AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(12)コスモパンダ


        
#605/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/19   8:47  ( 70)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(12)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート「ヘボ! どじ! グズ! クズ!・・・」その4

 絹を裂くような悲鳴が聞こえた。ノリスだ。ノバァは殺されたってそんなおしとやか
な声は出しゃしない。
 目の前に壁が迫って来るといった感じだった。カーマインはガードレールを僅かにシ
ャーシーに引っ掛けて引き千切った。鼻先のバンパーが路面にぶつかり、盛大に火花を
散らす。一瞬、カーマインは鼻先だけで逆立ちしかけたが、すぐにドカンと車体の後部
が路面に落ち、一度車体が弾むと前方の壁に向かって滑っていく。
  ダブルディスクの電磁ディスクブレーキが悲鳴を上げた。しかし、勢いの付いた車体
は止まらない。尻が僅かに左に流れる。カーマインは逆ハンドルを取ったが、車体は前
輪を軸にして時計廻りに回転し、そのままスライドして車体の左側がコンクリートで固
められた壁にぶつかった。左のウインドウガラスが割れるが、ガラスにサンドイッチ状
に封入されている液状プラスチックがガラスの破片が散るのを防いでいた。それに高張
力設計のパール・スティール製のカーマインの車体は激突の衝撃を吸収し、驚異的な復
元力で壁から車体を弾き飛ばした。その弾みで左のウインドウガラスはごっそりと外れ
道路に落ちた。
 ノバァの言う通り、シートベルトをしてて良かった。カーマインは右ハンドル。左側
の助手席に座った僕は、車体が壁にぶつかって跳ね返る際に、もうちょっとでガラスの
外れた窓から外へ飛び出すところだったのだ。
 しかし喜ぶのはまだ早い。壁に激突して跳ね返されたカーマインは勢い余って狭い道
路を右の方に滑って行った。行く手には運河に向かってガードレールの裂け目が大きく
口を開けていた。さっきカーマインがガードレールを引き千切った所だ。
 カーマインはブレーキを外すと一気にアクセルを繋いだ。フル四輪駆動の前後輪が目
一杯回転した。タイヤと路面の間から煙が上がる。黒くタイヤの跡を付けて車体は蹴飛
ばされたように前進した。横滑りと前進のベクトルが合成され、車体は斜め右前方に進
んで行く。
 かろうじて健在なガードレールに車体の前半分をぶつけることに成功した。その反動
で車体はもう一度、左に弾かれた。再び耳障りな急ブレーキの音と共に車体は道路の中
央付近で停止した。
 僕は激突のショックに一瞬気を失ったようだった。ぼんやりとする目に最初に入った
のは車体の周囲からもうもうと立ち登っている煙だった。それにシュウシュウという音
が聞こえる。
「爆発するわ!」
 一番最初に声を上げたのはなんとノリスだ。丈夫というか気の強い子だ。
 ウーンという唸り声と共に隣のノバァが起き上がった。
「大丈夫だよ。自動消化装置と冷却装置が加熱したパーツを冷やしてるんだよ」
 その時、バンという音がして、一瞬目の前が真っ暗になった。
「ワーッ、なんだ、なんだ、どうなってんだ」
「何よこれ!」
「キャッ」
 僕とノバァとノリスの三人は同時に叫んだ。顔を押さえられ息苦しい。手足も動き難
い。何かで押さえられているようだ。バタバタと手足を動かして顔を覆っている代物を
押し退けた。
 そしてその正体に漸く気づいた。
 それはなんと緩衝バックだった。車が激突した瞬間に運転座席の人間を保護するため
の物だ。ダッシュボードの下に仕込んだ圧搾空気で一瞬に膨れる風船なのだ。衝突の瞬
間、こいつで前部座席の人間を押さえ付けて、フロントガラスを突き破って外へ飛び出
ないように保護する筈の安全装置なのだ。
「カーマイン!!」ノバァの金切り声。
「お怪我はありませんか?」
「何よ! このバック」
「はい安全装置です」
「そんなこと分かってるわ。なんで最初にぶつかった時に膨れなかったの」
「はい、運転と安全係数の算出に全精力を注いでおりましたので、そのう、ついその緩
衝バックのことを忘れてたもんで・・・」
「なんで今頃、膨らんだの!?」
「はい、気は心と言いまし・・・」
「あほーっ! トンチキ! グズ! ウスノロ! ガラクタ! ポンコツ!」
 ノバァ火山が爆発した。そして僕も頭に来た。
「ヘボ! どじ! グズ! クズ!」
 あーいい気持ち。文句を言えるのは生きてる証拠だ。
 そんな僕達をノリスは楽しそうに見ていた。
 だけど、あまりにも嬉しそうなノリスの笑顔が僕の心の端に引っ掛かった。

 そして、そんな僕たちは落ち着いていられる立場ではなかった。
 本当の敵が僕たちを狙っていたことを、その時の僕らは知らなかったのだ。

                (パート完)
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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