AWC 『殺しとキスとセーラー服』(7)旅烏


        
#537/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG     )  87/12/ 3   7:23  (101)
『殺しとキスとセーラー服』(7)旅烏
★内容

下校時間の直前に私と芳夫君が、今朝校門で取り上げられた生徒手帳を返してもらいに
職員室に揃って入って行くと・・・

数学の若い先生が「お、来た来た・・3年B組の噂の二人か?」と、笑いながらこっち
を見ている。

どうやら、私たちの事は職員室でも話題になっているようだ。

「小林と後藤は、家が隣同士なんだってな?」

渋そうなお茶を飲みながら担任の先生が真剣な表情で聞く。
私は下を向いたまま神妙に答えた。

「はい、ただの偶然ですけど・・」

「まぁ、仲が良いのはかまわんが、あんまり大っぴらにやられるとクラスの好奇心の的
になるから、注意しろ・・・
それから・・・その・・なんだ・・・」

先生は、そこで急に声をひそめて・・

「これは念のために聞くんだが、まさか本当にお前達はCとかDとかの関係じゃ無いだ
ろうな?」

私は、思わず声を張り上げた。

「先生!お医者様に行って証明書を貰ってきましょうか?」

先生は慌てた様子で回りを見回して、「分かった分かった・・もう帰ってよろしい」と
生徒手帳を二人の前に差しだした。

下校の途中では、私がもっぱら芳夫君にあたりちらした。

「もう、頭にきちゃう!先生まで疑ってるんだから・・・少しは相手を見てものを言え
ってのよ!」

「俺じゃ相手に不足だって事か?」

「いいこと、このまま私がオールドミスになったら、全部芳夫君のせいですからね・・
とんでもない噂がたったせいだわ」

団地に帰ってくると、折悪しく芳夫君のお母さんは丁度パートに行っていて留守なので、しかたなく私の部屋で傷の手当をする事になった。

「それにしてもバカねぇ、教室であんな大喧嘩するなんて・・」

「どうせ俺は、腕力だけのアホですよ・・・ふん、誰の為にこんな目に会ったと思って
いるんだ」

「イテテテ・・重傷なんだから、そっと優しくやってくれ・・・」

赤チンを顔の擦傷に塗りたくると、さすがに沁みるとみえて芳夫君は顔をしかめた。
「濡れてると沁みるから、吹いてくれよ・・・」

「やぁよ、またギョーザを食べたな?とかなんとか言うから」

救急箱の中に薬を片付けながら、「芳夫君、なぜあんなに怒ったの?」と聞くと、「久
美子がDラインになったら、なんて失敬な事を言いやがったからな・・ちょっと頭にき
たんだ」

私は、それを聞いてなんとなく嬉しい気分になった。

「ナイト気どりで、派手に喧嘩なんてするから痛い目にあうのよ」と言いながら、赤チ
ンだらけの芳夫君に顔を近づけて、いちばん大きな擦傷の有るおでこの辺りに息を吹き
かけてやった・・・

「つ、ついでにちょっとキスしてくれると、痛みが飛んでいくんだけどなぁ・・」

「このぉ・・調子にのるなっ!」

私は掌で、腫れている芳夫君のおでこをピシャッと叩くと、救急箱を持って立ち上がっ
た。
ついでにちょっと、なんて全く乙女心を解しない発言だ・・・
救急箱を台所に片づけて帰って来ると、芳夫君は余程痛かったのか、まだ、ものも言わ
ずにおでこを抑えて畳にうずくまっている。

「オーバーね、いつまでそんな格好してるの?」

「お、お前なぁ・・・みろ!涙が・・・」

やはり相当応えたようである・・

「よーーし、このお返しは久美子のファーストキスを頂く事で帳消しにしてやる・・そ
のうち必ずキスしてやるからな・・」

「いつまでもバカな事言ってないで、ちょっと頼みがあるんだけど耳を貸して」

私は、今朝から考えていた有ることを芳夫君に耳打ちした。

「久美子、そりゃ危ないよ・・・兄さんに任せたらどうだ?」

「駄目よ、確実な証拠なんて全然無いんだから・・・警察まで呼んで、もし間違ってた
らこの団地に居られなくなるじゃない」

「しかし・・・うーーん、凄い推理だなぁ・・・それで、もう刃物は確認したのか?」

「自分の目で、見てみる?」

それから、二人はそっと部屋を出て一時間ほど帰って来なかった。





前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 旅烏の作品
修正・削除する コメントを書く 


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE