AWC 来・訪・者(1) 翡翠岳舟


        
#528/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (FEC     )  87/12/ 2  18:55  ( 73)
来・訪・者(1)                       翡翠岳舟
★内容
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  合衆国最高責任者大統領閣下へ                         緊急かつ重要

  宇宙観測局に入った通報によって、地上観察衛星″フュリップスII″で確認し
たところ、合衆国への落下物はロッキー国立公園内に着地した模様。残骸はかなり
広範囲に渡って飛び散っていると思われます。すでにNASAと空軍の協力を得て
現地への調査隊の編成を行っております。2、3日のうちに、現地に派遣させるこ
とができるでしょう。とにかく、やらせてみなければ、それが何であり、どこの国
のものであるかとしうのははっきりしませんので、早急に派遣したいと思っており
ます。共産圏の軍事的物体であるかどうかは、現時点では前記のとうり言うことは
できません。では何か分かり次第、連絡いたします。

                                        アメリカ合衆国宇宙観測局局長
                                              ティアック=モリアット

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  [プロローグ]
  朝日が煌々と天を焦がし、アスファルトの滑走路の霜が水となって赤く燃え始めて
いた。空港の設備はほとんどが眠っていたが、その中で航空灯と第34格納庫は眠気
のちょっぴり交じった人の息が渦巻いていた。5時になると、滑走路の脇の芝生へス
プリンクラーが朝一番のテスト噴射をして、風景が赤・黄に輝く霧に包まれていった
。そんな中、突如空を切るシュッシュという音が響き始めた。第34格納庫から黄色
い牽引車に引かれた中型ジェット・ヘリコプターがプロペラを回転させながら出てき
たのだ。それに続いて見送る作業員数十人がバラバラと現れた。牽引車はヘリの機体
を滑走路と平行にすると、すぐさま脇に引っ込んだ。ヘリはローターの回転数を急速
上げ、その爆音を轟かせる。そしてその音が頂点に達した時、カーキグリーンの機体
は浮き上がり、光の交錯する静の中、ロッキー山脈へと向かっていった。
  ヘリの中は意外に広かったが、宇宙観測局員であるデイウ゛ィットにとってお世辞
にも快適とは言えなかった。朝ということもあって、堅苦しい金属が一層体に辛く当
たっていた。さすが軍人は本業らしく、笑顔さえ出していた。デイウ゛ィットは悲観
のあくびをした。
このヘリに乗り込んだ宇宙観測局員はデイウ゛ィット、サハロフ、マックスの三人で
あった。彼らは昨日19時37分にロッキーに落下物があってから、本局から様々な
機械のコンテナとともに空軍基地に運ばれ、機器の動作をチェックし、ヘリコプタ−
への装着・積載を指示し終えるまで寝ていなかったので出発とともにグゥと寝入って
しまった。彼らは現地に着くまで、何の仕事もないのでだれも妨げはしなかった。あ
やつる機械同様、今は休養していて本番まで静かに運ばれるのが彼らのやるべき仕事
だった。
  兵士達はこの世でもっとも重要な宅配便の配達員となった。

  ブラインドから眩いばかりにこぼれる日の光を歓迎しながら、ロバートは冷えたコ
ーヒーを腹に流し込んだ。宇宙観測局副官としての任務は昨日にて終わったのだ。原
因はたいしたことではなかった−−−ロバートが研究に熱心すぎたのである。上に立
つものは、研究のみならず、経理面、政治面なども考慮しなければならない。しかし
彼には宇宙の研究と社会の風潮がなんの関連があるのか分からなかった。(経理は分
かったのだが)局長のティアックは、気のいい老人だった。科学の知識は一般人程度
であっても、我々からそれを吸収し事態を把握できるという素晴らしい人物であった
。それに彼を唯一見込んでくれた人間でもあった。局を辞めた後も、年に何回かはあ
いたいな、そう思った。
  ロバートがある種の快いノーマルな状態にひたっていたとき、フロアの入り口の電
話がなった。ロバートはソファから重い腰を上げて受話器を取った。
  「もしもしロバートです。」
「ティアックだ。君が退社してから大変なことが起こった。すぐきてほしい。」
「局長、私は辞めたんです!あの政府の馬鹿共がうるさいから辞めたのです!」
「とどけはまだ私の机の中にあって、人事課にいってないぞ。」
「・・・局長。」
「昨日23:45に、ロッキー国立公園内に金属性の落下物があった。現在調査中な
 のだが、ぜひとも君がその仕事にあたってほしい。」
「ふん、局長、それが共産圏のスパイ衛星デであろうが、巨大な隕石であろうが私に
はさして違いはありませんよ。政治の方はそっちで勝手にやればいい。」
「なにを子供みたいなことをいっているのだ?」
「私を無能扱いにした奴らの為に働くというのが、最高にいやなんです!」
「・・・君ならばと思ったのだが。すまなかったな。」
「・・・・・・・・・」
「じゃあな。たまには遊びにこいよ。」
  トゥートゥーという音が流れてきても彼は受話器を置かなかった。ティアックは私
のことを心配してくれて最後の仕事を与えようとしたのだ。落下物の調査であったら
局全体がやることでない。下層部の者にやらせれば済むことなの、わざわざ・・・・
・・・・・・
  彼はブラインドを上げ、新たなる出発を祝すかのような大自然の光に包まれた。光
のカーテンはかたりかけた。″いってらっしゃい″、と。




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