AWC 来・訪・者(2) 翡翠岳舟


        
#529/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  87/12/ 2  19: 1  ( 84)
来・訪・者(2)                  翡翠岳舟
★内容
  任期が後2年ばかりとなったウインバートアメリカ大統領とTV電話で結ばれると
ティアックはまず現状の調査の進行がまだ始まったばかりであること、これから大掛
かりな捜査が必要であることを述べた。ウインバートは丸顔で脂ぎった皮膚を巧みに
動かして大袈裟に事態が深刻であることを政治的な意味というやつで表そうとしてい
た。が、朝ということもあってか、それは中途半端な感じで止まってしまい、まるで
ハロウィンのパンプキン・ヘッドのようになってしまった。ティアックは危なく笑い
そうになったが、顔の年によるしわによってなんとか掻き消した。
  「情況は分かった。」大統領は、髪をなぜる癖があった。この時も例外になく、首
を傾げては手を忙しく動かしていた。「しかし、早くそれがなんであるか、突き止め
てほしいのだ。もし、いまいましいロシア人のスパイ衛星・盗聴衛星・宇宙兵器であ
るとしたら、我政府は早急に事態に対処しなければならないのだ。」
「はいそれは分かっているつもりです。ただ、今の季節、宇宙観測の方に局員を総動
員しているもので、人事的なものもありますし・・・今後、軍隊との調整も必要かと
思われますので大統領の思われている期間では無理です。」
「どうしても、無理か?」
「はい。残念ながら。」ティアックは、鼻に下がってきた眼鏡を押し戻した。「しか
し大統領あせって過判断をするより、多少長くても正確なほうが良いのではないでし
ょうか?」
「多少か?多少という言葉の正確な数字はどれくらいだ?」
「4週間です。」
「長すぎる!」ウインバートはどの政治家がするように、手を大きく振って大声を上
げた。さながら二流のミュージカルを見ているようである。「それでは奴らにみすみ
すチャンスを与えるようなものではないか!本土内に″侵入″してきた物体に対して
我々はなんの防御もなくなってしまうのだぞ。もし、4週間の間に奴らが会見をして
″朋友アメリカ合衆国の皆さんに、多大なる迷惑といらぬ不安をおかけしたことをお
わびします″なぞと言われたら、我々は何にも手出しが出来なくなってしまうのだ。
いいとこ、2週間だ。それ以内に報告書をまとめるのだ。」
「しかしそれでは無理です!」
「無理でもやるのだ!」
「有能な人材が・・・」
「無いのか、宇宙観測局には。」
「これに適任した者は、です。違う畑にはいますが。」
「誰だ。必要とあれば採用するがよい。」大統領は完全に調子に乗っていた。
「分かりました。その者をプロジェクトの係とさせていただきます。」ウィンバート
が話をそっぽに葉巻の火をつけているを上目づかいに彼は見た。「元宇宙観測局副官
そして、現在民間天文通信会長ロバート・パウマンです。」
「なに!」
  大統領の一瞬、硬直した顔を恐らく忘れることはないであろう。自分達がようやく
払いのけることのできた厄介物を、しょい込むことになってしまったからだ。しかも
TV電話である。あらゆる盗聴機・記録機がまわっているなかで、彼はいってしまっ
たのだ。″必要とあれば採用すればよい″と。
画面が消えても、ティアックの狡猾な話術の前に倒れた大統領の顔がそこにはあった。

  ヘリの爆音の中で眠れるのはたかが知れていた。しかし、ただたんに彼の前にウィ
ロイドが座って日の当たりが悪くなっただけで目が覚めてしまったのだ。こんな眠り
では続けてもしょうがあるまい、デイウ゛ィットはそう思って毛布をはいだ。
  ウィロイドは軍人とは思えないきゃしゃな体つきだった。まぁ、軍隊の全員が″ラ
ンボー″であろう、という民間人の考えかたそのものが悪いのだろうが・・・聴いて
みるとやはり、通信士ということだ。なんでも、この辺の電波情況に明るくこの作戦
に抜擢されたそうだ。
  「腹はすかないかい?」ウィロイドの顔が日の光で金色に輝いた。
「ああ、〜なんかあるのかい?」
「あるよ。ここに」といって、すぐ後ろの資材ダンボールに手を突っ込んだ。「ホッ
ト・ドックだ。」
「どうも。」デイウ゛ィットは何故あそこにこんなものが入っていたか、聴かないこ
とにした。
「ホット・ドックがまだあったなんて・・・と思ってないかい?ホット・ドックはあ
の円いマフィンやハンバーガーにとって変わられちゃったのだけれども、決して味で
負けたわけでないんだ。」
「ふ〜ん。」
「あれは、ファースト・フードの(マクドナルドやそういった類いだよ)戦略上、商
品を随時暖めておくシステムによって暖かいとは名ばかりのホット・ドックよりハン
バーガーに流れていってしまったわけだ。しかしながら、これは設備の問題と、買う
人のイメージによる敗北だったのだ。味ではないのだよ。」
「味は僕が保証しよう。しかし、買う人のイメージというのは、まだだったと思いま
ますが教授。」
ウィロイドは初め、相手が皮肉をいったのかと思って厭な顔をしたが、それが単なる
ジョークであることに気付き、もとに戻った。「イメージというものは、物体にはそ
なわっているもので、例えば軍隊。たいていの人は、筋肉モリモリだと思っているけ
れど、私の友達にはいないね。これと同様、ホッド・ドックにもそういった事実とち
がうイメージがある階層ではつくられてしまったのだ。」
「と、いうと?」
「社会の構図の中で、中年とよばれる人達さ。ホット・ドックが栄華を極めていた頃
(と、言ってもほんの僅かな時間であったが)、若者は反社会行動にはしり、いわゆ
るヒッピーと呼ばれる階層ができた。彼らは道で行動し、道で暮らした−−−ホット
ドックは彼らの食物となり、(彼らだけが、食べたということではないが)ファース
トフードが市民権を受ける前であったため、若者を否定する階層が若者の常備食をも
否定したのだ。そして、時代は過ぎ去り、今ではだれでも朝はマックで済ませるとい
うことになったのだょ。」
「なるほどねぇ・・・」デイウ゛ィットは、パンくずをパンパンパンと払った。「社
会に翻弄された食べ物ね。」
「そう。物事みんな、そんなものさ。」ウィロイドは意味ありげな言葉を、明るくい
った。
  ヘリコプターは爆音を轟かせて、雪かぶる樹林帯の上を超低空で突き進んだ。




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