AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(14)コスモパンダ


        
#622/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/27   7:13  (101)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(14)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート=u宵越しの金は持たないんだよ」その2

 ゲートでノバァは警備員と一騒動やってのけた。
 当然だろうな。カーマインは今やボロボロ、ガタガタ。サーカスのピエロが乗るオン
ボロ車と変わらない。ラジエターから白い蒸気を吐き出し、排気管からは黒い煙を棚引
かせている。そんな車が自分の家の玄関に乗りつけようとするなら誰だって文句を言う
に違いない。ましてや相手がストーナー財閥の屋敷となればなおさらだ。
 しかし、それはそれ、ノバァの迫力に負けた警備員が、主、いや亡き主の執事に問い
合わせ、ようやく屋敷の玄関までたどり着けたのだ。
 一方、ノリスはゲートまで出迎えた大型のリムジンに乗って先に屋敷に入った。
「でけーっ」
 二人は声をそろえて叫んだ。カーマインを降りたノバァと僕は見上げるばかりの屋敷
にただただ驚いていた。
 こんな屋敷あるもんか。はっきり言って、お城。宮殿と言った方が確か。夜中の十二
時を少し過ぎた頃で、夜間照明にくっきりとお城は夜空に浮かび上がっていた。
 とにかく凄い。中世の城を模した造りだ。四隅の尖塔と尖塔の間の間隔は少なく見積
もっても、五百メートルはある。この屋敷の人間は部屋を移動する時には絶対バイクを
使ってる。さもなきゃ、朝飯を食おうと食堂に行く間に昼になっちゃう。
 ボロボロのカーマインを残してノバァと僕は執事に案内されて歩いた。玄関の階段下
で執事が「どうぞお登りください」と言ったのでしょうがない。登ることにした。執事
は下で頭を下げたままでいた。
 この階段を登るのがまた一苦労。階段の段数、実に百と二十三段。馬鹿と違うか、こ
んな階段、誰が作ったのかいなと思いながら、二人でゼイゼイ言いながら登った。
 ようやく入り口に辿り着いてびっくり。僕達を案内して下で頭を下げていた年寄りの
執事はもう階段の上で待っている。
「どうなってんの?」と聞くノバァに、「はあ、私ども執事はお客様より先にお待ちし
なければ失礼にあたりますので、エレベータを使わせて戴いております」だってさ。
 中に案内されてまたびっくり。天井が恐ろしく高い。普通のビルの四階分のフロアが
吹き抜けになっているホールを通り、足のくるぶしまで埋まる豪華な絨毯の上を歩いて
部屋に通された。
 そこにはどんな早業を使ったのか、すっかりドレスアップしたノリスが十九世紀調の
木製の手彫りの椅子に腰掛けていた。
「いらっしゃい」
 一緒にいた時に着ていたミニスカートではなく、長いフレアの付いた白のロングドレ
スを着ていた。肩紐の無いドレスは結構襟ぐりも大きく、胸の谷間が少し見えるが、色
っぽさより高貴さを感じさせた。完璧に王女様って感じだ。
「へーっ、あんたそうやってるとどこかの王女様みたいだね。孫にも衣装とはよく言っ
たもんだね」とノバァが無遠慮に言うがノリスは無頓着。
「本当に有り難う。命を助けてくれて」
「仕事だからね」とノバァはつっけんどに応える。
「でも、あのトンネルの中では本当に凄かったですわ。ノバァさんは素晴らしかったで
すわ。あっと、カズさんも」
 ほんの付け足しみたいにノリスは僕も褒めた。
 その時である。部屋のドアを荒々しく開けて一人の男が入って来た。そのいでたちが
凄い。豪華なシャンデリアが天井から下がり、ふかふかの絨毯が敷いてある場所に似つ
かわしくない。もっとも僕達の恰好も相応しくない。さっきの戦闘で服はボロボロ、ノ
バァは顔だけは綺麗に拭いたが、全身ずず汚れてる。一方、かの男はサファリジャケッ
トにだぶだぶのズボン、頭にはつばがぐるりと取り巻いたジャングルハットを被りサン
グラスを掛けていた。腰には何重かに束ねた笞とレボルバー拳銃を下げている。
「ノリス、久し振り」と妙に甲高い声でその男は慣れ慣れしく呼び掛けた。
「あらっ、キリーお姐さん、お久し振り」とノリス。
 にゃにおーっ。お姐様だと。
 その男、いやお姐様はサングラスを取り、ジャングルハットを脱いだ。長いブロンド
の髪がはらりと肩に掛かる。首を振ってさりげなく、その髪を肩から背中に回した。
 美人ーっ。小さな声で呟いたのに隣のノバァが怖い顔で睨む。エレナみたい。
 本当に美人だった。彫りが深く鼻が高い、少し頬がこけているのが気になるが、ブル
ーの目がいい。ダブダブのサファリルックもよく見ると、胸やら尻やら女性として出る
べき所はちゃっと出ているし、ウェストはしっかり細くなってる。スタイルもいい。
「キリーお姐様、どうやってここへ。キリマンジャロじゃなかったんですの?」
「たまたまパールシティ(現在の韓国にある都市国家)に用事があったもんで、すぐに
ジェットを飛ばしてやって来たの」
「それはグッドタイミングでしたわね」
「相変わらず口の減らない子ね。そんなこと言ってるから誰かに狙われたりするのよ」
「あら、もう御存じなの。早耳でらっしゃること、ウサギさんみたいに耳が長くなりま
してよ」
 どうやら、このキリーという姉とノリスの中はあまり良くないらしい。
「よう、キリーにノリス、美人姉妹が揃ってるな」
 そこに頭の禿上がった中年の男が一人。
「ルノー叔父さん」姉妹は声を揃えた。
「あらーっ、皆様お揃いですわね。お賑やかなこと」
 ドッキリビックリ、孔雀が部屋に入って来たのか思った。なんとも派手な羽根羽根が
付いたオールドファッションの帽子に、リングでスカートを膨らました十九世紀調のド
レスを着たおばんが一人。しかもでかい羽根扇子なんぞヒラヒラさせている。
「マリアンや、賑やかじゃないぞ。今晩は」
「そうですよ、マリアン叔母さん」
 その後から入って来た奴がまた、ひょろ長い青びょうたん。着てる服がやたら金モー
ルがついている。昔見たクラシックアニメ映画、なんてったっけな。そうそうベルバラ
とかいうやつに出て来た連中が着てた。あんな恰好だ。
 つかつかと歩いて来た青びょうたんがノバァの前で立ち止まった。
「おや、このお嬢さんは? 随分と薄汚れたなりだが、中々美人でらっしゃる。初めま
して、私、マルス・ジャン・クリークと申します」
 と言うと、ノバァの手をとってキスなんぞをする。このやろーっと思ったがノバァは
平気な顔。
「あーら、マルス、そんな何処の馬の骨とも分からない女に先に挨拶なさるの?」とは
サファリルックのキリー。
 まずい、横目でノバァを見ると、彼女の肩が震えてる。
「これはこれはキリー。また勇ましい恰好だね。君の恰好に比べたら、こちらのお嬢さ
んの方がまだ女らしい」
「なんですって!」
 と、サフアァリルックが青びょうたんにくってかかろうとした時に、がやがや、ピー
チクパーチクという大勢の男女が部屋に入って来た。総勢五十名にはなるだろう。
「まあ、クリス」「おや、ジェニー」「やあフランク、まだ生きてたのか」「死んだ方
が遺産の取り分が増えると思ってるのか」「ハンスは間に合わないそうよ」「なんだな
んだ、こんなに集まったのか」「もっと少なけりゃ良かったのに」「君は縁を切られた
のじゃなかったかね」「あなたは離婚されたの」・・・
 うるさいかぎりだ。ノバァと僕は大勢の人の中で揉みくちゃにされながら、あんぐり
と口を開けていた。人が死んだというのにこのアホどもは・・・。
「さて、お集まりの皆様、遺言公開を始めますので隣の大会議室へどうぞ」と執事の声
が響きわたる。いよいよ亡者共の決戦の幕が火蓋を切って落とされる。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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