道路の
真ん中を走っている運河をも埋めた。人工地盤は一区画が破壊され、海水が流入してき
た。その辺り一帯、半径一キロの範囲の浮きブロックが浮力を破壊され、二十四時間後
には海底に沈んだ。
 海上都市パシィフィック・クイーンの歴史でもまれにみる大事故になってしまった。

「カ・・ズ、重いよ」弱々しい声がした。僕は身体を起こした。
 ノバァが真っ黒に煤で汚れた顔に目をショボショボさせていた。
「ノバァ、大丈夫かい?」
「大丈夫よ。あんたの恋人の身体だもん。大事にしなきゃね」
「あんたって人は、まったく・・・」僕は言葉が見つからなかった。
「ノリス? 元気かい」と言うノバァにノリスは「ええ」と言葉少なに答えた。
「カーマイン」と呼ぶノバァに「はい、何でしょう」とカーマインが応える。
「よくやったよ、ありがとう。あんたもだよ、カズ」
 僕は思わずノバァの真っ黒な顔に頬擦りをした。
「妬けますね」とカーマイン。
「ナマ言うんじゃないよ。調子に乗ると雨曝しだよ」
 やっぱりノバァはおっかない・・・。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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