#519/1850 CFM「空中分解」
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「紙飛行機」 第2話 メガネ
★内容
「紙飛行機」 第2話 メガネ
この病院に入院した5日後に手術をし、僕の盲腸は切りとられた。今僕はベッドの
上。患部が痛くてとても動けない。医者には遊ばれるし、学校は休んだし、パソコン
通信は出来無いし、学校には「酒井が妊娠した」という妙な噂が飛びかっている様だ
し…誰がそんなウソを! そうか、そその医者が怪しい。医者の癖に口の軽そうな奴
だったからな。退院したらみてろよ。病院の前で「万能薬」でも売って商売上がった
にしてやる。
しかし、入院生活というのも気楽でかなりいいもんだ。寝てるだけで3食ちゃんと
時間どうりに運ばれてくる。ま、未だ手術して2日しかたっていないから5分粥しか
でないが。そして、一番いい事には僕の恋人にいつも会える事だ。何しろここの看護
婦だから、ま、何というか、兎に角幸せだね。僕の部屋は個人部屋で、白いカーテン
や青い水差し、ふわふわ布団なんかは全て君が揃えてくれた。枕元には花も飾ってあ
るし。ただ、花が菊の花だというのがきにならないこともない。更にいうなら、病室
には白いものしか置いてはいけないという君の論理によって、菊の色迄が白いという
のは勘弁願いたかったが。ま、僕が動かなくても君が全てやってくれる。これは嬉し
い。こういうのを亭主関白っていうのかね。小さい友達も出来たし。隣の部屋にはい
っているガキだが。なかなか可愛い奴だが、何の病気なのか僕はしらない。確か名前
はあつしだったけ。飛行機が好きらしくていっつも飛行機の本をよんでいる。飛行機
の音がするとベットから身を乗り出して外の青空を見上げて、そのままの体勢でコン
クリートの地面にキスするなんてことも良くある。朝はうるさくて、僕はいつもあつ
しの声で目が覚める。だから僕の部屋に目覚ましは無い。あつしとはメッセージの交
換を良くする。紙飛行機の羽根に書いて部屋に飛ばしてやる方法だ。いつもあつしは
「来年の夏になったら元気になってるからキャッチボールをしよう」とか「お兄ちゃ
ん、今度ディズニーランドへ連れてって」とか遊ぶ事ばかり書いて来る。君は「他の
子供は元気に遊びまわってるのにあつし君だけ寝たきりなんて不公平だわ」と言って
何故か僕に八つ当たりをするのだ。確かにあつしは遊びざかりなのに、可哀想だと思
う。治ったらどこでも連れてってやるからな。やがてあつしの注射の時間がきて、部
屋から注射はいやだと泣き声がしてきた。情けない。男は泣くな。僕が余裕で注射の
番を待っていると、君が持って来たのはいつもと違ってやけに大きい。さすがの僕も
うろたえていると、君が「それじゃああつし君と一緒じゃないの。」と言った。
いつもの様に紙飛行機のメッセージを飛ばしてやろうとあつしの部屋を覗きこんだ
けど、からっぽだった。少し遅めの紫陽花の花が狭い花壇でゆれているだけだった。
その時、君の目が潤んでいたと僕は覚えている。僕は受け取る人のいなくなった紙飛
行機を外へ飛ばしてやった。
僕の手を離れた紙飛行機は雨上がりの空へ、あつしのもとへと舞いあがっていった。
紙飛行機 完
メガネ