#526/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (HHF ) 87/12/ 2 15: 0 (115)
MARUS 《7》 ■ 榊 ■
★内容
ここから遠く、とおーく離れたところに、一つの大きな国家がありました。
長き戦争の後、統一を果たした巨大な国家でした。
その力は全宇宙に及び、人は皆平和に暮らしていました。
戦争のため、都市の改善・回復を進めるなか、勢力拡大が進められていきました。
その中、また新しい人種が発見され、開拓と同時に、接触が行われました。
赤い瞳をした人種でした。
彼らは原始的ではありましたが、比較的高度な知能を持ち合わせながら、強度な体を持っていました。
そして、何より友好的でした。
お互いに情報を交換し、こちらは技術を、そしてむこうは労働力を提供しました。
しかし彼らは、船を作る技術を知ると一変しました。
友好的だった態度はがらりと変わり、<国>に反抗的になりました。
最初は<国>も無視をしていたのですが、どんどん大きくなる彼らを恐れ、部隊を編成し、戦争が始まりました。
<国>は想像以上の苦戦を強いられたものの、ひとつの星ごときに揺らぐような規模ではありません。
赤い目の彼らは、全滅しました。
しかし、ある日、最後の戦闘区域だったところを通り過ぎた少女は、一つの機械機器を拾いました。
それを拾って調べて見た少女は、意外なことを発見したのです。
彼らは、全滅したように見せかけ、船を捨て、体だけランダムジャンプにより他の星に移っていたのでした。
そして、再度、立ち直しを試みたのです。
最後の手段だったのでしょう。
体だけのジャンプは技術がまだ中途半端なので、生身の体のみしかできないから、どうしようもない時に使うものですから。
何も持って、飛ぶことはできないのです。
「命だけは」と言うときにのみ使う、最後の手段なのです。
一番近い、人の住める所と言う条件で設定してありました。
そして、その星が、ここでした。
体制を立て直すために逃げた彼らでしたが、ここにはすでに国家が成立していました。
それもかなり巨大で、逃げのびた彼らだけでは倒せるものではありませんでした。
そして、彼らはその星の人になりすまし、時期を待っていました。
彼らは、自分達の技術を売り、世界を動かしてきました。
そして、彼らは、国をだまし、世界をだまし、「エンペリウム」を製作したのです。
特定の範囲のみの生物を抹消するミサイル兵器。
その誤差は小さく、威力は絶大でした。
彼らは、彼らの総員100人だけで倒せるだけの人を残し、後を全滅させました。
何故、人を全滅させなかったのでしょう。
おそらく奴隷のため、そして、殺戮を楽しむためだと思うのです。
そして、彼らの思いどおりの星となりました。
彼らが生きていることを知った少女は、<国>に訴えました。
しかし、百人程度となってしまった相手など、<国>は見向きもしません。
それでも、彼女は彼らを倒したかったのです。
なぜなら、その少女は彼らによって両親、そして恋人までが殺されました。
そしてその母はその星の人だったのです。
少女は、急いでその星に向かいました。
しかし、ついた時にはすでに遅かったのです。
その星は殆ど、自分達の力でで彼らを倒すことができなくなっていました。
元よりその少女には、彼らを倒す力も財力もありません。
しかし、彼女は解決を探すべく、この星の事をくまなく調べ上げました。
その結果、一縷の望みがある事が解ったのです。
この星の人は精神力が強かったのです。
そして、それを武器とする物を彼女は持っていました。
それを使えばこの星の人といえども、彼ら以上の実力を持つはずでした。
しかし、その武器は残念ながら、父の形見の一つ分しかありませんでした。
そして、最適の人物を一人選出し、その人に一人で戦ってもらおうと決心したのです。
しかし、それをその人が受けてくれるかどうかなど、彼女には全く解りませんでした。
何故なら、それを受けた人は、踏台の形となるのが解りきっていたからです。
一人で、倒せるだけ倒し、立場を逆転させるという単純な作戦でしかなかったからです。初めから、死ぬと解っていて受けてくれるでしょうか?
ですが、それしか方法がなかったのです。
彼女は決意しました。
彼に賭けてみることにしたのです。
そして彼女は、父の形見を胸にこの星に降り立ちました。
彼女の話は、始まる時も終わる時も静かであった。
静寂が、しばらく辺りを包んだ。
彼女は昔の何かを思い出したらしく、うつむいた。
俺は、事の真偽を確かめながら、頭の中で事態を整理していた。
混乱はしたが、辻つまは合う。
それに、すでに事態は頭の許容範囲を越えていた。
何があったとしてもおかしくない。
たとえ、彼女が自分は伝説の女神だと言ったとして、俺はうなずいたと思う。
この<崩れ>は、人間外の生物が作り出した兵器の痕跡。
そして、人がいなくなったのは、その兵器のせい。
そして、赤い目の男達は異邦人。
どうして、この程度の事が信じられないと言えよう。
彼女が何者なのかはよく解らない。
しかし、俺は彼女の話を信じることにした。
「その少女って言うのが、君か………」
彼女はこっくりとうなずいた。
「うん…………私の名前は、リルフィー………赤い目と同じ………宇宙人よ……」
「それで、一縷の望みってやつは………」
「…………………これ」
彼女は、ちょっと開いた胸の辺りの服の隙間から、腕輪ぐらいの二つのわっかを取り出した。
彼女は、それを見るために体を乗り出した俺に体を寄せてきて、その腕輪らしき物を渡した。
差しだした手の上に、二つの輪が転がる。
黒光りした、軽い素材でできた物。
細くて割れそうではあるが、細かな彫りが高度な技術を思わせた。
遥か彼方の文明が作り出した代物。
俺に理解できるはずがない。
「これは?」
「お父さんの形見………“アッカース”って言うの………手にはめてみて……」
「………ああ」
俺は、その輪を手に通し、手首の辺りにもって行った。
すると、急に輪が閉りだし、手首を締め付けた。
が、痛みはない。
やがて、輪はのめり込むほどの位置まで行って止まった。
やはり痛くはない。
いや、それよりも付けていると言う感覚すらない。
まったく、いつもの腕と変わらないような気がした。
気になって、腕を振ってみたりする。
「つ!」
肩辺りに激痛が走り、俺は思わず顔をしかめた。
「あん………まだ、治ってもいないのに、腕なんか振るから………黙って聞いていて」
「ん………ああ」
俺は苦痛に目を細めながら、彼女の言葉に従い、ゆったりとソファーに腰掛け、彼女の言葉に耳を傾けた。