AWC 『殺しとキスとセーラー服』(8)旅烏


        
#538/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (LAG     )  87/12/ 3   7:27  (126)
『殺しとキスとセーラー服』(8)旅烏
★内容

その頃、警視庁の捜査本部では捜査会議が行なわれていた・・・

「鑑識課の報告をまとめますと、凶器は長い鋭利な刃物で日本刀のようなものと推測さ
れます。
そして殺害場所は死体のあった窓の所で、血液の飛散状況から見ますと窓の外に首を差
し伸べたところを一刀の元に斬り落とされたものと思われます」

それを聞いた佐竹警部は、眉間にしわを寄せて「まさか、はいどうぞと首を差し出す
バカは居るまい」と吐き出すように言った。

「首の切断個所は、きれいにスッパリ切れていました・・殆ど一刀の元に切り落とされ
たものだと言う事がはっきりしています」

「ホシが室内で斬って、窓の外に首を捨てたんじゃないのか?」

「いいえ、頚動脈を完全に切断しますと心臓の動いているうちは、水道のように血液が
噴出しますから室内に飛散してすぐ分かります」

状況としては、窓の外で待っていて被害者が首を出したところを一気に切り落としたと
いうのが、矛盾の無いところではある。
会議室にはタバコの煙が充満して、膠着状態が続いた・・・凶器の見当もつかないし、
殺害方法も断定できないのでは犯人が分かる筈もない。
論点が聞込みの報告に移って・・・

「被害者の交遊関係はどうだ?」

「はぁ、水商売関係者らしく相当男出入りは派手だったようです・・・
御存知のように最近も、あの団地で高田氏といい仲になってトラブルを起こしたのです
が、他にも有るようです」

「あの団地に変質者や前科のある人間はいたか?」

「少なくとも、事件のあった棟にはマエのある者は見あたりませんが」

「流しの犯行というのは考えられないか?」

「金品を物色した跡が全く有りませんし、それどころかホシが室内にいたという形跡が
全く無いのです・・・むしろ室内にはガイシャが一人で居た線が濃厚です」

捜査会議は、まさに小田原評定という様相を呈してきた・・
部屋の片隅で後藤刑事は欠伸をかみ殺している。
軽いノックの後でドアが細目に開いて、若い婦警がおずおずと顔を覗かせ「後藤刑事、
妹さんの友達という方からお電話です」と言った。

「会議中だと言って断わってくれ・・」

「先ほども電話が有りまして、そのように断わったんですが二度目の電話で、しかも急
用との事でしたので・・・」

後藤刑事は、しかたないなぁと言う顔をこしらえて、ゆっくり立ち上がったが内心はホ
ッとしていた・・・なにしろ2時間ぶっ続けで会議が続いていたのである。

「もしもし、久美子のお兄さんですか?隣の小林芳夫です・・・
久美子が殺人事件の容疑者と話をするって、さっき出て行ったんです・・・
口止めされていたんだけど、どうしても気になって・・・すぐ来て下さい!」

「あのバカ野郎!」

後藤刑事は電話をたたきつけるように切ると、インターホンで佐竹警部に連絡を取り、
コートを掴んで表に飛び出して行った。
その頃、団地の外れにある給水用の無人ポンプ室では、豆電球の明りの中で後藤久美子
と黒い影の人物が相対していた・・・

「どうして殺したのか動機は知らないけど、貴方が殺した事は分かっているわ」

「・・・」

「貴方は、花壇の立て札が鉄で出来ている事を知ってこれを凶器に使う事を思いついた
のよ・・・ギロチンみたいにね・・・」

「あっはっは、命知らずなお嬢さんだ・・なぁに、あの立て札は儂が作ったんだよ・・
初めはそんな事に使えるとは思いもつかなかったんだが、刃をつけると大変便利な道具
になってくれた」

「窓から首を出した小原さんめがけて、刃をつけた重い鉄の立て札を9階から落とした
のね?」

「そのとおりだ、実はあの日の昼間にあの部屋に忍び込んで、窓の外の手すりに一定間
隔で繰り返し鳴る目覚し時計をぶら下げておいたんだよ・・・
最近のは、止めないと10分間だけ段々電子音が高くなるという便利なものが有るから
な、誰だってそのうち気がついて窓から顔を出すさ」

「じゃあ、貴方はそれを取り返す為に私達と、あの部屋に行ったのね」

「そんなものが窓の手すりにブラ下がっていては、警察にすぐバレてしまうからな・・
ハハハ・・・まさか死体が、あんな窓際にそのままになるとは思わなかったんで、滴る
血にお嬢さん達が気がついて階段を上がって行くのを見たときは慌てたよ・・・
しかし、よく儂が犯人だと分かったな?」

久美子は、ニッコリ笑うと「だって、9階の部屋に入れるのは鍵を持っている管理人さ
ん以外に居ないんだもの・・・凶器が分かったら、すぐ犯人は管理人さんじゃあ無いか
な?って思ったわ、だけどどうやって小原さんを窓から首を出させたのか分からなかっ
たの・・・説明して貰って、やっと分かったけど」

「どうしてあの立て札が凶器だと分かったんだ?9階から落としたら上手く花壇の土に
刺さって、カムフラージュは万全だった筈だが?」

「昨日の雨でペンキの禿げた立て札の角が、赤く錆びていたのよ・・それでこれは鉄だ
と気がついたの・・・テレビのオーメンという映画もヒントになったわ」

黒い影は、人のよさそうな久野管理人であった・・・
しかし、人懐っこい目は豆電球の暗い光にギラギラ光り、冬だというのに汗でテラテラ
光っている顔は、変質者そのものの不気味さを見せている。

「あの時、お前らが高田の部屋に先に行ってくれて助かったのさ、あの時はまだ8階の
窓の外で目覚しがピーピー鳴っていた頃だから・・・10分てのは長いからな、お嬢さ
んが8階に行こうと言ったときは時間を気にして、ヒヤヒヤしたよ」

「どうして、あんな酷いことをしたの?」

「もう少し男と女の事を経験すると分かるさ・・・ションベン臭い小娘には分からない
事だよ」

「痴情関係のもつれなのね?」

「ワッハッハ・・こいつは愉快だ、お嬢さんが和江の身代りを努めてくれれば殺さなく
ても済むのになぁ・・・いや、残念だよ」

久野管理人は、そう言うと急に恐ろしい顔になりポケットから小型のナイフを取り出し
て、一歩久美子のほうに足を進めた。

「ち、ちょっと待ってよ・・・それでブスリとやる気?」

「多分、髭そりの為じゃないだろうな・・・ヒヒヒ」





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