#278/1850 CFM「空中分解」
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リレーA> 第10回 メガネ
★内容
リレーA> 第10回 メガネ
「サイボーグ…俺の体がサイボーグ…」
俺は屋上に上って日に照らされながら考えていた。
「もう俺は人間じゃないんだ…血の通っていない…機械なんだ!!」
健は耐えられない様な感情に襲われた。…絶望。こんな機械になった体で生きていく
よりはいっその事…。健は金網に手をかけた。
「待って!!」突然後ろで呼び声がした。
「ナオミ…いや、加奈か…?」
「バカな事を考えるのはやめて! あなたは立派な人間なのよ。機械なんかじゃない
わ!」
「しかし俺の腕や腹は…」
「やめて!!」 俺は加奈の突然の怒りに戸惑った。なぜこんなにも怒るのだろう。
「あなたが死んでしまったら…私…」 加奈の瞳は潤んでいた。健は焦った。
「え?」
「とにかくバカな事はやめて!!」 加奈は泣きながら走り去った。
「……………………。」 俺は何がどうなってどうしたら良いのか判らなってしまっ
た。俺は加奈に引かれる様に後を追って行った。
加奈を追って外まで出て来たとき、堤とバイカーンがなにやら話して居るのが目に止
まった。
「分った。私も協力しよう。」 言いながらバイカーンは右手を差し出した。
「…有難う。これからよろしく頼む。」 堤はバイカーンの手を固く握り締めた。
「堤さん、バイカーンも協力してくれるんですか?」 健は堤とバイカーンを見比べ
ながら言った。
「そうだ。たった今から我々は仲間だ。」 堤は笑顔をこぼした。
「あ、ところで堤さん…こっちの方にナオミ…いや、加奈さんが走って来ませんでし
たか?」
「さぁて? 見なかったが…何かあったのか?」 堤はけげんな顔をした。
「ええ、実は…」 俺はさっきの事をそのまま話した。
「そうか…」 堤は少し声を落して言った。
「でも、どうして加奈さんはあんなに怒ったんでしょうか。堤さん、何か…」
「あ、ああ…言おうか言わないでおこうかずっと迷っていたんだが…」 堤は健とバ
イカーンを寂しげに見ながら言った。
「やはり、言っておいたほうがいいだろう。…加奈は事故で死んだという事になって
いるな。」
「ええ、TVで…」
「うむ、実は加奈は死んでいないかも知れないのだ。」
「ええっ! で、でも…」 俺は極めて狼狽した。
「生身の人間なら死んでいたのかも知れないが…加奈は…加奈はサイボーグだったん
だ。」 堤の眼は何かを思い出しているかの様に虚空を見つめて動かなかった。冷たい
風が吹いてくる。
「加奈は中学生の頃、信号無視をしたトラックに跳ねられてな。直ぐに病院へ運んだ
のだが…体はボロボロで心臓も止まり、医者にも諦められてしまった。加奈とは小学校
からの知り合いで、死んで欲しくはなかった。絶対に! そこで俺は加奈の親にはない
しょで高倉源三の研究所へ加奈を運んだのだ。研究所へ走り込んだ時、加奈の脳だけは
まだ生きていた。そして加奈は高倉の手術を受けて…サイボーグになったのだ。脳以外
は全て機械に。加奈は助かったのだが…しかし…。」 堤はそれっきり黙ってしまった
。健は腕に冷たいものを感じた。
「…雨が降ってきたな…入ろうか。」 堤は歩きだした。
<つづく>